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ティーチャーライブラリアンとスクールライブラリアン

中村百合子です。この連載第3回第4回では、世界最先端の図書館情報学大学院であるサンノゼ州立大学情報学大学院(SJSU School of Information)のティーチャーライブラリアン養成のプログラム(Teacher Librarian Program)を紹介しました。この連載第5回では、ティーチャーライブラリアン(teacher librarian)とスクールライブラリアン(school librarian)の違いを整理します。この二つの英語の職名については、シンポジウム当日にも質疑応答で、日本側の聴衆の方たちと、主として北米からの発表者たちの間でにわかに通じ合えない状況が明らかになりました。

 まず、これは繰り返し指摘されてきたことですが、

ティーチャーライブラリアン(teacher librarian)=日本の司書教諭
スクールライブラリアン(school librarian)=日本の学校司書

ではありません。

 アメリカ図書館協会(American Library Association)の下部組織であるアメリカ・スクール・ライブラリアン協会(American Association of School Librarians: AASL)は、学校図書館の専門職のタイトル(公の名称)として「school librarian」を2010年に正式に採用しています(注1)。しかしそれは、日本語で文字どおり「school = 学校」「librarian = 司書」→「学校司書」とするとかなり違和感があります。

 AASLはスクールライブラリアンとなる人がまず修得するべき専門職学位の選択肢として次の二つをあげています。どちらにしても、修士号の取得がスクールライブラリアンの要件なのです。実際には、州政府が学校図書館担当者の採用にあたり、AASLとは異なる基準を示している例は少なくなく、以下のいずれかの修士号をもたない人たちも北米の各地の学校図書館で働いてはいます(注2)。(カナダの学校図書館の状況については連載第6回以降で報告します。)

  • アメリカ図書館協会(ALA)が認定するプログラムからの修士号学位
  • 教育者準備認定評議会(Council for the Accreditation of Educator Preparation: CAEP)の認定する教育関係団体としてのAASLが認めたプログラムからの、学校図書館学(school librarianship)に関わる修士号学位(注3)

 戦後、1950年に学校図書館法が成立し、学校図書館司書教諭の資格ができたとき、それが教員免許状を取得済の者に対して学校図書館司書教諭講習で付与される制度になったのは、post graduateつまり、学部卒者=学士または準学士に向けた課程として作られたということを意味します。現在、同法の”解釈”によって、現役の学部生や短大生が司書教諭資格の課程を履修できていますが、もともとの制度の作りとしては、現職教員の資格取得が想定されていたのです。この日本の制度設計には、米国のものが参照されています(注4)

 司書教諭は学校図書館法の第五条に「専門的職務を掌」るとされていますが、しかし、現在の学校図書館司書教諭講習は、専門職教育と呼べる内容にはなっていないのではないでしょうか。学部レベルで行われている教育はやはり学部生向けになりますし、多くの現職教員が参加し資格を取得する夏季の講習はいわゆる集中講義のように3~5日で実施されてます(注5)。また、2014年に学校図書館法改正によってその名称が法制化された「学校司書」には、養成モデルカリキュラムが文部科学省によって公開されたものの、資格は法制化されていません(注6)。前述のAASLの提唱する修士号レベルの養成教育とは大きな乖離があります。

 サンノゼ州立大学情報学大学院での学校図書館スペシャリストの養成は、ティーチャーライブラリアンを冠していますが、これはスクールライブラリアンを掲げるAASLの動きとは異なりますね。これは、カリフォルニア州が学校図書館スペシャリストをティーチャーライブラリアンとして、独自の資格制度(Teacher Librarian Services Credential (CL-562))をしいていることによります。カリフォルニアだけで起きているというようなことではまったくなく、米国は州政府の権限が強く、教育は原則として州政府の管轄なので、こういうことが起きるのです。

このカリフォルニア州独自のティーチャーライブラリアンの資格は、その要件を次のように定めています。

  • 学士以上の学位
  • カリフォルニア州の教員資格
  • 三つのティーチャーライブラリアンサービス資格の認定校(注7)の修了

この認定校には、サンノゼ州立大学情報学大学院のプログラム(California Teacher Librarian Services Credential Program, School of Information, SJSU)の他に以下の二つがあります。

学修の選択肢として、次の三つがある。
- 資格を取得するのみ
- 教育工学とメディア・リーダーシップの修士号(Master’s Degree in Educational Technology and Media Leadership)の課程の中で資格を取得する
- 記録に関わる指導者としてデジタルリテラシーや情報に関する理論を教えることができる特別な権限を得るための科目(同科目についての英語の紹介ページ)を資格取得の過程で一緒に学ぶ
SJSU同様、すべてオンラインのプログラム。文学(教育)修士課程の一環として履修することもできる。

