管理人
フォーラムへの返信
-
投稿者投稿
-
管理人キーマスター
2022年3月末に、都城市立図書館に行ってきました!
同図書館のサービスについては、同館作成のとっても素敵なパンフレットのほか、以下のような取材記事でもかなり網羅的に紹介されています。こうしたプロの記者さんたちの取材記事があふれている中で、網羅的なサービス紹介や経営・運営の目指すところをここでもう一度紹介することはやめておきましょう。
そこで本稿では、私(中村百合子)が同館を訪問して、図書館情報学者として考えさせられたところを、「同図書館の魅力はどこから作り出されているのか」という観点から整理してみたいと思います。
- 日本文化情報サイトIHCSA Cafeの「来館者殺到の「都城市立図書館」」(2019.02.15)
- みやざき情報まとめサイトの「都城市立図書館Mallmall(まるまる)のココがすごい17連発!実際に取材してきました!」(2019/03/11)
- 新・公民連携最前線の「図書館とイベント広場を核に年間約200万人を集客、都城市「Mallmall」:備品調達を民間に委託するなど、発注方式も工夫して空間の質を高める」(2019/06/18)
- Feel JAPANの「ショッピングモールが図書館に大変身!宮崎県都城市立図書館」(2020/01/20)
- 公共R不動産の「それぞれが認め合い、みんなの居場所になっていく。元ショッピングモールから生まれた「都城市立図書館」(2020/03/11)
リーダーシップ;人選;現場の裁量
株式会社マナビノタネ[2]の森田秀之さんがそれぞれに異なる才能をもつ方たちを集め、つなげ、信頼関係を構築していることが、案内してくださった副館長の前田小藻(あや)さんのお話しから伝わってきました。また、森田さんや館長さんなどが現場で働く人たちのやる気や能力を信頼しているから、現場にある程度の裁量権があるのだろうということもうかがえました。
私がアメリカ合衆国の図書館の専門職と話していると楽しいのは、彼らが自らの裁量で決めて動いているから。なにを聞いてもちゃんと答えてくれ、説得力があり、言い訳があっても笑って話せる。アメリカの図書館では、私の理解では、組織としての使命(mission)、方向性(vision)が決まれば、あとは中間管理職に(各専門職員にも程度こそ違えど)かなりの裁量権が与えられます。一方で、採用では、やる気と専門職としての使命感、倫理観、知識と技能などが十分に確認されます(そもそも専門職の人たちはよりやりがいのある職場を求めてよく移動する)。基本的な考え方としては、いい人を雇って裁量権を与えればうまくいく、ということになっている。
もともとは私は、正直に言って、PFIや業務委託が日本の公共図書館をよくするのかということについて懐疑的だったけれど、前田さんのように図書館専門職としてやる気と力のある人たちが、それらを認めてくれて発揮できるポストと適当なお給料を求めて移動できるような、開かれた図書館の労働市場を日本で実現することにつながるのなら、今の方向性で悪くないのかなと今回の訪問で改めて考えさせられました。(お給料の問題はどうしても残ってしまう気がするので、そこはもっと情報開示、開かれた議論がいる気がします。でも、これからはベーシックインカムの時代でしょう?!自分の好きなことに気づいてそれをしようとすることがまずだいじだろうとも私は思っています。)[3]
この図書館を訪れる人たちみながちょっと面白いなと思うだろうコーナーがあります。写真の「インデックス[さくいん]」棚。この棚に並んでいるのは長方形の木製のQRコードスタンプ。「霧島連山」の方は薄くなってしまって失敗したけれど、「焼酎」の方はうまくいっているので、ぜひこの記事を読まれた方も、ご自身のスマホでこのQRコードを読ませてみてください。出てくるのは、簡易的なパスファインダー、と言ってよいかな。
例えばパスファインダーを電子化しQRコードを提示する、までは、おそらく今の時代、誰でも思いつく。けれど、それをハンコにするというアナログ(手作業)に戻してくるアイデアはなかなかでないだろう!手触りや手仕事感覚が、やってみるととても楽しい。このアイディアを出した人は天才だし、それを実現させた人たちみんな(管理職リーダを含む)、素晴らしい。一人の力じゃ形にならないコーナーだなと思いました。
背景に、市長がいることはもちろん想像できますねえ。これだけのプロジェクトを森田さんたちに任せることができる市長。と思って調べてみたら、池田宜永市長さん、とてもおもしろい人みたいだ。都城市はふるさと納税の受入額が何度も全国一位になっていて(最新の2020年度の総務省データでもそう)、それもこの市長さんの作戦が効いたそうで[4]。ふるさと納税で税収アップが、図書館の充実にもつながっているのですね。
物理的な空間の余裕;開放感
今回、私は鹿児島市内から高速を使って行き、末吉財部ICで降りたのですが、降りたら、鹿児島市内とまったく異なる印象で、平野(盆地だそうですが)で広々としている(ちなみに鹿児島市内は山間の集落や山を切り崩した住宅街が多い)。そして、図書館もとっても広く、本がぎっちりと詰まっている、いかにも図書館という感じではなくて、むしろ、空間が余りまくっているようなところにほど良く什器が配置されていて、とても開放感があって明るい雰囲気なのです(床や壁はダークカラーなのに)。天井は高くはないけれど、書架(の間)にも空間があって先が見とおせるので、息が詰まる感じはありません。まさに、滞在したい、したくなる空間。
そして、各所に空間があるから、司書(職員)としてみれば展⽰をせざるを得ない。もちろん、もともと展⽰スペースとして設計されているところもあるけれど、動く⽊箱でどの空間(空⽩地帯)でも展⽰を作れるので、展⽰は司書なり図書館なりの最も重要な⽇常業務の一つだよねと最初から考えられているのではと感じました。”キュレーション”というキーワードが思い浮かびます。
この建物はもともとは商業施設だったそうですが、その中心にあったドーム屋根が、期せずしてヨーロッパの宗教建築や図書館建築によく見られるそれと同じように見えて、とても、建物を転用したとは思われないハマりよう。ただ、もともと商業施設だったため、書架が重すぎて1階に児童コーナとはならず、1階は一般書架になったと前田さんからうかがいました。いろいろと制限が無いわけじゃなかったということですが、総合的に見たら、この開放感ある雰囲気は、七難隠す(七つも難があるかわかりませんが)、でしょう。
さて、あと二つの見方から、都城市立図書館の魅力の源泉について考えてみたいのですが、長くなってきたので、ここでひと休みとして、「後編」に続けます。
(中村百合子)
[1] このガラス張りのショーウインドウについては、アネモメトリの取材に答えて森田さんが語っている。「これからの図書空間 2 宮崎・都城市立図書館」の「3」のページ。
[2] 注でもなんでもないですが、言い訳。2021年春に本サイト(TANE.info)を公開しようと準備していた時、「マナビノタネ」さんと名前が似てるよと教えてくださったのも、中山美由紀さんでした。でも、TANE.infoと名前を決めるまでのプロセスがあまりに大変だったので、貫きました…
[3] 最近、以下の文章を読んで、みんな、指定管理者制度の是非について、考え続けているのだなあとしみじみ思いました。この問題に対する私の態度は、「逡巡」という言葉がふさわしい。山本順一「図書館の生態系(15):’指定管理者制度’再考 善良な図書館現場の方とのやりとりから」『みんなの図書館』539号, p. 52-66, 2022.3.
[4] 池田市長についてはネットで検索するだけでもいろいろな記事が出てくる。最新のもので著者がおもしろく読んだのは、「都城市 民間との共創でふるさと納税を起点に地場産業を活性化」という記事(『事業構想Project Design Online』2022年1月号)。「都城が誇る日本一の肉(Meat)と焼酎に出会う(Meet)ことができる、ミートツーリズム」(笑)!!!いやあ…わかります。のんかたとナンセンス系言葉遊びやむやみに力強い標語づくりは南九州文化って感じがしますワ。
管理人キーマスター小牧龍太です。この連載では、まとめて「MLA施設」などと呼ばれることもあるミュージアム(Museums)、ライブラリー (Libraries)、アーカイブズ(Archives)を探究学習に取り入れる方法、実践例などを紹介しています。前回は、日本国内の機関が公開しているデジタルアーカイブを横断検索できるワンストップサーチ、ジャパンサーチの機能を紹介しました。特に、その中の「マイノート」機能は、自分の興味や問いを元に資料をキュレーションしていくために使うことができるツールです。今回は、キュレーションと探究的な学習との親和性について見ていきます。
デジタルアーカイブを使った探究学習
大井([1])、大井&渡邉([2])は、キュレーションを「膨大な情報の海の中から、自らの『問い』に基づいて、『問い』を解決したり深めるために適切な情報や資料を収集・選択し、そこに新たな意味を与え、他者と共有すること」と定義し、ジャパンサーチを使った授業をデザインすることで児童・生徒がこれを達成することができる、と論じています。ジャパンサーチに収録されているデジタル化資料を閲覧することから「問い」が生まれ、さらに、それらの問いの解決、議論の深化に必要な情報・資料をジャパンサーチで検索・収集できる。それに加えて、調べる過程で必要な資料、見つけたことの共有とディスカッションのために必要な資料もジャパンサーチを離れることなくキュレーションできる、という提案です。
参照元のスライドと論文では、「神名川横浜新開港図」を起点にした小学校での探究的授業、科目教科書を元にした中学、高校での授業の実践例が紹介されています。ジャパンサーチで検索、キュレーションできるデジタル化資料は、現状での提携機関や著作権の関係で江戸時代より前の古文書、古典籍、浮世絵などが多いため、これらを使った探究学習を考えるとき、まず思い浮かぶ教科は、参照元で報告されている実践例のように「歴史」かもしれません。ですが、連携機関のひとつである国立国会図書館のデジタルコレクションには明治、大正、昭和初期の書籍や図像なども含まれますし、政府の報告書などは基本的にオープンアクセスなので、大規模災害などに関しては比較的近年の資料も見つけることができます。また、古文書を利用した古地震の研究や江戸時代の料理の再現など、これらの資料を分野横断的な研究に使っているケースは学術の世界にもたくさん例があります。
学習成果の発表・共有にも
ところで、ジャパンサーチに備え付けられている「マイノート」機能では、資料のキュレーションを便利に行え、かつ、そこに「メモ」を追加することもできますが、実際に調べ学習の成果を発表、共有するときには、集めた一次資料を見せるだけでは足りないこともあるでしょう。議論の展開や、その根拠となった教科書の記述、論文の内容といった文字情報を見せたいことがあると思います。
そのような場合は、収集した画像をダウンロードして、パワーポイントのスライドに貼り付けたり、Google Sitesのような簡易的なウェブサイト作成ツールを使ってオンライン・プレゼンテーションを作ることもできます。近年のデジタル化資料は、以前作られていたものよりも大幅に高解像度、高画質で作成されており、再使用に耐えるものがほとんどです。([3])
また、ジャパンサーチは再使用時のライセンスについても利用者により分かりやすいものにするよう提携機関に働きかけており、まだ課題はあるものの、かなり明確で簡潔なものになりつつあります ([4])。特に、検索結果画面の左側のメニューで「教育利用」にチェックをつけて絞り込み検索を行えば、資料の所蔵者・公開者の許諾を得ることなく再使用可能なデジタル化資料だけを表示することができます。ただし、許諾がいらないのはあくまでも「授業の一環として」使用する場合であり、それ以外のときは許諾、あるいはライセンスの細かい確認が必要となるので注意してください。
より高度なプレゼンテーション
なお、大井([1])は、参照元スライドの中で、ジャパンサーチの「ワークスペース」機能にも言及しています。この機能を使うと、画像データの見せたいところだけをトリミングして表示したり、位置情報が付与されている資料を地図上に表示したり、年表を作成したりと、キュレーションした資料をより発表や共有に適したかたちに加工することもできるようです。ただし、この資料([4])によれば、ワークスペースは現在のところ提携機関にのみ提供されている機能とのことです。(ジャパンサーチの問い合わせフォームから相談すれば利用が認められることもあるようなので、興味のあるかたは直接問い合わせてみることをおすすめします。)
また、似たような機能は、米国のUniversity of Southern California(南カリフォルニア大学)で開発されたScalarというデジタル・パブリッシング・プラットフォームや、GIS(Geographic Information System)の大手であるEsri社がサービス展開しているStoryMapsというプラットフォームを使うことでも実現することは可能です。前者は無料で使えるものの、機能が高度で説明が英語のみ、後者は有料サービスであるというハードルはありますが……。
というわけで、前回と今回は、ジャパンサーチの「キュレーション」関連機能、および、キュレーションと探究的学習との親和性について見てきました。次回も、デジタルアーカイブをテーマに、IIIF(International Image Interoperability Framework)という国際的な画像共有のための枠組みを使ったキュレーションの方法を紹介します。
[1] 大井将生(2021)「学校教育で使われるアーカイブになるために:⼩学校・中学校でのジャパンサーチを活⽤した⻑期実践」(第4回東京⼤学学術資産アーカイブ化推進室主催セミナー「使われるデジタルアーカイブになるために」発表資料).
