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【図書館見学記】都城市立図書館(前編)

2022年3月末に、都城市立図書館に行ってきました!

 同図書館のサービスについては、同館作成のとっても素敵なパンフレットのほか、以下のような取材記事でもかなり網羅的に紹介されています。こうしたプロの記者さんたちの取材記事があふれている中で、網羅的なサービス紹介や経営・運営の目指すところをここでもう一度紹介することはやめておきましょう。

 そこで本稿では、私(中村百合子)が同館を訪問して、図書館情報学者として考えさせられたところを、「同図書館の魅力はどこから作り出されているのか」という観点から整理してみたいと思います。

「ようこそデスク」前のショーケースはセレクトショップに来たかと思ってしまう[1]。この展示を見て、そう、本って人生の”一部”なのだよなと改めて…図書だけ見せるのではないのがいいなと。

リーダーシップ;人選;現場の裁量

 株式会社マナビノタネ[2]森田秀之さんがそれぞれに異なる才能をもつ方たちを集め、つなげ、信頼関係を構築していることが、案内してくださった副館長の前田小藻(あや)さんのお話しから伝わってきました。また、森田さんや館長さんなどが現場で働く人たちのやる気や能力を信頼しているから、現場にある程度の裁量権があるのだろうということもうかがえました。

 私がアメリカ合衆国の図書館の専門職と話していると楽しいのは、彼らが自らの裁量で決めて動いているから。なにを聞いてもちゃんと答えてくれ、説得力があり、言い訳があっても笑って話せる。アメリカの図書館では、私の理解では、組織としての使命(mission)、方向性(vision)が決まれば、あとは中間管理職に(各専門職員にも程度こそ違えど)かなりの裁量権が与えられます。一方で、採用では、やる気と専門職としての使命感、倫理観、知識と技能などが十分に確認されます(そもそも専門職の人たちはよりやりがいのある職場を求めてよく移動する)。基本的な考え方としては、いい人を雇って裁量権を与えればうまくいく、ということになっている。

 もともとは私は、正直に言って、PFIや業務委託が日本の公共図書館をよくするのかということについて懐疑的だったけれど、前田さんのように図書館専門職としてやる気と力のある人たちが、それらを認めてくれて発揮できるポストと適当なお給料を求めて移動できるような、開かれた図書館の労働市場を日本で実現することにつながるのなら、今の方向性で悪くないのかなと今回の訪問で改めて考えさせられました。(お給料の問題はどうしても残ってしまう気がするので、そこはもっと情報開示、開かれた議論がいる気がします。でも、これからはベーシックインカムの時代でしょう?!自分の好きなことに気づいてそれをしようとすることがまずだいじだろうとも私は思っています。)[3]

インデックス[さくいん]コーナー
ハンコを試しに押してみた

 この図書館を訪れる人たちみながちょっと面白いなと思うだろうコーナーがあります。写真の「インデックス[さくいん]」棚。この棚に並んでいるのは長方形の木製のQRコードスタンプ。「霧島連山」の方は薄くなってしまって失敗したけれど、「焼酎」の方はうまくいっているので、ぜひこの記事を読まれた方も、ご自身のスマホでこのQRコードを読ませてみてください。出てくるのは、簡易的なパスファインダー、と言ってよいかな。

 

 例えばパスファインダーを電子化しQRコードを提示する、までは、おそらく今の時代、誰でも思いつく。けれど、それをハンコにするというアナログ(手作業)に戻してくるアイデアはなかなかでないだろう!手触りや手仕事感覚が、やってみるととても楽しい。このアイディアを出した人は天才だし、それを実現させた人たちみんな(管理職リーダを含む)、素晴らしい。一人の力じゃ形にならないコーナーだなと思いました。

 背景に、市長がいることはもちろん想像できますねえ。これだけのプロジェクトを森田さんたちに任せることができる市長。と思って調べてみたら、池田宜永市長さん、とてもおもしろい人みたいだ。都城市はふるさと納税の受入額が何度も全国一位になっていて(最新の2020年度の総務省データでもそう)、それもこの市長さんの作戦が効いたそうで[4]。ふるさと納税で税収アップが、図書館の充実にもつながっているのですね。

物理的な空間の余裕;開放感

 今回、私は鹿児島市内から高速を使って行き、末吉財部ICで降りたのですが、降りたら、鹿児島市内とまったく異なる印象で、平野(盆地だそうですが)で広々としている(ちなみに鹿児島市内は山間の集落や山を切り崩した住宅街が多い)。そして、図書館もとっても広く、本がぎっちりと詰まっている、いかにも図書館という感じではなくて、むしろ、空間が余りまくっているようなところにほど良く什器が配置されていて、とても開放感があって明るい雰囲気なのです(床や壁はダークカラーなのに)。天井は高くはないけれど、書架(の間)にも空間があって先が見とおせるので、息が詰まる感じはありません。まさに、滞在したい、したくなる空間。

 そして、各所に空間があるから、司書(職員)としてみれば展⽰をせざるを得ない。もちろん、もともと展⽰スペースとして設計されているところもあるけれど、動く⽊箱でどの空間(空⽩地帯)でも展⽰を作れるので、展⽰は司書なり図書館なりの最も重要な⽇常業務の一つだよねと最初から考えられているのではと感じました。”キュレーション”というキーワードが思い浮かびます。

 この建物はもともとは商業施設だったそうですが、その中心にあったドーム屋根が、期せずしてヨーロッパの宗教建築や図書館建築によく見られるそれと同じように見えて、とても、建物を転用したとは思われないハマりよう。ただ、もともと商業施設だったため、書架が重すぎて1階に児童コーナとはならず、1階は一般書架になったと前田さんからうかがいました。いろいろと制限が無いわけじゃなかったということですが、総合的に見たら、この開放感ある雰囲気は、七難隠す(七つも難があるかわかりませんが)、でしょう。

ドーム屋根には図書館にするにあたって紫外線カットの布をかけたとか

 さて、あと二つの見方から、都城市立図書館の魅力の源泉について考えてみたいのですが、長くなってきたので、ここでひと休みとして、「後編」に続けます。

(中村百合子)


[1] このガラス張りのショーウインドウについては、アネモメトリの取材に答えて森田さんが語っている。「これからの図書空間 2 宮崎・都城市立図書館」の「3」のページ。

[2] 注でもなんでもないですが、言い訳。2021年春に本サイト(TANE.info)を公開しようと準備していた時、「マナビノタネ」さんと名前が似てるよと教えてくださったのも、中山美由紀さんでした。でも、TANE.infoと名前を決めるまでのプロセスがあまりに大変だったので、貫きました…

[3] 最近、以下の文章を読んで、みんな、指定管理者制度の是非について、考え続けているのだなあとしみじみ思いました。この問題に対する私の態度は、「逡巡」という言葉がふさわしい。山本順一「図書館の生態系(15):’指定管理者制度’再考 善良な図書館現場の方とのやりとりから」『みんなの図書館』539号, p. 52-66, 2022.3.

[4] 池田市長についてはネットで検索するだけでもいろいろな記事が出てくる。最新のもので著者がおもしろく読んだのは、「都城市 民間との共創でふるさと納税を起点に地場産業を活性化」という記事(『事業構想Project Design Online』2022年1月号)。「都城が誇る日本一の肉(Meat)と焼酎に出会う(Meet)ことができる、ミートツーリズム」(笑)!!!いやあ…わかります。のんかたとナンセンス系言葉遊びやむやみに力強い標語づくりは南九州文化って感じがしますワ。

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