 

 米国は自治の原則により 、 日本の学校図書館法に基づく文部科学省の指導のような全国的な統一的措置はなく、学校教育のようなことでもあらゆる状況は州によって、地域によって異なります。最新(2015-2016年度)の全国データでは (注8)、全米の全公立学校の91%が図書館(室)またはメディアセンターをもっていると言います。有資格者の配置は、学校平均で0.7人ということですので、つまり、いわゆる学校図書館があっても必ずしも有資格者が配置されているわけではないようです。

1998年ころのハワイ州の公立小学校の図書室。PCが複数入り、有資格のライブラリアンが情報リテラシー教育に熱心に取り組んでいた。よく手の入れられた様子がこの写真でもわかるだろう。

 今回話題としたカリフォルニア州は、全米で学校図書館への教職員配置が最も貧しいグループに属することは、かねてより知られています。回答率が43%(4,273校が回答)と高くない、同州の教育省によるオンライン調査(注9)ですが、2013-2014年度時点で、カリフォルニア州の公立学校で学校図書館を置いているのは84%。有資格のティーチャーライブラリアンを配置しているのはなんと!約9%の学校だけで、しかもこれにはパートタイムの方が含まれるということでした。そのほとんどは高校に配置されているということです。

 2019年のシンポジウムでは、冒頭で述べたように、質疑応答で、ティーチャーライブラリアン(teacher-librarian)とかスクールライブラリアン(school librarian)とか言うとき、それぞれはどのような人のことを言っているのか、両者は異なるのかという趣旨の質問が出ました。登壇者たちは、それぞれが教えている大学院が出している州政府認定の学校図書館担当者の資格をもつ人のこと、もしくはAASLの推奨する資格水準(修士号レベル)を指して言っていたのでした。しかも、ティーチャーライブラリアン(teacher-librarian)とスクールライブラリアン(school librarian)を、人によってもしくはその時々で思いつくままに使っているというような返答でした(案外いい加減!)。北米の彼らにとって、学校図書館専門職とは、そのように、修士号取得者という単一なイメージがある程度は共有されているからです。日本のように、学校図書館に関わり専門的な知識技能をもつことが期待されるスタッフが二種類(司書教諭と学校司書)という考え方は、彼らにはあり得ません。資格について修士号レベルの有資格者か無資格者か、契約についてフルタイムかパートタイムかがあるという見方が一般的と思われます。

 今回述べたようなカリフォルニア州の学校図書館の現実はそれはそれとしてありながらも,毎年45名程度がサンノゼ州立大学でカリフォルニア州ティーチャーライブラリアン資格プログラムを修了しているそうです(同プログラムの責任者のHarlan准教授からの情報提供による)。専門職ポストの数と学修して資格を取得したいという人たちの数の間に大きな乖離があるのは、カリフォルニアと日本で、同じ状況のようです。


(注1)[AASL] (2010), “AASL votes to adopt the professional title school librarian,” (accessed 2022-01-19).

(注2)次の一冊にまとめられたものをはじめとして、大城善盛がこのことについて継続的に関心をもって日本に紹介している。大城善盛,山本貴子著(2016)『21世紀の図書館職員の養成 : アメリカとオーストラリアを事例に』日本評論社.

(注3)[カレントアウェアネス-E](2019),「米国図書館協会(ALA)、学校図書館員を養成する修士課程の基準“ALA/AASL Standards for Initial Preparation of School Librarians”の教育者準備認定評議会(CAEP)による承認を発表」.

(注4)中村百合子(2009)『占領期の学校図書館改革:アメリカの学校図書館の受容』慶應義塾大学出版会.また、根本彰の論考でも指摘されてきている。

(注5)学校図書館司書教諭講習についての研究は多くない。中村百合子(2020).「夏の司書教諭講習の実態:歴史的変遷と2016年の事例調査から」『図書館文化史研究』no. 37,p. 79-112.をとりあえずあげておく。

(注6)[文科省]総合教育政策局地域学習推進課,総合教育政策局教育人材政策課(2015)「「司書教諭」と「学校司書」及び「司書」に関する制度上の比較」.に三つの資格が簡潔に整理されている。

(注7)California Department of Education (2021), “Teacher Librarian Credential Programs,” (accessed 2022-01-19).

(注8)National Center for Education Statistics [2021], “FAST FACTS: Libraries,” (accessed 2022-01-19).

(注9)California Department of Education (2021), “Statistics About California School Libraries,” (accessed 2022-01-19).

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