[2] 大井将生, 渡邉英徳(2020)「ジャパンサーチを活用した小中高でのキュレーション授業デザイン:デジタルアーカイブの教育活用意義と可能性」『情報アーカイブ学会誌』4巻4号,pp.352-359.
[3] 内容は英語で、また、ジャパンサーチではなく主にDigital Public Library of America(DPLA)からキュレーションした資料を使用したものですが、筆者が永井荷風の「酔美人」(『あめりか物語』所収の短編小説)と1904年のセントルイス万国博覧会について作成したデジタルプレゼンテーションの例がこちらにあります。Google Sitesを使用して作ったものです。
[4] 高橋良平, 中川紗央里, 徳原直子(2021)「ジャパンサーチにおける二次利用条件整備の取組」『デジタルアーカイブ学会誌』5巻s1号,pp.s40-s43.
管理人キーマスター東山由依です。これから、「アメリカの学校図書館基準を学ぶ」をテーマに連載をしていきます。本連載では、2020年12月に実施したオンラインセミナーでの報告をもとに、同基準の概要を、わかりやすく、全4回で改めて紹介します。オンラインセミナーの記録はこちらに公開されているので、そちらもあわせてお読みください。
世界には、学校図書館についての情報や活動を発信している団体があります。そのうち最も有力な組織のひとつが、アメリカ・スクール・ライブラリアン協会(American Association of School Librarians: AASL)です。AASLの前身は、アメリカ図書館協会(American Library Association: ALA)内に1914年に創設され、1951年に部会になりました。特に部会になって以降は、学校図書館界で強いリーダーシップを発揮して、世界にさまざまな情報を発信し続けています。
AASLは、1920年より、約10年ごとに学校図書館基準を発表しています。2018年には最新の学校図書館基準『学習者、スクール・ライブラリアン、学校図書館の全国学校図書館基準』(National School Library Standards for Learners, School Librarians, and School Libraries)が出版され、新基準についての概要と学習者基準のフレームワークを示したパンフレット(英語のオリジナル版)が無料でインターネット上に公開されました。
本連載では、その無料で公開されたパンフレットの翻訳プロジェクトに携わった筆者が、AASLの新アメリカの学校図書館基準について紹介します。初回となる今回は、新基準の構成について紹介します。日本の学校図書館ガイドラインにも簡単に触れますので、アメリカにおける学校図書館の基準(standard)とはどのようなものなのか、イメージをもっていただけたらと思います。
なお、新基準については、現時点では以下のような論考が発表されていますので、こちらも参考になさってください。
・中村百合子(2018)「米国学校図書館員協会による新学校図書館基準<文献紹介>」『カレントアウェアネス-E』no. 343.
・中島幸子, 坂下直子, 大城善盛(2020)「AASL「新学校図書館基準」の概要と意義」『Journal of I-LISS Japan』vol. 2, no. 2, p.12-22.
・大城善盛, 坂下直子(2020)「学習者, 学校図書館員, 学校図書館のための全米学校図書館基準:フレームワークを中心とした分析」『図書館界』vol. 72, no. 2, p. 89-95.
・柳勝文(2020)「教育時評266 新しいアメリカの学校図書館基準(1)」『学校図書館』vol. 842, p. 54-55.[2021年5月号まで続いた全6回の連載]
過去の基準の歴史についての概説には、以下があります。
・中村百合子, 河野哲也(2022)『学校経営と学校図書館』樹村房(「第6章 学校図書館の歴史(アメリカ)」, p. 75-103.)
AASL新しい学校図書館基準の概要
今回の新しい基準は、以下のように全4部、15章構成となっており、巻末資料を含めると314ページあります。
- 第1部:導⼊と概要
- 第2部: 基準統合フレームワーク(探究、包摂、協働、キュレート、探索、関与)
- 第3部:達成、成⻑を評価するための細やかなアプローチ
- 第4部:現実にありえる状況を描いた事例
第1部では、学習者のための基準、スクール・ライブライアンのための基準、学校図書館のための基準の三つが示されています。続く第2部では、学習者、スクール・ライブラリアン、学校図書館の三者を対象にした基準をまとめて別の角度からみた「基準統合フレームワーク」が提示されています。別の角度というのは、具体的には三者が共有する六つの基盤ごとに基準をみるということで、基盤のそれぞれで章が立てられています。第3部では、学習者/スクール・ライブラリアンの成長や、学校図書館を評価する方法が紹介されています。そして、第4部では、専門職として働くうえで実際に起こりそうな事例を学べるシナリオが紹介されています。学区のリーダーや各学校のスクール・ライブラリアン等が基準をどのように行動に落とし込んでいくかについてのヒントとなるかもしれません。
最新版の基準は、学習者、スクール・ライブラリアン、学校図書館三者の基準を示しながらも、学習者の基準を中心においています。2007年の「21世紀の学習者のための基準」と同様に、学習者のための基準のエッセンスは、別刷りのパンフレットとして無料で公開されました。
学校図書館の基準とは
アメリカの学校図書館基準は、当時の社会情勢、教育や学校図書館に関する研究の動向も反映しながら策定されています。また、近年は学校図書館の役割だけでなく、21世紀に求められる学習者像についても、広く一般に共有されるように作られています。
日本では、2015年6月に「学校図書館の整備充実に関する調査研究協力者会議」が設置され、学校図書館の整備や人材の配置状況に学校間、地域間で格差がある現状に対して学校図書館基準の作成の必要性が検討されました。その後、協力者会議における計8回の審議を経て、2016年10月に「これからの学校図書館の整備充実について(報告)」が公開され、同年11月、文部科学省より「学校図書館の整備充実について(通知)」の別添資料として「学校図書館ガイドライン」が示されました。このガイドラインは、法令にもとづいて定める「基準」という形ではなく、「学校図書館の運営上の重要な事項についてその望ましい在り方を示す」ものと冒頭に述べられ、学校図書館を利活用するための図書館資料の充実や、運営する教職員の役割について述べられています。
「学校図書館ガイドライン」は以下の構成になっています。
- (1)学校図書館の目的・機能
- (2)学校図書館の運営
- (3)学校図書館の利活用
- (4)学校図書館に携わる教職員等
- (5)学校図書館における図書館資料
- (6)学校図書館の施設
- (7)学校図書館の評価
以上をふまえると、日本の学校図書館ガイドラインとアメリカの学校図書館基準では、基準の位置づけや構成面で異なっていることがわかります。日本のガイドラインでは、“学校図書館で子どもたちにこういう力をつけてほしい”ということには紙面が割かれておらず、学校図書館を通して身につく学習者のコンピテンシー(行動特性)については言及されていません。ここがアメリカの学校図書館基準との大きな違いのひとつといえるでしょう。
今回は、アメリカの学校図書館基準と日本の学校図書館ガイドラインの構成について紹介してきました。次回はアメリカの学校図書館基準の変遷と新基準の特徴についてみていきます。
管理人キーマスター中村百合子です。今回は、筆者らが2019年夏に札幌で開催した国際シンポジウムでの、カナダのアルバータ大学(University of Alberta)のJennifer L. Branch-Mueller教授の発表をもとに、同大学の修士課程の初等教育専攻に置かれるティーチャー・ライブラリアンの養成教育を3回に分けて紹介します。Branch教授のオリジナルの発表原稿(英語)はこちらにあります。また、彼女が開設している、同大学のティーチャーライブラリアン養成プログラムを説明しているサイトはこちら(英文)です。
ちなみにアルバータと言えば、学校図書館関係者の間では、Focus on Inquiry: A Teacher’s Guide to Implementing Inquiry-based Learning(Alberta Learning, 2004)(仮に『探究に焦点をあてる:探究にもとづく学習を導入するための教員向け手引き』と訳してみます)が思い浮かぶ方が多くいらっしゃるでしょう。同書の著者は二人で、本報告のもととなる発表をしてくださったBranch教授と、彼女の先輩教員のDianne Oberg名誉教授です。同書については、日本でも、徳岡慶一氏、足立正治氏、桑田てるみ氏ら、河西由美子氏による論考で検討対象となったり(注1)、自主研究会で取りあげられたり、学校図書館現場で実践を生み出す際に参照されたり(注2)して、注目されました。(すでに同書刊行から20年近くが経ったというのも感慨深いです!)
