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サンノゼ州立大学のティーチャーライブラリアン養成のカリキュラム

中村百合子です。今回は、世界最先端の図書館情報学大学院であるサンノゼ州立大学情報学大学院(SJSU School of Information)のティーチャーライブラリアン養成のプログラム(Teacher Librarian Program)を紹介します。この連載の記述の多くは、筆者らが2019年夏に札幌で開催した国際シンポジウムでの、同大学のSandra Hirsh教授およびMary Ann Harlan助教授の報告に基づいています。その記録はこちら(英語)です。Harlan助教授は、今回紹介するプログラムのコーディネーターということは、前回(連載第3回)でもお伝えしました。

 そのプログラムの修了要件の概要は次のとおりです。

  • 修了には大学院レベルの31単位(11科目;すべて必修)の履修が求められる。
  • 総まとめの段階では図書館現場での調査(fieldwork)の科目の履修が必須。
  • 同大学の図書館情報学修士号(MLIS)プログラムの一部として履修することもできる。
  • カリフォルニア州ティーチャーライブラリアン認定資格を取得できる。ただし、前提としてカリフォルニア州の教員認定資格をもっている必要がある。

 日本の学校図書館法で定められる資格要件が、学士号取得と教員免許状取得を前提としながらも実質的に学部レベルの教育であること;最低で10単位(5科目;すべて必修)の修得とされていること;現場での調査や実習のような科目がほとんどの大学で提供されていないこと;公共図書館の司書の資格付与とはほとんど切り離されていることと対照させると、けっこう違うように思いますね。ただ、教員免許状を前提とするという点は、日本の司書教諭の資格付与が占領期にアメリカ合衆国の状況が参照されて作られたことにより、日米で共通しています。

 同大学のティーチャーライブラリアン資格プログラムは、上述のとおりカリフォルニア州の認定資格を付与するものですが、実際の学生の中でカリフォルニア州在住者は70%程度で、それ以外の学生は他州または国外に住んでいます。国外に住んでいる学生のほとんどは、国外のインターナショナルスクールに勤務する米国人です。ところで念のためお伝えしておくと、米国移民局(US Citizenship and Immigration Services)は在米留学生のオンラインのクラスの受講を制限しているので、留学生は渡米してオンラインのクラスを受講するということはできません。つまり、すべてがオンラインのサンノゼ州立大学情報学大学院に日本から入学した場合は、学生として渡米できるビザは出なくて、オンラインで日本から受講することになります。

 ティーチャーライブラリアンプログラムの修了に求められる11の必修科目は以下のとおりです。このうちINFO203のみが1単位科目で、それ以外は3単位科目です。

 同時に図書館情報学修士号(MLIS)を取得したい場合は、以下の選択科目の中から3科目の単位修得が必要で、加えてeポートフォリオ(INFO 289)または修士論文(INFO 299)を履修することが求められています。(修了前に、修士課程での学修の成果を振り返ったeポートフォリオを提出するか、修士論文を書くかという選択肢は、近年のMLISプログラムに広まっています。)

 上記の科目のうち、INFO 250「教授のデザインと実施」とINFO 237「学校図書館メディア資料」は、特に先進的といえる指導アプローチをとっているので、以下にその特徴を紹介します。

 INFO 250「教授のデザインと実施」では、情報専門職による教授戦略のデザインと実施を次のように学びます。

  • クラス担任または教科担当の教諭との協働実践(学習の計画;指導;評価)を実際に経験する。
  • 教師や児童生徒と共にオンラインの図書館(学習情報資源およびテクニックを含む)を構築し、探究を促す。
  • 学校コミュニティにおいて学習環境の構築に貢献しそれを促すことの価値を知る。

 INFO 237「学校図書館メディア資料」も同様に、次のような特徴のある授業で、学生たちは協働的にオンライン学習を進めます。

  • 幼稚園から高校までの幼児・児童・生徒に多様な形態のメディアや資料を用いてオンライン学習を提供できるように協働して学ぶ。
  • 省察的教育と省察的学習による。

 そして、ティーチャーライブラリアン資格プログラムを終えるときには、学生は次のような能力を示すことができないといけません。(実際にはProgram Learning Outcomes – Teacher librarianとしてもう少し詳しく定められています)。

A. 指導者としてのティーチャーライブラリアンを理解している。
B. 21世紀の複数のリテラシーを理解している。
C. 情報の整理について理解している。
D. プログラムのマネージャーとしての能力がある。
E. ティーチャーライブラリアンが教職員のリーダーだと理解している。
F. 図書館を伝えて(advocacy)いく意欲がある。

 このプログラムの修了生の約51%がティーチャーライブラリアンとして学校図書館で働いているそうです。そして22%は教師に;16%は事務職員に;11%は別の仕事についているそうです。しかし実のところ、連載第2回にも述べたように同大学の情報大学院の学生には現職者が多いので、このプログラムを終えるところでティーチャーライブラリアンになるという学生は10%程度とのことです。

 さて、このサンノゼ州立大学のティーチャーライブラリアン養成プログラムが腑に落ちるには、アメリカの学校図書館専門職制度を知る必要がありそうだと思いますので、次回はその概要を書きたいと思います。

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