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学校図書館による「探究」の支援に向けた取り組み

浅石卓真です。本連載の最終回となる今回は、学校図書館による探究の支援を促進する取り組みと、それに関連して私が数年前から行っている共同研究について紹介します

 「学習指導要領の中で学校図書館はどのように言及されてきたか?」で言及したように、学校図書館に期待される役割は具体的かつ多面的になってきました。学校図書館による授業支援、特に資料提供を促進する試みもなされており、それらは

  • (i) 授業で使えそうな図書をリスト化しておく
  • (ii) 学校図書館を活用した授業実践をデータベース化しておく

という二つに大別されます。

 (i)については、現職の学校図書館職員や教員が「教材として使える図書」を選定してリスト化しています[1]
具体的には小学校の理科や社会科で、授業で使える図書を集めたものが刊行されています[2]。その他にも、「総合的な学習の時間」などにおいて学校図書館を活用した学習を出来るだけ少ない負担で実施することができるように「学校図書館調べ学習ツールキット」が作成されており、その中には調べ学習に最低限必要な資料リストが含まれています[3]

 (ii)については、「学校図書館による資料提供の実際」でも紹介した「先生のための授業に役立つ学校図書館活用データベース」(以下、活用DB)が典型的です。活用DBでは、教員への資料提供を中心としたレファレンス事例が教科・学年別にまとめられており、各事例で提供された資料一覧をExcel形式でダウンロードすることも出来ます。その他にも日本学校図書館学会が、各教科における学校図書館を活用した授業実践の事例を集めて刊行しています[4]

 しかし、上記の取り組みには大きな問題点があります。それは、基本的に他の学校図書館で提供された図書や事例を紹介したものであり、自館の蔵書でどの図書が教材となるかを直接は提示できないという点です。他館で提供された図書がどんなに適切でも、それが自館にあるとは限りません。また実際の資料提供では、授業の狙いや活動内容、児童・生徒の学力なども考慮する必要があります。国立国会図書館国際子ども図書館の調査研究でも「特定の授業を想定せずに作られた教科・単元ごとのブックリストの資料をそのまま提供するだけでは、十分な授業支援とならない」と述べられています[5]

そこで私の研究グループでは以前、各教科・単元の授業で使える図書を、自館や近隣の公共図書館の蔵書から抽出するシステムを開発しましたこのシステムの中核は、多くのAIでも使われている機械学習手法を用いて、図書館の蔵書を教科・単元に振り分ける自動分類器です。中学社会(地理的分野)を対象として、図書を「地理的分野」か「それ以外」かを判定する分類器(地理分類器)と、「地理的分野」と判定された図書を「世界地理」か「日本地理」かを判定する分類器(単元分類器)を構築し、実験データに適用したところ、いずれも高い性能が確認できました[6]

 機械学習による教材の自動抽出は一見有望に思えますが、実際には致命的な弱点を抱えています。それは、分類器を作成するには、機械学習の訓練用データ(正解集合)となる「実際に授業で提供された教材」が大量に必要だということです。中学社会(地理的分野)のような、学校図書館を活用した探究学習が比較的よく行われている単元は訓練用データを収集できますが、そのような単元は少数です。そのため、多くの単元に適用できる方法ではありません。そこで現在は方針を変え、学校図書館職員の教材検索プロセスの一部を補助するようなシステムを作成しています

 具体的には、学校図書館職員が資料提供に必要な情報を教員から聞き取るための「打ち合わせシート」と、打ち合わせシートをもとに効率的に教材検索のできる「教材検索システムBookReach」を作成しました。打ち合わせシートは、授業支援のために必要な項目を、学校図書館職員が効率的に入力できるよう設計されています(教員自身による入力も可能です)。項目は学校図書館を活用した授業事例や学校図書館職員へのインタビュー結果に基づき作成しており、学校図書館職員を対象としたアンケートでもその有効性が確認されています[7]

 教材検索システムは、学年・教科書・単元を選択すると、登録した蔵書の中から単元に対応したNDC記号の図書が出力される(例えば「大気の動きと日本の天気」という単元の場合「451気象学」の図書が表示される)というものです。教材として選択した図書はその場で印刷するだけでなく保存もできるため、将来同じ単元で資料提供の依頼があった時に、過去の提供履歴を参考にできます[8]。これにより、教材選定にかかる時間を大幅に短縮できる見込みであり、学校図書館職員を対象としたアンケートでも有用との評価を得ています

 打ち合わせシート教材検索システムも、上記のリンクからデモ版にアクセスできます。また、既に学会発表を行なった時のスライドがこちらこちらで公開されています。ご関心のある方は、併せてご覧ください。今後、両ツールは「探究」に役立つツールとして学校現場に還元していきたいと考えておりますので、実証実験にご協力いただける方はこちらにご連絡いただければ幸いです


[1] 鎌田和宏・中山美由紀(編著)『先生と司書が選んだ調べるための本:小学校社会科で活用できる学校図書館コレクション』少年写真新聞社, 2008.

[2] りかぼん編集委員会(編著)『りかぼん:授業で使える理科の本』少年写真新聞社, 2012.

[3] 河西由美子「調べ学習パッケージの開発:学校図書館を活用した探究学習のすすめ」『学校図書館』no.711, pp.30-32, 2010.

[4] 日本学校図書館学会(編)『学校図書館を活用した学習指導実践事例集』教育開発研究所, 2013.

[5] 国立国会図書館国際子ども図書館『図書館による授業支援サービスの可能性:小中学校社会科での3つの実践研究』国立国会図書館. 2012. 引用はp.42.

[6] 宮田玲・矢田竣太郎・浅石卓真「学校図書館による教員サポートのための図書推薦支援システム」『生涯学習基盤経営研究』no.39, pp.61-72, 2015.

[7] 宮田玲・浅石卓真・矢田竣太郎「学校図書館による教材資料提供プロセスのモデル化と教員連携を促す打ち合わせシートの開発」『第69回日本図書館情報学会研究大会発表論文集』pp.5-8, 2021.

[8] 矢田竣太郎・浅石卓真・宮田玲「学校図書館による教材提供を支援する図書選定システムの提案とユーザインタフェースの予備的評価」『第68回日本図書館情報学会研究大会発表論文集』pp.9-12, 2020.

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