アルバータ大学はカナダのアルバータ州の州都であるエドモントンにある州立大学で、美しい都市型キャンパスでありながら、キャンパスの中には川が流れるという恵まれた環境にあり、Branch教授は、研究型のこの大きな大学に勤務できて幸運だと思っていると最初に自己紹介をされました。なんと、同大学には17の学部・研究科があり、学生数は45,000人に及びます。教育学部・教育学研究科だけでも、約5千人の学生がいます。その中には、初等教育、中等教育、教育政策研究、教育心理学、図書館情報学(School of Library and Information Studies)の専攻課程が置かれています。
カナダでは、ティーチャーライブラリアン(「teacher-librarian」が学校図書館専門職の呼称として一般的)のために国が資格を定めているということはなく、それになろうと思ったら選択肢は次の四つになります。
- 図書館情報学修士号(MLIS)を取得する(アメリカ図書館協会の認定校から取得する)
- 教育学修士号(Master of Education)を取得する(ティーチャーライブラリアンシップ(注3)を中心に学ぶ)
- ティーチャーライブラリアンシップのディプロマを取得する(課程修了証を手に入れる)
- 学校図書館スペシャリストのサーティフィケートを取得する(資格を取得する)(注4)
カナダにはアメリカ図書館協会の認定校が7校ありますが、そのどこにも、ティーチャーライブラリアンシップを専門とする正規職の教員がおらず、ティーチャーライブラリアン養成のための教育プログラムがありません。アルバータ大学のティーチャーライブラリアンシップに焦点をあてた教育学修士号の学位プログラムと、ブリティッシュコロンビア大学のディプロマのプログラム(同プログラムの英語のページ)のみが、カナダ国内でティーチャーライブラリアンシップを専攻できる本格的な教育プログラムです。最も人口の多い州であるオンタリオ州では、教員が学校図書館スペシャリストになるのに、複数の選択肢があります。が、大学の単位科目ではなく、学区や大学が提供する継続教育の専門的な科目を学修することになっています。
アルバータ大学の教育学修士号は、完全にオンラインになっていて(コロナ禍前から)、10科目の学修が要求されます。それぞれの科目は3単位科目で、1学期に39~42時間の授業時間になります。1科目は約1,200カナダドル(日本円で約113,000円)であり、図書の購入が求められるとしても、100カナダドル(約9,400円)以下ということになっています。科目によっては、教科書の購入が求められず、大学図書館の契約するデータベースから入手可能な研究や論文のみを用います。
教育学修士号のプログラムには必修科目が二つあります。一つは、カリキュラムに関する入門科目で、カリキュラムについての歴史や現代の問題を扱います。もう一つは、教育に関する研究への入門科目で、教育についての研究をクリティカル(批判的)に読んで活用することができるようになるためのものです。その科目の主な課題は、学生が自ら選んだ一つのトピックについての文献レビューを書くことです。この2科目の他に、八つの選択科目を学位取得のために修得します。この修士号プログラムの中で、ティーチャーライブラリアンシップに関心をもつすべての学生のアドバイザーである私は、学生たちの学習ニーズに合うように、科目選択についてアドバイスします。学校図書館での実習は必修ではありません。学生はみな、担任や教科教員をしていたり、すでに学校図書館で働いていたりするので、実習を必修にすることは不可能です。
私たちのプログラムに応募してくる学生たちのほとんどは、現職者です。校長先生にティーチャーライブラリアンシップの役割に異動することを勧められて、ティーチャーライブラリアンが実際に何をするのかについてもっと学ぼうとして入学する学生にしばしば会います。多くの学生は、過去に私たちのプログラムにいた人や修了した人から紹介されてやってきます。
入学の条件としては、平均B(3.0)以上の成績を60単位以上でとっていること、教育学の学士号、そして3年以上の教員経験が必要です。実際には、5年以上の教員経験をもっている学生がほとんどで、中には10年、20年の教員経験をもつ学生もいます。入学志望者は教育学修士号のプログラムで何を学びたいかを書いた文章を提出します。また、管理職から、過去に指導を受けた教員から、学区のリーダーから、三通のレファレンス・レター(推薦状)の提出も求めます。
学生たちはカナダの各地からやってきます。ほとんどはカナダ国籍です。しかし、留学生もカナダ人の学生と同じ額の学費です。教員やティーチャーライブラリアンとしてインターナショナルスクールで働く学生もいます。私たちの学生はみな、フルタイムで働きながら学び続け、各学期に一つのオンライン科目を履修しています。秋学期(9~12月)、冬学期(1月~3月)、春学期(5月~6月)、夏学期(7月~8月)のすべての学期で科目提供をしています。春と秋は6週間で、秋と冬は13週になっています。ほとんどの学生は3年間をかけて教育学修士号を取得しますが、最長で6年間の在学が可能です。多くの学生は一度もキャンパスに来ないまま卒業します。修了式くらいは来てほしいと思うのですが…というのがBranch教授の弁。
現在(2019年夏時点)のところ、20名の学生がティーチャーライブラリアンシップに焦点をあてて学んでおり、教育学修士号のプログラムには150名以上の学生がいます。博士課程には約30名の学生がいます。過去5年の間に、ティーチャーライブラリアンシップに焦点をあてて学んで教育学修士号を取得した学生は50名以上です。一方で、ティーチャーライブラリアンシップについて研究している、終身在職権をもつ(つまり有期雇用でない)教員はBranch教授だけであり、科目担当講師の雇用が必要になっています。近年は以下の4人の先生方にいらしていただいています。最初のお二人は図書館情報学修士号と学校また/または公共図書館を専門として博士号を取得している方です。外国籍の教員はこの四人の中にはいません。
- Dr. Dianne Oberg(過去、同プログラムの教授であった方。現在は名誉教授)
- Dr. Joanne Rodger(非常勤講師で、医学・歯学部のカリキュラムのスペシャリスト)
- Dr. Lois Barranoik(ティーチャーライブラリアンを退職した方)
- Lissa Davies(卒業生で、ティーチャーライブラリアンとして働いていた方。現在はエドモントンの公立学校のための学区のコンサルタント)
今回はアルバータ大学のティーチャーライブラリアンの養成プログラムの概要を紹介しました。次回はその教育の内容を紹介します。
(注1)徳岡慶一「「探究」型学習に関する一考察:カナダ・アルバータ州教育省教師用手引き書”Focus on Inquiry”の分析を通して」『京都教育大学実践研究紀要』第8号, 2008, p. 119-128.;足立正治「「探究」を促進する学校図書館」『カレントアウェアネス』No. 297, 2008.9.20.;桑田てるみ編著, 眞田章子, 庭井史絵, 野村愛子, 五十嵐卓司, 大木理恵子, 木之下瞬, 黒瀬卓秀, 法土明子, 山佐知子, 山田英雄, 唐澤智之著『思考力の鍛え方:学校図書館とつくる新しい「ことば」の授業』静岡学術出版, 2010.;河西由美子「情報リテラシー概念の日本的受容:学校図書館と情報教育の見地から」『情報の科学と技術』67巻, 10号, p. 514-520, 2017.
(注2)例えば、庭井史絵「学校教育のなかで図書館を活用するために:中学校図書館での実践を振り返って」『コンピュータ&エデュケーション』Vol. 48, 2020, p. 31-36.
(注3)ライブラリアンシップ(Librarianship)は長く、「図書館学」と訳されてきました。よって、ティーチャーライブラリアンシップ(teacher-librarianship)を簡潔に訳すなら、「学校図書館学」と訳すことができます。ただし、この翻訳については議論しようとすればいくらでも議論できそうです。私(中村)は「司書職」と訳したこともあります。
(注4)ディプロマ(diploma)よりもサーティフィケート(certificate)の方が求められる単位数は一般に少なく、ディプロマの方が上位資格とみなされます。
管理人キーマスター宮澤篤史です。本連載「多文化サービスと多文化共生」では、公共図書館を対象に社会学的研究を行う筆者が、多文化サービスの歴史や展開、実践例、および研究動向を紹介し、「多様性」「多文化共生」といった言説・取り組みへの批判的視点について書いていきます。多文化サービスの理念を参照した第1回に続き第2回では、多文化サービスの展開について概説します。
国際的な多文化サービスの展開
まず、多文化サービスが国際的にどのようにして展開してきたのかについてみてみます。移民に対する図書館サービスはアメリカでは20世紀初頭からすでに始まっていました。ですが、その内容はマイノリティの「同化」[注1] を促進するもので、マジョリティの言語や文化を主流としたサービスに過ぎなかったのです(日本図書館協会多文化サービス研究委員会,2004)。
そうした同化を目的としたサービスから、地域社会の多様性を反映したサービスへと転換していくのは、第二次世界大戦終結を待つことになります。転換の社会的背景には、①アメリカにおけるアフリカ系アメリカ人を中心とした公民権運動の発展とそれに引き続くマイノリティ住民の民族意識の高揚、②国際的な労働力移動の活発化などが挙げられています(小林・高橋,2009)。つまり、マイノリティ当事者による要求と、社会内部のさらなる多様性の増大という、二つの方向からの影響が多文化サービス発展の背景にあったといえるでしょう。当初の多文化サービスの取り組みは、民族的・文化的に多様な背景を持つ利用者に対する母語での資料提供でしたが、図書館員の試行錯誤のなかで、多文化サービスの内実は充実していくようになります。
多文化サービスに関して国際的に協議し、指針を定める場がつくられたのは、1977年のことです。多文化サービスの理論的指導者となるカナダ国立図書館のマリ・ゼリンスカ(Marie F. Zielinska)が中心となり、IFLA(国際図書館連盟)本部に申し入れがなされると、ワーキング・グループの発足(1980年)、ラウンド・テーブルへの昇格(1983年)を経て、IFLA東京大会(1986年)では分科会(Section on Library Services to Multicultural Populations)として認められました(日本図書館協会多文化サービス研究委員会,2004)。この1970年代前後という時期は、カナダとオーストラリアでの多文化主義政策採用の時期(それぞれ1971年と1978年)とも重なります。そして、この東京大会での多文化サービス分科会をきっかけに、日本でも「多文化サービス」が認識されるようになります。同分科会は以降、多文化サービスへ向けた「ガイドライン」の作成を行っています(1987年。1998年と2009年に改版)。
日本における多文化サービスの発展
次に、日本での展開をみてみましょう。戦後日本の図書館では、全国的には多文化サービスが取り組まれていたとは言い難い状況にありました。1970年代から個別的な取り組みはみられたものの(東京都立中央図書館による中国語資料、韓国・朝鮮語資料の収集、関西の私設図書館を中心とした在日コリアンに向けた図書館サービス)、民族的・文化的に多様な背景を持つ利用者への日本の公共図書館界全体としてのサービスが欠如していたとされています。
