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準備万端!な学校図書館スペシャリスト

中村百合子です。今回から3回に分けて、サンノゼ州立大学情報学大学院(SJSU School of Information)に置かれる、ティーチャーライブラリアン養成のプログラム(Teacher Librarian Program)を紹介します。本稿の大枠は、筆者らが2019年夏に札幌で開催した国際シンポジウムでの,同大学のSandra Hirsh教授およびMary Ann Harlan助教授の報告に基づいています。その記録はこちら(英語)です。Harlan助教授は、今回紹介するプログラムのコーディネーターでもあります。彼女は20年間、カリフォルニアの公立学校に勤務し、そのうち11年は中学校・高等学校の学校図書館に勤務したという経歴の持ち主です。もともとは英語科の教師です(注1)

 続く連載第4回でティーチャーライブラリアン養成プログラムをご紹介する前に、今回の連載第3回でまずは、未来に向けて準備のできた学校図書館スペシャリストとはどのような人かを考えてみます。”未来に向けて準備のできた学校”という団体(Future Ready Schools: FRS)の活動は注目に値します。この活動では、ライブラリアンは実践;プログラム(注2)空間をとおして、学校や学区においてFRSの目標達成を引っ張る存在とされています。児童・生徒中心主義の学習へ学校が移行する、現代の学校教育の革新を支えるのが学校のライブラリアンです。また、そうなるためにライブラリアン自身も研鑽を重ね、努力を続けなければなりません。未来に向けて準備のできたライブラリアン(Future Ready Librarians)つまり、学校にいる図書館スペシャリストが児童・生徒中心の学習を支える、その活動をまとめて示したのが以下の図です(注3)(吹き出しは筆者の翻訳であり、追加されたもの)。

この図のような、革新的な専門的実践をとおしたライブラリアンのリーダーシップが奨励される。

 児童・生徒中心の学習を、ライブラリアンは「リテラシー」を鍵概念に支えます。児童・生徒・教職員の読むことに関わる生活全般を刺激し、支えるのがライブラリアンです。そして,「カリキュラム・教授・評価」をはじめとする八つの側面で専門職の判断をします。この図に示されるような各側面での判断・活動によって、ライブラリアンは学習がデジタル化へ移行する、その最先端で活躍することになります。

 近年はまた、スクールライブラリアンの専門性(School Librarianship)の基礎部分に関わる次の三つの新しいトレンドが現れてきていると考えられます。そうしたトレンドの多くは、”未来に向けて準備のできた学校”でもあげられていた、空間;実践;もしくはプログラムに関係していると思われます。 Harlan助教授によれば、次の三つがそうしたトレンドの中でも最も重要なものだろうということです。

個別最適化された探究学習(Personalized Inquiry Learning)

 児童・生徒一人ひとりが意味のある問いを見つけること、そしてその問いによって学習が導かれ、各教科や各学年によって個別に調整されて埋め込まれること。ティーチャーライブラリアンは独自に、この個別化された探究学習を推進することができます。なぜなら、図書館の情報資源を知っているし、それらの見つけ方も知っている。また、児童・生徒が独り立ちして調査研究を実践する人、学習者になることを助ける方法を知っているからです。

 これに関連して、OPEDUCA(OPen EDUCational Area)の活動は興味深いので、簡単にご紹介しておきます。OPEDUCAは、若者の最もよい成長をかなえるべく、産業・教育・社会・政府が地域で連携しようという世界的な活動で、EUや国連の関係機関からもその活動は認められています。このプロジェクトタイトルは、若者たちの社会-人口統計学的、また家庭-地域のつながりを意味してつけられています。教育資源が、若者たちの成長のために提供され相互につなげられること。いつでも、どこでも、誰とでも、どのようなデバイスからでも若者たちが学習することを可能にし、それを励ます。そして若者たちが想像し創造することができる未来だけを想定して、そのような社会での起業家や市民になってほしいと考えられています。OPEDUCAが考える学習の一般原則の一つが探究にもとづく学習(Inquiry Based)で、その他にアクティブラーニング(Active Learning);問題にもとづく学習(Problem Based);コミュニティおける学習(Community Based)が原則としてあげられています(注4)

デジタル情報資源へのアクセスの増加(Increased Digital Access)

 テクノロジーが学校図書館に大変大きな衝撃をあたえてきています。批判的思考や情報リテラシーと結びつけられたソフトウェアや電子書籍その他のテクノロジーは、学校の図書館スペシャリストにとって大変有用なツールです。一人ひとりの児童・生徒が電子教科書やインターネットその他の電子資料にアクセスするためにデジタル機器を使うことが可能になり、一般的になってきています。

メーカースペース(Makerspaces)

 メーカースペースも流行しています。かつては静寂の空間だった学校図書館は、その気になったらすぐに利用できる、創造的で協働的な学習空間に変化しつつあり、メーカースペースもその運動の中で出てきました。学校図書館の一角にあるメーカースペースでは児童・生徒が、コンピュータやビデオ編集ツールを使っていたり、LEGOを組み立てていたり、昔ながらの工作や芸術活動をしたりして、問題を解決しようとしています。そこで提供される資料や空間は個人的探究;創造性;革新;また協働を促すものであるべきです。

 こうした学校図書館界や教育界のトレンドをふまえて、サンノゼ州立大学情報学大学院のティーチャーライブラリアン養成プログラムの教育は行われています。次回はその教育の中身をご紹介したいと思っていたのですが、それに進む前に、今回、出てきたティーチャーライブラリアンとスクールライブラリアンという二つの職名について、さきに明確にしておこうと思います。


(注1)Mary Ann Halan助教授の紹介ページ(英語)はこちら

(注2)ここで言うプログラム(program)とは、よく計画された活動という意味。

(注3)Alliance for Excellent Education (2018), “Empowering Leadership for School Librarians through Innovative Professional Practice,” (accessed 2021-10-12).

(注4)KidsLive! Foundation (2004-2021), “OPEDUCA Learning; Genearal Principles,” (accessed 2021-10-12).

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