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情報学大学院からの専門職キャリア

中村百合子です。筆者らが2019年夏に札幌で開催した国際シンポジウムでの、サンノゼ州立大学のSandra Hirsh教授およびMary Ann Harlan助教授の報告をもとに、 世界の最先端の図書館情報学教育プログラムについて報告している連載です。もともとの発表原稿(英語)はこちらにあります。

学期米国
加州
米国
加州外
国際合計
2021秋 1,672886612,619
2020秋 1,555873572,485
2019秋 1,445765392,249
2018秋 1,312761452,118
2017秋 1,186771602,017
過去5年の学生の在住地別構成

 この第2回では 、 サンノゼ州立大学情報学大学院(SJSU School of Information)が置いている七つのプログラムを、Hirsh教授(注1)から最新データをもらって紹介します。

 情報学大学院全体で、近年は毎年約2千人が在籍しています。左の表にわかるように、その6割程度がカリフォルニア州在住、 3~4割がカリフォルニア州外(米国内)在住で、 いわゆる留学生(国際)にあたる学生は2~4%といったところです。オーストラリアやカナダといった英語圏だけでなく、 アジア各国やブラジルにも学生がいます。

 同大の情報学大学院のプログラムはすべてがオンラインです。2018年以降はiSchoolに加盟しており、修了後には、図書館だけでなく、幅広くさまざまな情報関連のキャリアに進めるようなプログラムになっています。

 サンノゼ州立大学情報学大学院の七つのプログラムとは以下のとおりです(番号は便宜上付与)。すべて 学部卒レベルです(受験には、GPAが3.0以上で学部を卒業しているといった要件が他にもあります)。登録学生のほとんどは、すでに図書館その他の情報関係の仕事をしていて、学生としてはパートタイムです。ちなみに、1単位(unit)には最低45時間の学習を求めます。ふつうは毎週1時間分は授業で、それに対して2時間ずつの学習(予習復習や授業外での演習実習等)が求められます。どのプログラムも登録してから7年以内に修了する必要があります。

 ① 図書館情報学修士号Master of Library and Information Science: MLIS

連載第1回で述べた、ALAの認定を受けた、専門職ライブラリアン養成プログラム。毎年500名ほどが修了しており、同大学の情報学大学院のコアにあたる。43単位の修得が必要。2年半から3年半で修了する学生が多い。

 ② 文書館記録管理修士号Master of Archives and Records Administration: MARA

記録管理や企業のアーカイブズや情報ガバナンスの分野での活躍が見込まれる養成プログラム。42単位。毎年15名ほどが修了している。
年度①MLIS②MARA⑥PMC
2020-2021608228
2019-2020552168
2018-2019543159
2017-20185391113
2016-20174981916
図書館,文書館関係プログラムの修了者数

 ③ 情報学における理学修士号Master of Science (MS) in Informatics

データ分析やデータマネジメントを中心とする。30単位。

 ④ ティーチャーライブラリアン資格プログラムTeacher Librarian Program

カリフォルニアのティーチャーライブラリアン資格の制度(California Teacher Librarian Services Credential)に対応しており、修了するとカリフォルニア州で専門職のティーチャーライブラリアンとして働く資格が得られる。ただし、カリフォルニア州の教員資格を取得している必要がある。上記①の修士号プログラムの一部として本④のコースを修了することもできる。④だけで31単位。①と④を同時履修なら43単位。④のコースは2年から2年半で修了するのが一般的。

 ⑤ デジタルアセットおよびデジタルサービスの戦略的マネジメント高度プログラムAdvanced Certificate in Strategic Management of Digital Assets and Services

学位ではなく修了証書(certificate)が得られるプログラム。例えば、デジタルキュレーション、ビッグデータ、データ提供サービス、データベースマネジメントを学ぶことができる。9単位。

 ⑥ 図書館情報学ポスト修士課程プログラムPost-Master’s Certificate in Library and Information Science: PMC

修士号をすでに終えた人が対象(ポスト修士課程)。学位ではなく修了証書(certificate)が得られるプログラム。テクノロジーおよび情報専門職の世界の最新のトレンドに焦点をあててた、いわゆるリカレント教育プログラム。16単位。毎年、10名以上の修了者がある。

 ⑦ ゲートウェイPhDプログラムGateway PhD Program

連携協定を結んだ大学院と接続された(gatewayの意)博士課程。2008年~2021年はオーストラリアのクイーンズランド工科大学(QUT)と、2022年7月からは英国マンチェスターメトロポリタン大学の図書館情報マネジメントの博士号プログラムと接続されている。博士号はサンノゼ州立大学ではなく連携先の大学から授与される。