続く1980・90年代には、多文化サービスということばの誕生、各種団体の発足や「多文化サービス実態調査」の実施など、マイノリティ住民へのサービスに向けた展開を徐々に見せ始めます。戦後日本での多文化サービスの欠如が指摘され、「多文化サービス」ということばが用いられる契機となったのは、多文化サービスが初めてIFLA大会で分科会として認められた1986年の東京大会多文化サービス分科会です(小川・奥泉・小黒,2006;小林ほか,2016;日本図書館協会多文化サービス研究委員会,2004)。同分科会にて、私設図書館が行政の支援なく多文化サービスを実施していること(=公的な多文化サービスの不足)への指摘を受けると、「多文化サービス実態調査」の実施(1988年)、「多文化・識字ワーキンググループ」(1991年)と「むすびめの会(図書館と在住外国人をむすぶ会)」(1991年)[注2] の発足へと展開していきます。
2000年代以降は以上の展開を受け、「多文化共生」政策の実施と重なりながら多文化サービスへの社会的な認知が高まる時代となります。多文化サービスに関する体系的な書籍(『多文化サービス入門』)が日本図書館協会より出版されると(2004年)、日本各地での「多文化共生」政策の広まりと重なるかたちで、各自治体図書館での多文化サービスも広がりを見せていくようになります。特に、2017年にドキュメンタリー番組「アイ アム ア ライブラリアン ~多国籍タウン・大久保~」(NHK)にて放送され、大久保図書館(東京都新宿区)の先進的な多文化サービスの活動が映し出されたことで、多文化サービスという図書館の活動の社会的認知がさらに高まることとなりました。
障害者サービスと多文化サービス
多文化サービスの展開の理解のためには、以上のように時系列的に多文化サービスをみると同時に、障害者サービスとのかかわりも知る必要があります。
図書館の障害者サービスは、「障害者であるがゆえに図書館の利用に際して不利益があってはならない」(日本図書館協会多文化サービス研究委員会,2004:5)という原則のうえに成り立っています。この考え方は、個人が持つ固有のものとしての障害という認識ではなく、図書館利用の権利をもつすべての利用者に対する「図書館側の障害」という認識から「障害」をとらえなおそうとしているのです。これに基づき、障害者サービスの考え方では心身に障害をもつ人に加えて、高齢者や学習障害者、受刑者など、さまざまな理由で図書館の利用に困難を抱える人々を図書館利用における「障害者」として認識するようになり、「外国人」もその範囲内に位置付けられるようになりました(日本図書館協会多文化サービス研究委員会,2004)。実際、1988年と1998年の「多文化サービス実態調査」は日本図書館協会障害者サービス委員会のもと実施されました。
このように、障害者サービスのひとつの分野として多文化サービスが位置づけられることをおさえることで、多文化サービスのもつ「住民の権利保障」の視点を理解することができます。多文化サービスは多文化・多民族化の過程のなかで発展してきたのは示したとおりですが、「住民の権利保障」という点でみれば多文化サービスは、図書館として特別ではない「普通の」サービスであるといえるでしょう。
[注1] 同化とは、文化や行動の様式を共有し、同質的な文化や伝統をもつにいたる過程をいう。支配集団(マジョリティ)の文化を移民など少数者集団(マイノリティ)に強要する政策を同化政策という(『社会学小辞典』より)。
[注2] 現在は、「むすびめの会(図書館と多様な文化・言語的背景をもつ人々をむすぶ会)」。
[参考資料・参考文献]
阿部治子,2019,「日本の多文化都市における図書館の取り組みーー「多文化サービス」のあゆみと「安心の居場所」であるための提言」渡辺幸倫編著『多文化社会の社会教育ー公民館・図書館・博物館がつくる「安心の居場所」』明石書店,107-121.
濵嶋朗・竹内郁郎・石川晃弘編,2005,『社会学小辞典〔新版増補版〕』有斐閣.
相関図書館学方法論研究所編,小林卓・川崎良孝・吉田右子・アンドリュー・ウェルトハイマー・安里のり子・沈虹・中山愛理・三浦太郎著,2016,『マイノリティ、知的自由、図書館:思想・実践・歴史』日本図書館協会.
小林卓・高橋隆一郎,2009,「図書館の多文化サービスについて:様々な言語を使い,様々な文化的背景を持つ人々に図書館がサービスする意義とは」『情報の科学と技術』59(8): 397-402.
日本図書館協会多文化サービス研究委員会,2004,『多文化サービス入門』日本図書館協会,198 p.
小川徹・奥泉和久・小黒浩司,2006,『公共図書館サービス・運動の歴史2ーー戦後の出発から現代まで』日本図書館協会.
東京都立図書館,2019,「外国語資料を調べる」東京都立図書館ホームページ,(2022年2月13日取得,https://www.library.metro.tokyo.lg.jp/search/research_guide/foreign_language/).
管理人キーマスター「ザッザー、ザッザー、ザッザー!」絵本の表紙を見たとたんに一人の子が大きな声で言い出した。このイラストからは、確かにそういう音が聴こえてきそうだ。大きな川の流れの中で腰までつかっている少年。彼は静かにうっすらとほほ笑んでいるように見える。
「『川のように話す』ってどういうイメージだと思う?」と聞いてみた。少し考えた末に、子どもたちには「スラスラ―」という答えが多かった。中に「キラキラ」というものもあり、光輝くイメージを感じている子もいた。
『ぼくは川のように話す』(原題 I Talk Like a River)は、吃音で悩む少年が主人公だ。人前で話すのって、勇気がいる。まして、発音に苦手な音があったら・・・
教室では、うしろのせきでちぢこまっている。 あてられませんように、って思いながら。 先生がぼくをさすと、 みんなが、いっせいにふりかえる。
こんな気持ち、誰しも一度は経験あるのではないだろうか。
とりわけ、彼にとってこの朝はつらかった。なぜなら、
学校では、 毎朝ひとりずつ、 世界でいちばんすきな場所について 話すことになっていた。 きょうはぼくのばん。 でも口が どうしてもうごかない。 もううちへかえりたい。
学校でいやな思いをした日に、父親が少年を川へ連れだした。
そこで少年は父からの言葉と川に救われる。そして、もう大丈夫だと思える。決して彼の吃音が直ったわけではない。カナダの大自然の中で、それこそが自分なのだとありのままの自分自身を受け入れる瞬間が訪れたのだ。
川が大海をめざすように、このストーリーがタイトルにたどりつく道程に心を動かされる。原書では、特に最後の2行が印象的だ。
I talk about the river. And I talk like a river.
最初の文の「川」は、自分のお気に入りの場所”the river”であり、その次の「川」はこれからも少年を支えてくれるゆるぎないイメージの”a river”である。
なぜ少年がそう思えたのかは、ぜひ絵本で確かめていただきたい。文章と絵のコラボレーションが素晴らしい。
作った二人がこの作品について語った動画はこちら⤵。絵を描いたシドニー・スミス氏は、主人公の不安な心理をどう絵の描き方で反映させたかやストーリー上重要なシーン(見開きになっている)の川の絵を20ヴァージョン以上描いたとエピソードを紹介している。
さらに注目したいのは、この作品はジョーダン・スコット氏の個人的な体験から生まれたという点である。「ぼくの話し方」というあとがきで、吃音についてこのように解説している。
どもる人は、ひとりひとり、みなちがうどもり方をします。吃音に、たんなる吃音というものはなく、それは言葉と音と体がからみあった、とても個人的な苦労の塊です。(中略)ぼくはときおり、なんの心配もなくしゃべりたい、「上品な」、「流暢な」と言えるような、なめらかな話し方であればいいのに、と思います。でも、そうなったら、それはぼくではありません。 ぼくは、川のように話すのです。
スット氏自身の朗読はこちらで⤴、朗読の後で参加者が自分の吃音を自分の言葉で表現するのが興味深い。「私のは、アイス・キューブみたい」「ペンギンみたい」「ローラーコースターみたい」「風のよう」などと次々出てきて、みな詩人のようだった。社会で吃音への理解を深めるためにも、この絵本は多くの人に読んでもらいたい。
(青栁啓子)
管理人キーマスター放送大学の塩谷京子です。ここでは、探究のプロセスを切り口として、毎回一つのトピックをもとに、学校現場のエピソードを交えながら連載しています。読者の皆さんが、「探究のプロセスと日々の授業」とをつなげて考えてみる機会になるようなトピックを、毎回選んで書いていきます。
第3回のトピックは、「ゴールをイメージする」です。
小学校3年生が、総合的な学習の時間で、富士山に住む動物を調べ図鑑を作る活動をしていました。
「富士本動物図鑑」作成がゴールですが、そもそも、どんなことを書けばいいのかが子供にはイメージできません。そこで今日は、お手本として図鑑を見に図書館にやってきました。
図鑑を見ながら、子供たちは、「目次と索引があるよ」「写真や絵があり、近くに説明もあるね」と、次から次へと気づいたことを発表していきます(写真1)。
ふと、ある児童が、「これ何?」と、指をさしました。A先生が、「これは何でしょう?何のためにあるのでしょうか」と問いかけました(写真2)。すると、子供たちは、食い入るように図鑑の周りを読み始めました。
読んでいくと、これはシルエットと言って、人の大きさに対して恐竜がどれくらいの大きさなのかをイメージするための図ということがわかりました。
シルエットの意味は分かっても、子供たちの表情は、シルエットが何のためにあるのかがピンときていないように、私からは見えました。
子供の表情が一気に変わったのは・・・、
「シルエットに書かれた人は、170 cm」と書いてあるのを見つけ、「170 cmの人って、この学校にいる?」となり、校長先生が170 cm代であることがわかり、校長先生を目の前にして、
「校長先生をシルエットの人とすると、この恐竜はこんなに大きい!!」
「この恐竜は、こんなに小さいの?」
と、手を広げて大きさを示したときでした(写真3)。
図鑑は紙面の制約があります。恐竜の大きさは本当はみな違いますが、恐竜の大きさを数字以外で伝えることは容易ではありません。子供は、シルエットがあることで、実際の大きさを自分の手を広げてイメージすることができたのです。図鑑から本物の恐竜が飛び出してきたような、そんな実感があったかもしれません。
このような学びの後、A先生は「皆さんが作る富士本動物図鑑にはシルエットは必要ですか?」と問いかけました。子供たちは自分が調べた動物を見ながら、「大きさが違うから必要」「大きさはほとんど同じだから必要ない」と、選んでいました。そして、「目次・索引は必要ですか?」と続きます。これから作る図鑑のイメージが徐々に出来上がっていく時間でした。
探究の過程を進めていくときに、ゴールをイメージする授業、例えば、レポート、パンフレットなどの展示を見たり、先輩のプレゼンテーションやポスターセッションを聞いたりすることは、一般的に行われます。国語の教科書にも、アウトプットの事例が丁寧に書かれています。A先生は、図鑑という表現形式を提示したものの、どういうパーツを使うのかについては、子供に選択の余地を作っていました。選択の場を設定するというちょっとした工夫が、子供のゴールイメージをより具体的にさせた授業でした。
管理人キーマスター立ち上げ人の中村百合子です。私は、立教大学司書課程(図書館司書コースと学校図書館司書教諭コースがあります)の主任をしていますが、立教大学大学院文学研究科教育学専攻でも教えています(私の今の研究を高校生にわかりやすく紹介したウェブページはこちら)。過去にはそれで、主に本学の学部生の司書課程登録生や学部時代に司書課程に登録せずにいて大学院に進学して資格を取り図書館への就職の可能性を探りたい学生から、図書館研究のために大学院進学をすることについて相談を受けてきました。学外からの相談もたまに届きます。そこで、ここに、学部生もしくは学部卒者で、大学院での図書館、主に学校図書館研究を志す方のために、大学院進学についての簡単な情報提供をしてみます。
