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学習指導要領の中で学校図書館はどのように言及されてきたか?

浅石卓真です。前回から、日本の教育課程の基準である学習指導要領の中で学校図書館の扱われ方を検討しています。今回は、学習指導要領のどの学年・教科等で学校図書館が言及されているか、また言及のされ方がどのように変化してきたかを検討します。各時期で学校図書館が言及された背景や学習指導要領解説での言及については、例えば鎌田(2019)などをご参照ください。

 表1と表2に、小学校と中学校の学習指導要領における総則および各教科、道徳、総合的な学習、特別活動の中での「学校図書館」の出現頻度を示しました。表中で「-」となっている箇所は、その項目が当時の学習指導要領では存在しなかったことを示しています。

表1 「学校図書館」出現回数の教科別内訳(小学校)
表2 「学校図書館」出現回数の教科別内訳(中学校)

 表1・2から、各教科等の全てに共通する内容を示した総則では、小学校・中学校ともに一貫して学校図書館に言及していることが分かります。「1958年」では「学校図書館の資料や視聴覚教材などについては、これを精選して活用すること」とされています。「精選」という文言からは、多様な資料を児童・生徒に自由に利用させるというよりは、教師が必要な資料を取捨選択して利用するという姿勢が窺えます。その後「1968年」では「学校図書館を計画的に利用すること」とされ、「計画的に」という文言が加えられました。これは、学校図書館を教育課程へ位置付ける意図がより明確になったと解釈されます(鎌田, 2019, p.124)。「1977年」でも、この位置付けは維持されています。

 「1989年」の総則では「学校図書館を計画的に利用しその機能の活用に努めること」とされ、学校図書館の機能に着目されるようになりました。さらに「1998年」「2008年」では「学校図書館を計画的に利用しその機能の活用を図り、児童の主体的、意欲的な学習活動や読書活動を充実すること」とされ、児童・生徒の活動と結びつけることで学校図書館の機能が具体化されました。そして「2018年」では「学校図書館を計画的に利用しその機能の活用を図り、児童の主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善に生かすとともに、児童の自主的、自発的な学習活動や読書活動を充実すること」とされており、学校図書館の機能や役割がより明確になっています。

 教科別に見ると、学校図書館への言及が最も多いのは国語です。小学校では「1958年」以降、中学校でも「1998年」以降は継続して学校図書館に言及しています。国語科ではまず、「読むこと」に関する指導計画で学校図書館が言及されました。例えば小学校の「1958年」では、第4学年で「「学校図書館の利用の仕方が分かること」などについて指導することも望ましい」と記述されていました。それが「1968年」になると、全学年に関わる留意事項として「読むことの指導については,(中略)学校図書館における指導との関連をも考えて行なうこと」とされ、学校図書館が関与する学年が広がりました。「1977年」「1989年」も同様です。

 「1998年」からは「読むこと」だけでなく「書くこと」「話すこと・聞くこと」でも学校図書館が言及されるようになり、「言語活動の指導に当たっては,学校図書館などを計画的に利用しその機能の活用を図る」とされました。「2008年」では「伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項」で、学校図書館の利活用が新たに示されました。「2018年」では学校図書館への言及が増加しており、特に小学校で顕著です。1・2年では図鑑や科学的なことについて書いた本、3・4年では事典や図鑑、5・6年では複数の本や新聞を利用した学習活動で学校図書館が言及されており、各学年の学習活動における学校図書館の役割が明確になっています。

 国語以外では、比較的近年になって、社会や美術で学校図書館に言及されるようになりました。社会については小学校は「1998年」以降、中学校でも「2018年」で言及されています。「1998年」と「2008年」では「学校図書館や公共図書館,コンピュータなどを活用して,資料の収集・活用・整理などを行う」とされ、学校図書館は資料を調べて活用する場所と位置付けられています。「2018年」でもほぼ同様です。一方で美術については「2008年」に「学校図書館等における鑑賞用図書,映像資料等の活用を図ること」とされ、「2018年」も同様です。

 総合的な学習の時間については、小学校・中学校の「2008年」と「2018年」で学校図書館への言及があります。既に「1998年」で総合的な学習の時間は新設されており、2003年の一部改正で「総合的な学習の時間の取り扱い」に「学校図書館の活用、他の学校との連携、(中略)、地域の教材や学習環境の積極的な活用などについて工夫すること」との一文が加えられました。総合的な学習の時間では、児童・生徒の興味関心に基づく課題や地域・学校の特色に応じた課題に取り組むという趣旨から、統一した教材である教科書は作られませんでした。その代わりとなる教材を提供する拠点として、学校図書館が位置付けられたわけです。「2008年」と「2018年」でも「内容の取り扱いで配慮すべき事項」としてこの記述が残されています。

 最後に特別活動について、学校図書館が初めて言及されたのは「1968年」です。当時は小学校の学級指導の一つとして「学校給食,保健指導,安全指導,学校図書館の利用指導その他(中略)を行なう」という形で言及されていました。「1977年」からは同様の内容が中学校でも言及されるようになります。その後の「1989年」と「1998年」では「学校図書館の利用や情報の適切な活用」を行うことが言及され、学校図書館の活用は情報利用教育と並列させて位置づけられるようになりました。「2018年」では「自主的に学習する場としての学校図書館等を活用したりしながら,学習の見通しを立て,振り返ること」とされ、学習活動との関連が強調されています。

 前回から、学習指導要領の中での学校図書館について、その量的・質的な変化を概観してきました。歴史的に見ると、戦後占領期の「1947年」や「1951年」と比べて、系統主義への揺れ戻しが起きた「1958年」では学校図書館への言及は激減しました(金, 2015, p.56)。しかしその後、学習指導要領が改訂されていく中で、教育課程における学校図書館の重要性が徐々に意識されてきたのは前回指摘した通りです。特に「1998年」以降、総則だけでなく個々の教科で学校図書館について言及されるようになった点は注目に値します。教育課程における学校図書館の役割が具体的かつ多面的になってきたと言えます。


参考資料:

  • 鎌田和宏(2019)「教育課程と学校図書館:「学習指導要領」の変遷と学校図書館」野口武悟・鎌田和宏(編著)『学校司書のための学校教育概論』樹村房, p.119-138.
  • 金昭英(2015)『学校図書館における自由研究の現状分析:千葉県袖ケ浦市の「読書教育」を例にして』東京大学大学院教育学研究科提出博士論文. 引用はp.56.
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