 ちなみに、学費は単位毎で計算されます。③だけが1単位525ドルで、残る六つのプログラムは1単位474ドル。つまり、43単位を履修する①なら20,382ドル=日本円にして約230万円(2021年10月11日レート)です。ただし、カリフォルニア州在住でカリフォルニアに住み続けるというような条件を満たせば、この4割くらいにまでディスカウントが受けられます。現在の米国のトップクラスとされる大学や大学院はこの2倍、3倍の学費になっていると思うので、日本の大学院に近いこの学費を、正規の学費でも、とても安いと思う人もいるでしょう。

 キャリア支援も充実しています。教員からの支援だけでなく、情報学大学院専属のキャリアコンサルタントがおり、またオンラインでもさまざまな資料や情報を提供しています。それは入学前段階からはじまっており、例えばMLISのプログラムでは以下の14のキャリアが想定されていますが、同校のHPではそれぞれのキャリアの世界について紹介しています(概観;就職の機会;核となる理論や知識;履修が期待される科目などがわかる英語のページ)。

  • 大学図書館
  • データサイエンス
  • デジタルキュレーション
  • デジタルサービス(利用者向けのデジタルプラットフォームを構築する際の技術面とユーザビリティ面に焦点をあてる)
  • 最先端テクノロジーとデジタルサービス(現在および未来のユーザー体験(UX)に焦点をあてる)
  • 情報の仲介や指導
  • 情報組織、記述、分析、検索
  • リーダーシップとマネジメント
  • 文化遺産と記録のマネジメント、デジタル化、保存
  • 公共図書館
  • 専門図書館
  • ティーチャーライブラリアン
  • ウェブプログラミングと情報アーキテクチャ
  • 児童青少年サービス

 サンノゼ州立大学の情報学大学院は、こうしたプログラムをすでに10年以上、すべてオンラインで提供しているのです。しかも、基本は非同期、つまり、決まった時間に授業をして配信しているというよりも、なるべく学習者の都合で学んでゆける仕組みになっています。そして、これは2020年のパンデミックで急にオンライン化を迫られた日本の大学の私たちには耳の痛いことですが、オンラインでの教授と学習の方法について、教職員も学生もトレーニングを受けています。この学生側のトレーニングは、入門クラスとして提供されていて、かつて、東山由依氏がそのシラバスを翻訳しているので、こちらからご覧ください。MLISのプログラムは、2014年に、オンライン学修コンソーシアム(OLC)の優秀オンラインプログラム賞(Outstanding Online Program)を受けています。学習効果;費用対効果;学生満足度;教職員満足度などを評価されて選ばれました。サンノゼ州立大学情報学大学院のオンラインの学修環境は、マルチメディア体験を通してよりよい学習経験を提供しているし、また、将来の専門職キャリアにおいてずっと使うことになるだろうインタラクティブなオンラインの各種ツールを学生時代に経験させることもできていると言えます。学習マネジメントシステムはCANVAS。ビデオ会議システムはZOOM、そしてビデオレコーディングにはPanoptoを採用しています。それ以外にも、学生教職員は各種のソフトウェアやアプリを使用して交流しています。

 サンノゼ州立大学の情報学大学院は、国際的な活動にも熱心です。同校の戦略計画(Strategic Plan)では、戦略的方向性の一つに、次があります。

戦略的方向性2:コンピテンシーにもとづくカリキュラムとプログラムを開発し、提供する。それらは情報専門職のあらゆる領域の研究と実践をふまえる。

そしてこの下に、以下があります。

2.3 授業内容、課題、インターンシップ、そして情報学大学院の教職員の専門職のつながりをとおして、各科目の国際化を推進する。

これをふまえ、学生たちは例えばMLISの修了時までに、アウトカムの一つとして次を達成しなければなりません(Program Learning Outcomes-MLIS: Statement of Core Competencies)。

O.文化、経済、教育、社会的な幸福を支える効果的な情報実践について、グローバルな視野を理解している。

 さて、サンノゼ州立大学図書館情報学大学院の概要が明らかになったところで、次回以降は、カリフォルニア州の学校図書館担当者ティーチャーライブラリアンの養成に話題は移ります。


(注1)Hirsh教授は2010年8月から2020年3月の間、サンノゼ州立大学情報学大学院の教授であり、研究科委員長でした。昨年、学内改組で情報学大学院は専門職およびグローバル教育学部(College of Professional and Global Education)のもとに移され、その大きな組織の副部長ポスト(Associate Dean)に異動されています。

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