私自身、大学院から学校図書館研究を志しましたし、図書館研究の世界は、伝統的に、大学院からの進学者に対して門戸を開いている学問領域だと思います。これは、欧米(特にアングロサクソン系諸国)では、図書館情報学は応用科学(applied science)であり[1]、大学院から学ぶことが一般化していることに影響を受けているものと思われます。ですから、大学院から新たに図書館研究(図書館(情報)学)の専攻に移ることは、無理なことではありません。ただ、学部時代に一切の関連知識を得ていなくて(司書資格や司書教諭資格の取得に向けての科目を一切履修していないとか、情報学、メディア学、教育学等を一切学んでいない)、かつ図書館や情報機関、情報産業で働いたこともないという状況で、図書館情報学を大学院で学びたいと考えて入試を受けるとなれば、相当厳しいということは誰にでも想像できると思います。私が知る範囲では、アングロサクソン系諸国の専門職大学院である図書館情報学大学院に進学するのには、学部時代の学修経験の有無は一切、ハードルになりません(今は、本サイトにも記事をあげているように、すべてをオンラインで終えられる専門職養成プログラムも登場していますから、日本から入学して学び、修了することもできます)。しかし、日本では、ゼロから学修をスタートさせるような図書館専門職養成を主たる目的とする大学院は皆無といえ、まったく図書館に関わる学修や勤務の経験のない状態での大学院進学は、私の目にはかなり無謀にみえます。まずは、科目等履修生や通信教育でよいので、少し、図書館について学んでみたり、もしくは図書館で働いてみたりするのがよいと思います。立教大学司書課程も科目等履修生を毎年、2月に募集しています。
大学院進学の先は、専門課程としては、慶應義塾大学の図書館・情報学専攻と、筑波大学の人間総合科学学術院人間総合科学研究群情報学学位プログラムがまず選択肢になるでしょう。九州大学のライブラリーサイエンス専攻など、それ以外にも図書館情報学(関連)の大学院課程は全国にあります[2]。それから、東京大学の教育学研究科にある図書館情報学研究室や京都大学の教育学研究科にある図書館情報学研究室も、研究者養成の色彩が強いと思われますが、選択肢です。学校図書館についての研究ということになると、教育学の中の図書館情報学、さらには教育工学や教育心理学の研究室で学ぶことが大きな選択肢になってきます。そうなれば、東京学芸大学や大阪教育大学の大学院も覗いてみようかなとなりましょう。そうした多くの選択肢の一つが、私のいる立教大学大学院文学研究科の教育学専攻ということになります。
教育学の中で学校図書館研究をする、その進学先を検討する際には、以下に気をつけてください。
- 図書館研究者は1名~2名しかいないはずですから、師事したい教員を一人見つけるだけでなく、その他の領域にも学びたい領域や研究者があるかいるかを確かめましょう。大学院修了には、一定単位を修得することが必要ですから、一人の教員だけを目当てに進学先を決めると、進学の後に苦しくなる可能性があります。
- 教育学も図書館学も、教育や図書館を対象にしていることが前提で、日本の大学院では研究の手法を修得して修士論文を書くことになります(一方でアングロサクソン系諸国の専門職大学院では修士論文を書かない選択肢があります)。つまり、心理学や社会学、史学といった手法を学ぶ必要があります。例えば私の主たる研究手法は史学と(国際)比較図書館学で、特に日本とアメリカ合衆国の(学校)図書館史や両国の(学校)図書館の比較に関心があります。しかし、私の所属する大学院には教育”哲学”、教育”社会学”、教育”心理学”、”比較”教育学等に優秀な教員がいます。また、特に社会学については、社会学部があるので、進学後にそちらの(学部や大学院の)授業を受けることもできます。もし本学大学院文学研究科教育学専攻に進学して学校図書館や図書館を研究したいとなれば、研究手法の第一の選択肢は歴史研究と国際比較研究ですが、それらでなければ他の研究手法を身につけるために大学院では個人的に相当の努力をする必要があります。やみくもに研究の「テーマ」だけを考えていてもだめで、それをどうやって研究するのかという「方法」について考えることが、進学先を決めるときには必要です。これは、図書館情報学の教員が多くいる大学院に進学する場合も考える必要があると思います。研究手法をいかに修得するか、が大学院生活の一大テーマです。
そして、進学の先の就職先の問題です。今のところ、日本には数百の司書や司書教諭の資格付与を行っている大学が存在します。夏の集中講義や司書講習・司書教諭講習、通信課程もあります。ですから、そのどこかに一コマ二コマと非常勤講師として教える機会があるという話は、修士課程または博士課程を修了すれば聞こえてくると思います。ただし、雇用大学側は採用候補者に、大学院の修了証以外に、しっかりとした論文や著書があること、また/または、図書館現場での経験や実績を求めることがほとんどです。専業の研究者の道はそうした積み重ね(学部卒以降に最低でも10年の精進となりましょう)の先にしかないと言ってよいと思われます。一方で、図書館への正規職の就職では、大学院の学位が採用試験で考慮されることはあると思いますが、それが採用試験の得点に何十点も加点してもらえるような影響力をもつかというと…わかりません。むしろ、非常勤であれ、図書館での現場での経験や実績が、次の図書館への就職においては、大いに評価されるのではないでしょうか。
しかしそれでも、大学院で図書館について研究する人が増えてほしいし、全体としては増えているというのが私の印象です。Evidence-based librarianshipつまり科学的根拠にもとづく図書館実践が求められていることを、日本でも多くの人が認識しつつあるからだと思っています。政策決定もEBPM(evidence-based policy making)が基本になってきていますね。図書館を変えたい思いは、科学的根拠にもとづいた発言として、より多くの人から表現されるようになってほしいと願っています。(もちろん、これは図書館の思い出や思い入れの表現の価値を否定するものでは決してありません。)
ところで大学院生活ってどんな?ということを考えるとき、進学を考える大学院の説明会に行ったり、所属したい教員にコンタクトしたりすると思います。ただ、そういう行先個別の話の前に、どんなことが期待されているのかなあという姿勢のようなことも考えてみてほしいです。大学院という世界を想像せずに、学部の授業に出席していた時の感覚でいると…かなり違う世界が待ち受けています。理系の先生方の中には、ゼミや研究室の選択の参考になる情報をよく整理してウェブページで公開しておられる方がおられます。その中でも、(学校)図書館の研究を大学院でするかを考えるときにも参考になるだろうと私が思った三つのサイトを以下にリンクしておきます(並び順は単に私が読んだ順です)。
[1] このこと、筆者のプライベートのブログにチラっと書いたことがある。
[2] 図書館情報学の専門課程については、歴史の話が中心になっているが、吉田右子「第1章 図書館情報学専門課程の変遷:組織改革を通じた学の模索」『図書館情報学教育の戦後史:資料が語る専門職養成制度の展開』中村百合子,松本直樹,三浦太郎,吉田右子編著,ミネルヴァ書房,2015,viii, 1039 p., p. 53-103. が参考になる。
管理人キーマスター浅石卓真です。前回は学校図書館による資料提供の実際について、「先生のための授業に役立つ学校図書館活用データベース」の収録事例をもとに検討しました。
学校図書館で提供されている資料は、必ずしも学校図書館の蔵書だけとは限りません。むしろ、実際の授業での情報要求に応えるためには、学校図書館の蔵書だけでは不十分なことの方が多いと思われます。そのため学校図書館による資料提供では、他の図書館との資料の共有が必要となります。特に、学校図書館と比べて蔵書規模の大きい公共図書館と連携体制を構築しておくことで、学校図書館は大きな恩恵を受けることができます。
図書館間の連携が全国規模で展開されるのは、1990年代半ばから文部科学省が継続的に行なってきたモデル事業を契機としています。これら一連のモデル事業は、全国でモデル地域を指定して学校図書館の活性化を図り、その波及を目指したものです。モデル事業は学校図書館におけるコンピュータや情報ネットワークといったハード面の整備から始まり、蔵書情報のデータベース化と資料の検索・貸出・流通システムといったソフト面の整備を経て、学校図書館支援スタッフという人的整備へと変化してきました。この過程で、地域の公共図書館との資料貸借等を含むネットワークの形成が試みられています。千葉県の市川市や袖ヶ浦市の例が初期のものとしてよく知られています。
それでは現在、公共図書館と学校図書館との連携はどの程度行われているのでしょうか?学校図書館全般に関する調査として、文部科学省による「学校図書館の現状に関する調査」と、全国学校図書館協議会による「学校図書館調査」の二つがあります。前者は悉皆調査として隔年で行われており(2008年以前は毎年で、2016年以降しばらく調査が行われていなかったが、2021年に4年ぶりに調査結果が公表されました)、後者は都道府県ごとに3%の学校を無作為抽出して毎年行われています。以下では、文部科学省のウェブサイトで容易にアクセス可能な2004年度以降の「学校図書館の現状に関する調査」[1]を参照して、連携の現状を見てみようと思います。
図1(左上)は公共図書館と連携している学校の割合、図1(右上)は公共図書館から資料提供を受けている学校の割合の経年変化を示しています。参考までに、図1の左下・右下にはその他の連携形態である定期的な連絡会の実施、司書等が学校訪問を受けている学校の割合を示しました。図1(左上)から、公共図書館と連携している学校が増加傾向にあること、特に小学校では連携している学校が8割近くまで達していることが分かります。また、公共図書館と連携している学校の割合は、概ね資料貸出を受けている学校の割合と連動しています。小学校で特に連携が多くなされているのは、中学や高校と比べると蔵書数が少なく、資料提供では必然的に公共図書館との連携が前提になるためと考えられます。
公共図書館から学校への資料提供の目的は、学習支援と読書支援に大別されます。前者は調べ学習用の資料、後者は学級文庫や朝の読書用の資料提供がそれぞれ典型です。学習支援のための資料提供としては、「環境問題」「国際理解」といった特定のテーマの資料を予め用意しておき、それらを提供する試みが挙げられます。金沢(2018)は、公共図書館のWebページを分析して、学校への団体貸出の約半数が、上述したようなセット貸出であると指摘しています[2]。このセット貸出は、同じテーマについて資料提供が毎年求められる場合には有効と考えられます。他にも類似の試みとして、国立国会図書館国際子ども図書館による学校図書館セット貸出があり、そこでは世界の地域ごとの資料が貸出用に用意されています。
これまで『学校図書館』『図書館雑誌』等の機関誌では、公共図書館の司書が出張して教員への研修を実施したり、児童・生徒を対象とした学校図書館の利用ガイダンスを行ったり、指導案の作成を支援したりといった事例が多数紹介されています。しかし全国的に見れば、学校の教育課程に踏み込んだそのような取り組みは一部にとどまっており、主たる連携は資料の相互貸借です。これは、それだけ学校現場のニーズがあるためと思われます。なお、ここまで「連携」という言葉を使ってきましたが、これまでの事例を見ると、資料・人的資源・設備の貧弱な学校図書館を公共図書館が全面的にバックアップしている事例が圧倒的に多く、「連携」というより「支援」という方がふさわしいようです[3]。なお私立学校の場合は、公共図書館との連携はあまり行われていないようです。
引用文献:
[1] 文部科学省「学校図書館の現状に関する調査結果」(最終アクセス 2021/09/23).
