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ジャパンサーチで探究学習(後編)

小牧龍太です。この連載では、まとめて「MLA施設」などと呼ばれることもあるミュージアム(Museums)、ライブラリー (Libraries)、アーカイブズ(Archives)を探究学習に取り入れる方法、実践例などを紹介しています。前回は、日本国内の機関が公開しているデジタルアーカイブを横断検索できるワンストップサーチ、ジャパンサーチの機能を紹介しました。特に、その中の「マイノート」機能は、自分の興味や問いを元に資料をキュレーションしていくために使うことができるツールです。今回は、キュレーションと探究的な学習との親和性について見ていきます。

デジタルアーカイブを使った探究学習

 大井([1])、大井&渡邉([2])は、キュレーションを「膨大な情報の海の中から、自らの『問い』に基づいて、『問い』を解決したり深めるために適切な情報や資料を収集・選択し、そこに新たな意味を与え、他者と共有すること​​」と定義し、ジャパンサーチを使った授業をデザインすることで児童・生徒がこれを達成することができる、と論じています。ジャパンサーチに収録されているデジタル化資料を閲覧することから「問い」が生まれ、さらに、それらの問いの解決、議論の深化に必要な情報・資料をジャパンサーチで検索・収集できる。それに加えて、調べる過程で必要な資料、見つけたことの共有とディスカッションのために必要な資料もジャパンサーチを離れることなくキュレーションできる、という提案です。

 参照元のスライド論文では、「神名川横浜新開港図」を起点にした小学校での探究的授業、科目教科書を元にした中学、高校での授業の実践例が紹介されています​​。ジャパンサーチで検索、キュレーションできるデジタル化資料は、現状での提携機関や著作権の関係で江戸時代より前の古文書、古典籍、浮世絵などが多いため、これらを使った探究学習を考えるとき、まず思い浮かぶ教科は、参照元で報告されている実践例のように「歴史」かもしれません。ですが、連携機関のひとつである国立国会図書館のデジタルコレクションには明治、大正、昭和初期の書籍や図像なども含まれますし、政府の報告書などは基本的にオープンアクセスなので、大規模災害などに関しては比較的近年の資料も見つけることができます。また、古文書を利用した古地震の研究や江戸時代の料理の再現など、これらの資料を分野横断的な研究に使っているケースは学術の世界にもたくさん例があります。

学習成果の発表・共有にも

 ところで、ジャパンサーチに備え付けられている「マイノート」機能では、資料のキュレーションを便利に行え、かつ、そこに「メモ」を追加することもできますが、実際に調べ学習の成果を発表、共有するときには、集めた一次資料を見せるだけでは足りないこともあるでしょう。議論の展開や、その根拠となった教科書の記述、論文の内容といった文字情報を見せたいことがあると思います。

 そのような場合は、収集した画像をダウンロードして、パワーポイントのスライドに貼り付けたり、Google Sitesのような簡易的なウェブサイト作成ツールを使ってオンライン・プレゼンテーションを作ることもできます。近年のデジタル化資料は、以前作られていたものよりも大幅に高解像度、高画質で作成されており、再使用に耐えるものがほとんどです。([3]

 また、ジャパンサーチは再使用時のライセンスについても利用者により分かりやすいものにするよう提携機関に働きかけており、まだ課題はあるものの、かなり明確で簡潔なものになりつつあります ([4])。特に、検索結果画面の左側のメニューで「教育利用」にチェックをつけて絞り込み検索を行えば、資料の所蔵者・公開者の許諾を得ることなく再使用可能なデジタル化資料だけを表示することができます。ただし、許諾がいらないのはあくまでも「授業の一環として」使用する場合であり、それ以外のときは許諾、あるいはライセンスの細かい確認が必要となるので注意してください。

検索結果画面。左側のメニューの「権利区分」で「教育利用」にチェックを入れて絞り込むと(授業内ならば)許諾なしで再使用できる資料だけを表示できる。

より高度なプレゼンテーション

 なお、大井([1])は、参照元スライドの中で、ジャパンサーチの「ワークスペース」機能にも言及しています。この機能を使うと、画像データの見せたいところだけをトリミングして表示したり、位置情報が付与されている資料を地図上に表示したり、年表を作成したりと、キュレーションした資料をより発表や共有に適したかたちに加工することもできるようです。ただし、この資料([4])によれば、ワークスペースは現在のところ提携機関にのみ提供されている機能とのことです。(ジャパンサーチの問い合わせフォームから相談すれば利用が認められることもあるようなので、興味のあるかたは直接問い合わせてみることをおすすめします。)

 また、似たような機能は、米国のUniversity of Southern California(南カリフォルニア大学)で開発されたScalarというデジタル・パブリッシング・プラットフォームや、GIS(Geographic Information System)の大手であるEsri社がサービス展開しているStoryMapsというプラットフォームを使うことでも実現することは可能です。前者は無料で使えるものの、機能が高度で説明が英語のみ、後者は有料サービスであるというハードルはありますが……。

 というわけで、前回と今回は、ジャパンサーチの「キュレーション」関連機能、および、キュレーションと探究的学習との親和性について見てきました。次回も、デジタルアーカイブをテーマに、IIIF(International Image Interoperability Framework)という国際的な画像共有のための枠組みを使ったキュレーションの方法を紹介します。


[1] 大井将生(2021)「学校教育で使われるアーカイブになるために:⼩学校・中学校でのジャパンサーチを活⽤した⻑期実践」(第4回東京⼤学学術資産アーカイブ化推進室主催セミナー​​「使われるデジタルアーカイブになるために」発表資料).

[2] 大井将生, 渡邉英徳(2020)「ジャパンサーチを活用した小中高でのキュレーション授業デザイン:デジタルアーカイブの教育活用意義と可能性​​」『情報アーカイブ学会誌』4巻4号,pp.352-359.

[3] 内容は英語で、また、ジャパンサーチではなく主にDigital Public Library of America(DPLA)からキュレーションした資料を使用したものですが、筆者が永井荷風の「酔美人」(『あめりか物語』所収の短編小説)と1904年のセントルイス万国博覧会について作成したデジタルプレゼンテーションの例がこちらにあります。Google Sitesを使用して作ったものです。

[4] 高橋良平, 中川紗央里, 徳原直子(2021)「ジャパンサーチにおける二次利用条件整備の取組​​」『デジタルアーカイブ学会誌』5巻s1号,pp.s40-s43.

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