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学習指導要領の中で学校図書館はどの程度言及されてきたか?

浅石卓真です。今回(連載第3回)は、これまでの学習指導要領の学校図書館への言及を検証します。

 学習指導要領は、日本の学校における教育課程の基準として定められたものです。法的には文部科学大臣告示という形式をとる行政文書で、小学校、中学校、高等学校および幼稚園や特別支援学校などの校種別に作成されています。学習指導要領は教育課程の全般的な事項を総則として定めるほか、各教科の教育内容と方法、教科外の道徳や特別活動についても定めています。1947年に初めて試案として出されて以来、小学校と中学校では1951年・1958年・1968年(中学校は1969年)・1977年・1989年・1998年・2008年・2018年に改訂されてきました。

 学習指導要領の学校現場への影響力は大きいと言われています。特に「〜のみを取り扱う」「〜は触れない」といったいわゆる歯止め規定があった時代には、学習指導要領の内容以上のことを教えることは事実上できませんでした。2006年に文部科学省が学習指導要領はミニマムスタンダード(最低基準)とする見解を発表して以降は、学習指導要領の内容を超える発展的な学習も可能となっていますが、学習指導要領は関連する様々な制度と結びついており、その影響力は依然として大きいままです。例えば「義務教育諸学校教科用図書検定基準」では、全ての教科に共通して、学習指導要領の内容および内容の取り扱いに示す事項を不足なく取り上げていること、また不必要なものは取り上げていないこと、という条件が付けられています。

 このような学習指導要領の性格を踏まえた上で、今回と次回は、これまで学習指導要領において学校図書館がどの程度/どのように言及されてきたかを分析し、日本の教育課程における学校図書館の位置を検討してみようと思います。以下の分析には国立教育政策研究所の教育研究情報データベースから、各時期の学習指導要領のHTML文書をダウンロードして利用しました。分析対象としたのは、学習指導要領が法的拘束力を持つようになった1958年以降の小学校・中学校の学習指導要領です。
また、1958年と1968年の学習主導要領で見られた「農業」「工業」「商業」「水産」などの科目や、2018年の小学校でのみ見られた「外国語活動」は除外しました。以下では各時期の学習指導要領を「1958年」「2008年」のように示しています。

 具体的には、学校図書館やその必要性を示唆するキーワードをHTML文書から抽出して、その出現頻度を計量しました。抽出したキーワードは「学校図書館」のほか、読書センターとしての必要性を示唆する「読書」、学習センターや情報センターとしての必要性を示唆する「資料」および具体的な資料種別(「新聞」「雑誌」「事典」「辞書」「図鑑」「図書」)です。
「児童図書室」「学校図書室」など学校図書館の同義語は、「1958年」からは「学校図書館」に統一されている(金, 2009)ため計量していません。また資料等に関しても、「教科用図書」や「副読本」「地図(帳)」は抽出対象から除外し、「調べる」「読む」なども文脈を見る限り学校図書館の活動を示唆するものではなかったので、やはり抽出対象から除外しました。

 図に、各時期の学習指導要領における「学校図書館」、「読書」、「資料」等の出現頻度を示します。

「学校図書館」「読書」「資料等」の出現頻度

 図左上を見ると、「学校図書館」の出現頻度は「1958年」から「2017年」まで一貫して増加傾向にあることが分かります。特に「1989年」以前は小学校と中学校を合わせても5回程度しか言及されていませんでしたが、「1998年」以降は改定のたびに言及回数が増加しています。また、「1958年」「1969年」は小学校での言及が多かったですが、次第に中学校でも同程度に言及されるようになって来たことが分かります。これらのことから、教育課程における学校図書館の必要性が、徐々に意識されてきたことが示唆されます。

 また図左下からは、「読書」についても概ね一貫して増加傾向にあることが分かります。とりわけ2017年の学習指導要領改訂時には、出現頻度が大きく増加しています。また「学校図書館」の場合と同様に、「1977年」を除けば概ね中学校より小学校の方でよく言及されていることも分かります。これらの結果から、学習指導要領の中で、読書活動は学校図書館とかなり連動していることが窺えます。

 一方で図右上を見ると「資料」等については、その推移が「学校図書館」や「読書」とは異なっています。すなわち「1958年」「1969年」と比べて「1977年」で一旦減少し、その後に再び言及されるようになっています。「1958年」「1969年」では、中学校において「資料」のほかに「新聞」「辞書」が多く言及されており、学校図書館への言及が少ない時期でも教科書以外を活用した学習が意識されていたことが窺えます。「1989年」からは新聞や雑誌以外にも多様な資料が言及されるようになりますが、その一つの背景としては、「新学力観」が提唱されると共に調べ学習が注目されたことが考えられます。


 次回(連載第4回)は、学校図書館が言及されている教科に踏み込んで、質的に分析しようと思います。


参考資料:

  • 金昭英(2009)「小学校学習指導要領の変遷からみた学校図書館」『2009年日本図書館情報学会春季研究集会発表要綱』p.43-46.

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