[2] 金沢みどり「日本の公共図書館の学校支援 Web ページの現状と意義」『教育情報研究』 vol.34, no.3, 2018, p.3-18.
[3] 岩崎れい「学校図書館をめぐる連携と支援:その現状と意義」『カレントアウェアネス』 no.309, 2011, p.23-28.
管理人キーマスター安藤幸央です。本連載では「探究」のための各種ツールとその活用方法を紹介していきます。連載「探究」のためのツールを手に入れる第2回は、さまざまな画像検索ツールを取り上げます。
検索というと、まずは単語や言葉での検索が思い浮かびます。検索エンジンGoogleで検索することを「ググる」と動詞化することも、そう珍しいことではなくなりました。2019年に出版された三省堂の『現代新国語辞典(第6版)』には追加された新語約1,000語の中に「ググる」が採用されています。最近では、比較的簡単なものであれば、文章でも検索できるようになってきています。例えば「池袋にあるうなぎの聖地」などと検索すると、有名な鰻店が見つかります。
何か探したいとき、検索したい時に適切な言葉が思い浮かべば良いですが、いつもそうだとは限りません。言葉では説明しづらいもの、そもそも名前を知らなかったり、思い出せなかったりして言葉ではうまく検索できない場合もあるでしょう。言葉では説明が難しくても画像や写真、または実物が手元にあり、その詳細を知りたい場合、「画像」や「写真」を検索対象として情報を探すことができます。目的や用途によって適切なツールは異なりますが、いくつかそれらのツールを紹介しましょう。
Google画像検索
Googleで何かを検索する場合「池袋 うなぎ 絶品」などと複数のキーワードで検索するのが一般的です。言葉で検索する際は、できるだけ単語の数を多く指定して検索するのが目的の情報に素早く達するコツです。「うなぎ」の例でも単に「うなぎ」で検索するよりも「池袋 うなぎ」、さらに「池袋 うなぎ 絶品」や「池袋 うなぎ 安い」と検索する方が目的の情報に素早くたどり着けることがわかるでしょう。
さらに手元にある画像や、写真に写っているもの、SNS等からコピーした画像ファイルなどを検索対象としてネット上にある類似の画像を探し出すことができます。
Google画像検索では、手元にある画像がネット上のどこに掲載されていたのか?似たような画像は何なのか?画像に写っているもの(商品、風景、建築物、人物等々)は何なのかを平易に調べることができます。
ハナノナによる花の写真の検索
千葉葉工業大学人工知能・ソフトウェア技術研究センターが開発した無料アプリ「ハナノナ」では、大量の花の写真を機械学習した人工知能を活用し、写真から高い精度で「花の名」を調べることができます。
こういったツールの活用により、普段は見過ごしてきたこと、わからずに放っておいたことに対する興味や知識、探究への興味を広げられることが実感できます。
画像共有SNS Pinterestの物体を指定した検索
気に入った画像を壁にピン留めするような感覚でコレクションできる画像共有SNSのPinterestでは、写真の中に写っている物を検索対象として、情報を探し出すことができます。
Googleアプリ、Googleレンズ、Googleフォトによる画像読み取り
スマートフォンを活用すると、さらに画像検索の幅は広がります。Googleが提供している無料アプリ、Googleアプリ(iOS/Android)、Googleレンズ(Android)、Googleフォト(iOS/Android) を活用すると、写真に写っているものを検索対象として情報を探し出すことができます。
過去に撮影した写真などの場合も「Googleフォト」アプリで画像検索することができます。ここで紹介した三つのアプリに搭載されている画像検索の機能は「Googleレンズ」と呼ばれ、利用シーンや使い勝手は異なりますが、機能的、性能的には同じものです。
「Googleレンズ」には、手書きの文字や本などの印刷物から文字を読み取ってくれる機能や、自動翻訳の機能、数式を読み取ってくれる上にその答えまで分かる宿題機能、食事の写真からレシピを検索する機能など、単なる画像検索からさらに一歩進んだ検索が可能です。日本語が読めないネパール出身の店員が勤めるカレー店で、日本製エアコンのリモコンに書かれた文字をネパール語に翻訳するために「Googleレンズ」を使ったところ、その未来的な仕組みに驚いていました。
新聞の写真を調べる
New York Timesでは、Googleと協力し、過去の報道写真をデジタルアーカイブするプロジェクトが進められています(参照:「写真裏面の情報も保存 ―― New York Times が所蔵する数百万枚のアーカイブ写真を Google Cloud でデジタル化」)。ここで重要なのは、写真そのものデジタル化も大切ですが、写真の裏面に書かれたメモ、いつの新聞に掲載されたのかを示すスタンプなどを一緒にデジタルアーカイブすることで検索性や再利用性を高める工夫がなされていることです。
日本の新聞社も、次のような報道写真のデジタルアーカイブを公表しはじめています。掲載写真の利用は有料ですが、時事ネタを探したり、昔の出来事を調べたりする際に役立つことでしょう。
- 毎日フォトバンク:https://photobank.mainichi.co.jp/
- よみうり報知写真館:https://database.yomiuri.co.jp/shashinkan/
- 朝日新聞フォトアーカイブ:https://photoarchives.asahi.com/
ここで紹介した検索ツールの他に、形状をスケッチしたら検索できる仕組みや、似顔絵を描いたら似た人や、漫画を検索する仕組みなどが研究開発されています。今後、ありとあらゆるものが探せるようになってくることでしょう。
管理人キーマスター立教大学の小牧龍太です。この連載では、まとめて「MLA施設」などと呼ばれることもあるミュージアム(Museums)、ライブラリー(Libraries)、アーカイブズ(Archives)を探究学習に取り入れる方法、実践例などを紹介します。いずれは地域のミュージアム、図書館、アーカイブズを活用するための方法なども提案していきたいと思っていますが、まずは、デジタルアーカイブの話から始めます。デジタルアーカイブを使った「キュレーション授業」が探究的な学習に効果的である、という報告例があるためです ([1], [2];これについては次回もう少し詳しく触れますが、気になるかたは、いま出典のスライドと論文を読んでいただいてもいいかもしれません)。
「デジタルアーカイブ」とは、主に、「ある機関が所蔵資料をデジタル化し、データベースに登録し、幅広い利活用を目的としてウェブ上に公開しているもの」です。和製英語では、という話もあり、こまかく定義しようとするとややこしかったりもするのですが、ここでは割愛します。「デジタルアーカイブ社会」を目指すという国の方針 ([3]) もあり、近年、多くのミュージアム(博物館、美術館、科学館……)、図書館、アーカイブズなどによって作られているほか、学術資料を所蔵する大学、研究機関などでも公開が進んでいます。
さて、雨後の筍のように林立するデジタルアーカイブ、どこに何があるのか、そもそも、デジタルアーカイブ自体をどうやって探したらいいかわからない。そんな課題を解決し、デジタル資料の利活用を促進するための取り組みのひとつに「ジャパンサーチ」というものがあります。今回はまず、このジャパンサーチの機能をいくつか紹介します。
横断検索、ギャラリー
ジャパンサーチは、第一には、さまざまな分野のデジタルアーカイブと連携し、ワンストップでの横断検索を可能にするものです。たとえば「富士山」に関するデジタル化資料を探したかったら、ジャパンサーチ1カ所で検索を実行するだけで、連携している71機関148データベース (2022年1月25日現在)に収録されている資料の中から「富士山」に関係するものをすべて見つけ出すことができます。各施設・機関が公開しているデジタルアーカイブをまず探し出し、それぞれで検索を実行し、検索結果を見比べ、とりまとめる、という手間がなくなります。先行する同様の取り組みに欧州のEuropeana、米国のDigital Public Library of America(DPLA)などがあります。
このジャパンサーチ、横断検索だけでなく、あらかじめプロのキュレーターによって、あるテーマにそってキュレーションされたコレクションを閲覧できる「ギャラリー」という機能もあります。ここから教材を見つけることもできるかもしれません。
マイノート
さらには、個人の探究のテーマに沿ってデジタル資料をキュレーションしていける「マイノート」という機能も存在します。ノートへの登録は、検索結果や詳細表示画面に表示される「ハート」のアイコンをクリックするだけで完了し、画面右上の、当初は「最初のノート」という文字が表示されているところをクリックすると登録した資料のリストを見ることができます。ハートのアイコンはSNSでは「お気に入り」や「いいね」のことが多いですが、ジャパンサーチでは「ノートに登録」なんですね。ノートは異なる表示形式を試してみたり、内容を整理したりすることもできます。
このマイノートはウェブブラウザの機能を使って情報を保存しているので、ユーザー登録などをしなくても気軽に利用できます。一方で、使用中のコンピュータ外への保存やブラウザ外への共有のためには「エクスポート」という操作をしなくてはならないので注意が必要です。
というわけで、今回は、ジャパンサーチの基本的な機能と、すでにキュレーションされたコレクションを検索・閲覧できる「ギャラリー」、自分の興味や問いにしたがってキュレーションを行える「マイノート」を紹介しました。次回は、「キュレーション」と「探究的な学習」との間には親和性がある、ということについて見ていきます。
[1] 大井将生(2021)「学校教育で使われるアーカイブになるために:⼩学校・中学校でのジャパンサーチを活⽤した⻑期実践」(第4回東京⼤学学術資産アーカイブ化推進室主催セミナー「使われるデジタルアーカイブになるために」発表資料).
[2] 大井将生, 渡邉英徳(2020)「ジャパンサーチを活用した小中高でのキュレーション授業デザイン:デジタルアーカイブの教育活用意義と可能性」『情報アーカイブ学会誌』4巻4号,pp.352-359.
