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(続)アルバータ大学の教育学部における児童文学

中村百合子です。図書館・情報スペシャリスト養成の世界最先端と言えるだろう、アメリカと欧州の二つのプログラムを報告してきた連載の番外編は、前回を受けて今回で完結します。カナダのアルバータ大学(院)の学校図書館専門職および教員の養成課程における児童文学の授業の実践報告で、Lynne Wiltse博士が2022年1月28日のオンラインシンポジウムで発表してくださった内容です(英語の記録)。[ ]に入れて記述する内容は、訳者による追加説明で、内容をよりよく理解していただくために加えたものです。

 授業では、多文化主義の正の側面を表現している本を検討します。多文化主義への批判的検討も行います。そして、同質的な国家という感覚に対して疑問をもたせるような児童文学も読んでみます。例えば第二次世界大戦中の日本人の強制収容についてのFlags、第一次世界大戦中のウクライナ人の強制収容についてのSilver Threads。カナダ国内で鉄道を建設しているときに、中国人を適切に扱わなかったことについてのGhost Train。また、Shi-she-etkoShin-chi’s Canoeは共にインディアンの寄宿学校(Indian Residential School: IRS)についての本です。

 カナダの歴史における難しい側面を学んできた学生が、M is a Mapleというタイトルのカナダの、カナダの象徴的な存在であるメープルを使ったアルファベットの本をひいて、MはむしろMythつまり神話を意味するのだと意見を述べました。

 カナダにおける多文化主義に関わる最大の課題の一つは、主流の人びとと先住民の人びとの趣向の積年の乖離に政策が対応していないというあり方です。ですから、多くの人がカナダの多文化政策を前向きにとらえていても、多くの先住民の人びとには前向きに受けとめられてきていません。ジャーナリストであり政治家でもあるWab Kinewは、先住民の人びととの和解は今もカナダが直面している、最も急を要する社会正義の問題だと強く主張しています。土地の問題が和解の核です。[本プレゼンテーション前編冒頭の「この土地に対する感謝」を参照]

 同時に、多文化の児童文学は、より包摂的なカナダの未来を形作るのに使うことができます。特に、もし多文化の文学の定義が、民族・言語・人種・社会階層・ジェンダー・性的志向・能力を含むものとするなら、そうでしょう。授業中に見ているこうした児童書は、幅広いトピックを扱っています。

 私は当初、多文化とは何かということについてもっとずっと限定的な見方をしていました。つまり、より広い定義の反対で、民族にもっと焦点をあてていました。私たちの学生たちの多くも私の当初の見方で授業にやってきます。

 例えば言語について言えば、カナダは公式に英語とフランス語の二言語の国です。しかし、それ以外の言語にも支援があります。

 私は学生たちに二言語で書かれた本に触れる時間を多くもってもらうようにしています。というのも、エドモントンには移民の人たちがたくさんいますし、近年は多様な国々からの難民がいるのです。

 英語以外の言語を話す、またはそれ以外の言語を学修している英語話者の子どもに向けて、一つ以上の言語で書かれた本を授業で検討しています。例えばこのStepping Stones(飛び石)は、シリアの難民の家族についての本です。石を使った芸術作品が用いられ、英語とアラビア語で書かれています。

 

 私たちにとって重要な話題の一つは、先住民の言語の維持と復興を支えることです。不幸にも、たくさんの先住民の言語が、主として寄宿学校でそれらの言語が禁じられたことによって引き起こされた損害によって失われ、もしくは危機にあります。

 インディアン寄宿学校(IRS)についての児童文学は今、数多く出版されています。数年前にカナダでは「真実と和解のための委員会(Truth and Reconciliation Commission)が置かれ、94項目の行動への呼びかけが発表されました。寄宿学校、インディアンとの条約、原住民の人びとのカナダに対する歴史的・現代的貢献について、幼稚園から12学年の義務的な必修教育での年齢にあったカリキュラムが、和解のための教育として提言されました。原住民ではないカナダの教師たちの多くはそれを支持するべきではありましたが、同時に非常に神経質になりました。というのは、インディアンの寄宿学校制には難しい歴史があるからです。

 ただ、何年も前に私が教えはじめたころと比較すると、教師は児童文学を通してこの話題を教えることはやりやすい立場にはあります。BIPOC、つまりBlack, indigenous and people of color(黒人、先住民や有色人種)の運動に対して多くの関心が必要とされているのであり、今は行動するのに適当な時期です。

 私は指導において、批判的多文化分析(Critical multicultural analysis)のアプローチを使っています。これは社会正義を指向することを基礎としたものです。

 私は教育活動において、自分が参加している研究をたくさん活用しています。

 英文や英語を学ぶ学科で児童文学を学ぶ科目と違って、私たちが教育学部で課す課題や活動の多くは、教員として指導することを念頭においたものです。望むらくは、学生たちが後にこれらの経験を自身の指導に役立てて欲しいです。

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