[3] デジタルアーカイブジャパン推進委員会・実務者検討委員会 (2020)「3か年総括報告書: 我が国が⽬指すデジタルアーカイブ社会の実現に向けて」.
管理人キーマスター中村百合子です。この連載第3回、第4回では、世界最先端の図書館情報学大学院であるサンノゼ州立大学情報学大学院(SJSU School of Information)のティーチャーライブラリアン養成のプログラム(Teacher Librarian Program)を紹介しました。この連載第5回では、ティーチャーライブラリアン(teacher librarian)とスクールライブラリアン(school librarian)の違いを整理します。この二つの英語の職名については、シンポジウム当日にも質疑応答で、日本側の聴衆の方たちと、主として北米からの発表者たちの間でにわかに通じ合えない状況が明らかになりました。
まず、これは繰り返し指摘されてきたことですが、
ティーチャーライブラリアン(teacher librarian)=日本の司書教諭 スクールライブラリアン(school librarian)=日本の学校司書
ではありません。
アメリカ図書館協会(American Library Association)の下部組織であるアメリカ・スクール・ライブラリアン協会(American Association of School Librarians: AASL)は、学校図書館の専門職のタイトル(公の名称)として「school librarian」を2010年に正式に採用しています(注1)。しかしそれは、日本語で文字どおり「school = 学校」「librarian = 司書」→「学校司書」とするとかなり違和感があります。
AASLはスクールライブラリアンとなる人がまず修得するべき専門職学位の選択肢として次の二つをあげています。どちらにしても、修士号の取得がスクールライブラリアンの要件なのです。実際には、州政府が学校図書館担当者の採用にあたり、AASLとは異なる基準を示している例は少なくなく、以下のいずれかの修士号をもたない人たちも北米の各地の学校図書館で働いてはいます(注2)。(カナダの学校図書館の状況については連載第6回以降で報告します。)
- アメリカ図書館協会(ALA)が認定するプログラムからの修士号学位
- 教育者準備認定評議会(Council for the Accreditation of Educator Preparation: CAEP)の認定する教育関係団体としてのAASLが認めたプログラムからの、学校図書館学(school librarianship)に関わる修士号学位(注3)
戦後、1950年に学校図書館法が成立し、学校図書館司書教諭の資格ができたとき、それが教員免許状を取得済の者に対して学校図書館司書教諭講習で付与される制度になったのは、post graduateつまり、学部卒者=学士または準学士に向けた課程として作られたということを意味します。現在、同法の”解釈”によって、現役の学部生や短大生が司書教諭資格の課程を履修できていますが、もともとの制度の作りとしては、現職教員の資格取得が想定されていたのです。この日本の制度設計には、米国のものが参照されています(注4)。
司書教諭は学校図書館法の第五条に「専門的職務を掌」るとされていますが、しかし、現在の学校図書館司書教諭講習は、専門職教育と呼べる内容にはなっていないのではないでしょうか。学部レベルで行われている教育はやはり学部生向けになりますし、多くの現職教員が参加し資格を取得する夏季の講習はいわゆる集中講義のように3~5日で実施されてます(注5)。また、2014年に学校図書館法改正によってその名称が法制化された「学校司書」には、養成モデルカリキュラムが文部科学省によって公開されたものの、資格は法制化されていません(注6)。前述のAASLの提唱する修士号レベルの養成教育とは大きな乖離があります。
サンノゼ州立大学情報学大学院での学校図書館スペシャリストの養成は、ティーチャーライブラリアンを冠していますが、これはスクールライブラリアンを掲げるAASLの動きとは異なりますね。これは、カリフォルニア州が学校図書館スペシャリストをティーチャーライブラリアンとして、独自の資格制度(Teacher Librarian Services Credential (CL-562))をしいていることによります。カリフォルニアだけで起きているというようなことではまったくなく、米国は州政府の権限が強く、教育は原則として州政府の管轄なので、こういうことが起きるのです。
このカリフォルニア州独自のティーチャーライブラリアンの資格は、その要件を次のように定めています。
- 学士以上の学位
- カリフォルニア州の教員資格
- 三つのティーチャーライブラリアンサービス資格の認定校(注7)の修了
この認定校には、サンノゼ州立大学情報学大学院のプログラム(California Teacher Librarian Services Credential Program, School of Information, SJSU)の他に以下の二つがあります。
- カリフォルニア州立大学ロングビーチ校(Teacher Librarian Services Credential)
学修の選択肢として、次の三つがある。 - 資格を取得するのみ - 教育工学とメディア・リーダーシップの修士号(Master’s Degree in Educational Technology and Media Leadership)の課程の中で資格を取得する - 記録に関わる指導者としてデジタルリテラシーや情報に関する理論を教えることができる特別な権限を得るための科目(同科目についての英語の紹介ページ)を資格取得の過程で一緒に学ぶ
- フレズノパシフィック大学(Teacher Librarian, CD)
SJSU同様、すべてオンラインのプログラム。文学(教育)修士課程の一環として履修することもできる。
米国は自治の原則により 、 日本の学校図書館法に基づく文部科学省の指導のような全国的な統一的措置はなく、学校教育のようなことでもあらゆる状況は州によって、地域によって異なります。最新(2015-2016年度)の全国データでは (注8)、全米の全公立学校の91%が図書館(室)またはメディアセンターをもっていると言います。有資格者の配置は、学校平均で0.7人ということですので、つまり、いわゆる学校図書館があっても必ずしも有資格者が配置されているわけではないようです。
今回話題としたカリフォルニア州は、全米で学校図書館への教職員配置が最も貧しいグループに属することは、かねてより知られています。回答率が43%(4,273校が回答)と高くない、同州の教育省によるオンライン調査(注9)ですが、2013-2014年度時点で、カリフォルニア州の公立学校で学校図書館を置いているのは84%。有資格のティーチャーライブラリアンを配置しているのはなんと!約9%の学校だけで、しかもこれにはパートタイムの方が含まれるということでした。そのほとんどは高校に配置されているということです。
2019年のシンポジウムでは、冒頭で述べたように、質疑応答で、ティーチャーライブラリアン(teacher-librarian)とかスクールライブラリアン(school librarian)とか言うとき、それぞれはどのような人のことを言っているのか、両者は異なるのかという趣旨の質問が出ました。登壇者たちは、それぞれが教えている大学院が出している州政府認定の学校図書館担当者の資格をもつ人のこと、もしくはAASLの推奨する資格水準(修士号レベル)を指して言っていたのでした。しかも、ティーチャーライブラリアン(teacher-librarian)とスクールライブラリアン(school librarian)を、人によってもしくはその時々で思いつくままに使っているというような返答でした(案外いい加減!)。北米の彼らにとって、学校図書館専門職とは、そのように、修士号取得者という単一なイメージがある程度は共有されているからです。日本のように、学校図書館に関わり専門的な知識技能をもつことが期待されるスタッフが二種類(司書教諭と学校司書)という考え方は、彼らにはあり得ません。資格について修士号レベルの有資格者か無資格者か、契約についてフルタイムかパートタイムかがあるという見方が一般的と思われます。
今回述べたようなカリフォルニア州の学校図書館の現実はそれはそれとしてありながらも,毎年45名程度がサンノゼ州立大学でカリフォルニア州ティーチャーライブラリアン資格プログラムを修了しているそうです(同プログラムの責任者のHarlan准教授からの情報提供による)。専門職ポストの数と学修して資格を取得したいという人たちの数の間に大きな乖離があるのは、カリフォルニアと日本で、同じ状況のようです。
(注1)[AASL] (2010), “AASL votes to adopt the professional title school librarian,” (accessed 2022-01-19).
(注2)次の一冊にまとめられたものをはじめとして、大城善盛がこのことについて継続的に関心をもって日本に紹介している。大城善盛,山本貴子著(2016)『21世紀の図書館職員の養成 : アメリカとオーストラリアを事例に』日本評論社.
(注4)中村百合子(2009)『占領期の学校図書館改革:アメリカの学校図書館の受容』慶應義塾大学出版会.また、根本彰の論考でも指摘されてきている。
(注5)学校図書館司書教諭講習についての研究は多くない。中村百合子(2020).「夏の司書教諭講習の実態:歴史的変遷と2016年の事例調査から」『図書館文化史研究』no. 37,p. 79-112.をとりあえずあげておく。
(注6)[文科省]総合教育政策局地域学習推進課,総合教育政策局教育人材政策課(2015)「「司書教諭」と「学校司書」及び「司書」に関する制度上の比較」.に三つの資格が簡潔に整理されている。
(注8)National Center for Education Statistics [2021], “FAST FACTS: Libraries,” (accessed 2022-01-19).
管理人キーマスター年が明けましたところで、オンライン国際シンポジウムへのお誘いです。今月28日(金)朝5時から7時(日本時間)に、Road to the Future: Discussion for Developing the International Children’s Literature Courseと題したシンポジウムを開催します。登壇者やプログラム、参加のお申し込みについては右のチラシをクリックしてください。使用言語は英語です(日本語への当日の通訳はありません)。
このシンポジウムは、2019年の8月に札幌で実施した、「Road to the Future: School and Children’s Librarianship 子どものための図書館サービス専門職養成の国際動向」と題したシンポジウムの続編です。この時のシンポジウムの内容は本サイトTANE.infoで【連載】世界最先端の図書館・情報スペシャリスト養成として報告していますが、アメリカ合衆国、カナダ、スペイン、そして日本の私たちが学校図書館と児童サービスの専門職養成の実際を報告しあいました。シンポジウムの後、登壇者のあいだで、互いの教育実践の向上のためになんらかの協力ができないかという話になりました。ざっくばらんな意見交換をとおして、特に児童文学という、養成や図書館サービス以上にすでに国際的な交流(流通)が起きている存在が、養成における国際連携を検討するテーマに最もふさわしく、またそこにいた全員が比較的わかりやすい形で利益を期待できるのではないかということになりました。
そのようなシンポジウム後の意見交換をベースに、国際児童文学論の国際的な協働によるシラバス及び授業実践の開発を実現しようと、2019年の秋以降、メールやオンラインの面談で意見交換を続けてきました。しかしコロナ禍に見舞われたこと、またおそらくそれ以上に、学年暦が異なる私たちにとって、シラバスを書き実際に授業を担当するという教育実践のサイクルや忙しさのピークのずれが、思いのほか議論の進展と意見の取りまとめの障害になりました。2019年のシンポジウムで互いの養成制度はわかったものの、それぞれの教員が実際にどのような授業実践をしているのかをよく知らないことも、シラバス執筆や授業実践での協力を難しくしていると実感されました。そこで改めてシンポジウムの機会をもち、それぞれの大学院や大学での児童文学に関わる授業実践を報告しあい、それぞれの授業実践の特徴や児童文学の国際性へのアプローチの違いを認識し、協働への手がかりを得ることを目指すことしました。
北米の児童サービスや学校図書館サービスの担当者の養成においては、外国や異文化に関わる資料は、長年、児童・ヤングアダルト向け多文化資料(multicultural resources for children and young adults)という取り上げ方が一般的だったと思います。日本ではそのような見方はむしろ稀で、海外の児童文学、国際児童文学といった語られ方が広まっていたと思います。ただ、英語でも近年はinternational children’s literature(国際児童文学)という議論が見られるようになってきていて、そのような角度からの児童文学の取り扱いへの関心が高まりつつあることが、この日、北米からの登壇者たちがこのテーマでのさらなる協働に積極的になった背景としてあったと思います。
これに先立ち、筆者は今学期、勤務先の立教大学で、選択科目の「図書館情報資源特論」を使い、国際児童文学論に学生たちとともに取り組んでいます。結果、本学の司書課程では今年度、児童文学が、春学期に図書館司書コースで「児童サービス論」(担当・青栁啓子兼任講師)、秋学期に学校図書館司書教諭コースで「読書と豊かな人間性」(担当・中山美由紀兼任講師)と図書館司書コースで 筆者が担当する「図書館情報資源特論:国際児童文学論」という三科目で取り扱われました。児童文学や子どものための図書館サービスにかかわる専門性をいかに育むかというとき、このようなアプローチは少なくとも北米の図書館情報学大学院では取られないと思います。本質的に、また各国の制度上、さらには授業実践の国際連携を視野に入れるとき、どのようなアプローチが適切なのか、国際的な議論をとおして、改めて考えてみたいと思います。
(文責・中村百合子)
管理人キーマスター浅石卓真です。連載第1回「なぜ「探究」が注目されているのか」と連載第2回「日本における探究的な学習」では、20世紀後半から学校教育全体が、児童生徒が自ら知識を構成する構成主義に変化してきたこと、それに伴って日本でも探究的な学習が浸透しつつあることを説明しました。さらに連載第4回「学習指導要領の中す学校図書館はどのように言及されてきたか?」では、学習活動を支援する学校図書館の役割が具体的かつ多面的になってきたことを述べました。今回は、学校図書館による学習支援の典型である、資料提供の実際について検討したいと思います。なお、以下は宮田ほか(2018)の一部を抜粋したものなので、興味のある方はご覧ください。
学校図書館による資料提供の実際を反映したデータとして、東京学芸大学学校図書館運営専門委員会が運営しているWebサイト先生のための授業に役立つ学校図書館活用データベース(以下、活用DB)の事例を利用します。活用DBでは学校図書館を活用した授業実践の事例について、「校種」「教科・領域等」「学年」といった情報に加えて、「図書館とのかかわり(レファレンス)」「授業のねらい・協働」「授業者コメント」「司書・司書教諭コメント」などの情報が記載されています。また、(全てではありませんが)提供された資料の一覧が「ブックリスト」として提供されています。
活用DBから、2017年8月23日時点で収録されていた279事例を抽出しました。表1は、教科・学年ごとの事例数の分布を示したものです。教科に注目すると、国語の事例数(109件)が最も多く、社会(37件)・総合的な学習の時間(28件)が続くことがわかります。理科、外国語、家庭、音楽、図工美術工芸書道、特別活動は10〜20件の事例が蓄積されています。一方で算数数学、保健体育、技術、情報科、生活科、道徳、その他は事例が10件以下です。学年に注目すると、高3の事例がとりわけ少ないことが分かります。これは、大学受験が迫る高3は教科書に沿った講義形式の授業が中心になりがちで、図書館活用が減少することを示唆しています。
図1は、各教科で提供された図書をNDC(0〜9類)別に計量し、相対度数をとったものです。国語は9類(文学)、算数数学・理科は4類(自然科学)、社会は3類(社会科学)と2類(歴史)の図書が主に提供されており、教科で参照される知識は、NDCに概ね対応していることが分かります。他の教科でも、図工美術工芸書道は7(芸術)が多いなど、同様の傾向が確認できます。またいずれの教科でも、8類(言語)の図書はほとんど提供されておらず、初等・中等教育では言語学に関する知識はあまり参照されていないことが示唆されます。個別の教科では、以下のような傾向が確認できます:
- 国語:9類以外は、比較的均等に分散しており、多領域の図書が幅広く活用されている
- 算数数学:4類のほか、5、7類の理系的な図書も多い
- 理科:4類が突出して多く、それ以外の図書があまり提供されていない
- 社会:4、5、6類の理系の図書も一部提供されている
また、学校図書館による資料提供では、複数の類から図書が選ばれています。特に国語や社会では、四つ以上の類にまたがって図書が提供されている事例も多く見られました。この他にも、例えば音楽では7類だけでなく9類の図書も多く使われるなど、教科に関連した知識領域の傾向が確認できます。一方で算数数学・理科では、他の教科に比べて、提供される図書が少数の類に集中しています。これは、理系教科では自然法則などある程度確立した知識内容の習得が中心になりやすく、参照される知識源も文系教科ほどは広がらないためと考えられます。そのほか、提供される図書がどれだけ最新のものか、また提供されル図書の分量(ページ数)についても学年・教科ごとの傾向が観察されましたが、それらについては宮田ほか(2018)をご覧下さい。
参考資料:
- 宮田玲, 矢田竣太郎, 浅石卓真(2018)「学校図書館員の教員サポートにおける授業に関連した資料提供の事例分析」『日本図書館情報学会誌』vol. 64, no. 3, p.115-131, 2018.
管理人キーマスター青栁啓子です。勝沼図書館の子ども読書クラブ・カムカムクラブの活動を紹介しながら、「遊びと探究のあいだ」をテーマに投稿しています。第2回目は図書館めぐりが出会わせてくれる本のお話です。
四つの図書館
甲州市には 四 つの図書館が存在する。勝沼・塩山・大和図書館に加え、塩山図書館の分館にあたる甘草屋敷(かんぞうやしき)子ども図書館である。クラブの拠点である勝沼図書館は、ワインと葡萄の資料については全国でも有数のコレクションを誇る。武田勝頼が最期を迎えた武田氏終焉の地にある大和図書館は、武田氏の資料収集に力を入れている。塩山図書館は昭和30年に県立図書館の分館としてスタートした市内で最も歴史ある図書館である。特に「武田信玄」「薬草」「樋口一葉」について資料を収集している。そして、甘草屋敷こども図書館は国の重要文化財である甘草屋敷敷地内にある個性的な子ども専門図書館である。
図書館めぐりの目的
これらの 四 つの図書館をバスでめぐって、各館で本を借りるのが、「市内図書館めぐりバスツアー」である。ここで子どもたちに伝えたいことは、以下のことである。
- 四 つの図書館の存在
- 利用カードは市内共通で使えること
- 借りられる本の冊数は4館合計で最大20冊
- 返却はどこの館でもOK
- 郷土の文化資源、甘草屋敷について
このツアーで期待される収穫は、子どもたちが「自分で選んで本を借りる」体験をとにかくするということだ。本の紹介もしないし、借りなくてはならない義務も設けてはいないが、子どもたちは買い物ツアーのお客さんのように我先にと頑張って本を借りていく。ただ、違う図書館に連れて行くというだけで。
ツアーへ出発!
当然のことだが、館内では大声でおしゃべりをしない、走らない、飲食はだめという社会的ルールをまず守ってもらう。バスの中では即席なぞなぞ大会(誰かが始める)で盛り上がったり、歌を披露する子もいたりしてにぎやかだが、図書館に足を踏み入れたら静かに過ごす(ことになっている)。貸出規則も自分で体験して学ぶ。最大20冊の貸出枠のうち、最初の図書館でたくさん借りてあとで借りられなくなった子もいれば、1館で5冊と決めて計画的に借りる子もいる。
バスは、勝沼を起点としてまず大和図書館へ向かう。武田氏滅亡の折には三日間戦いの血が流れ続けたという「三日血川」の別名を持つ日川が窓の下を流れている。感想カードには「川の音がした!」と書く子が多い。
次に訪問する塩山図書館は、勝沼とほぼ同数の蔵書なのだが、感想カードによると多くの子には「見たことのない本があった」らしい。確かにそういう場合もあるが、大抵は既に見ているのに気づいてなかったということのようだ。
最後に、国の重要文化財・甘草屋敷へ。見学に先立ち、最低限必要な準備は直前のバス内で行う。まず「甘草」の漢字の読み。地元の施設とはいえ、小学3年生ではまだ読めない子が多い。甘草は何かのミニ講座の後、薬に使うのは甘草のどの部分(①花 ②葉 ③根)かを当ててもらう(答えは③です)。そんないくつかの甘草クイズの後、おやつを配る。そのミニサイズの「サッポロポテト」の原材料に「甘草」の文字を確認できたら、予習は終了! バスを降りたら記念撮影をして甘草屋敷へ。この名前は、江戸幕府の命を受け、漢方薬の原料「甘草」を栽培していたことに由来する。また昭和初期この地域で盛んだった養蚕業の痕跡を主屋二階の道具展示に見ることができる。そのあたりのことは、現地のボランティアガイドさんが写真や甘草の実物を見せながら子ども向けに易しく説明してくださるので、大変ありがたい。コロナ禍以前には、甘草の根を試食させていただいたりもした。
甘草屋敷について学んだあと、同じ敷地内にある子ども図書館へ移動する。ここは屋敷の文庫蔵であったところを改築し、2002年に開館した小さな図書館である。見たことのない方はぜひ一度訪れて欲しい。そこにある歴史と古い木の温もりが本と溶け合う貴重な場である。読み聞かせを聞いて、フリータイムに。本を読んでも、展示作品で遊んでも、芝生でゴロンとしてもOK。子どもの本だけがある空間で子どもたちが過ごす様子はなんと平和な光景だろう。
読みたい本と出会う条件
毎年、全館をまわった子どもたちの感想からわかるのは、レイアウトが違うと全く違う本があるように感じるらしいということ。実際、勝沼にある本をわざわざ他の館で借りてくるパターンが多い。そんな時は戻ってから「その本、ここにもあったね。」とそっと教えることにしている。子どもにとって読みたくなるタイミングで本と出会えるかという空間はとても大切な要素だとわかる。誰しもいつもと違う書店に行くと新たな本に出合った経験があるだろう。デジタル空間においては、同じキーワードでもリサーチツールによって違う情報にたどりつく。ひとつの場を使いこなすことも大切だが、場を変えてみるというのも、探究にとってひとつの有効な手段になりえるのではないかと思う。
以上が毎年行う図書館による図書館の遠足である。子どもたちは、迎えに来た保護者もびっくりの量の本を大きなバッグにつめかえ重そうに抱えて家路につく。2週間で読み切れているかどうかはさだかではないが、2回目の活動で前回より緊張もほぐれ、新たな本との出会いがあったことを私たちは期待している。
-
投稿者投稿