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カナダ・アルバータ大学のティーチャーライブラリアン養成プログラム

中村百合子です。今回は、筆者らが2019年夏に札幌で開催した国際シンポジウムでの、カナダのアルバータ大学(University of Alberta)のJennifer L. Branch-Mueller教授の発表をもとに、同大学の修士課程の初等教育専攻に置かれるティーチャー・ライブラリアンの養成教育を3回に分けて紹介します。Branch教授のオリジナルの発表原稿(英語)はこちらにあります。また、彼女が開設している、同大学のティーチャーライブラリアン養成プログラムを説明しているサイトはこちら(英文)です。

 ちなみにアルバータと言えば、学校図書館関係者の間では、Focus on Inquiry: A Teacher’s Guide to Implementing Inquiry-based Learning(Alberta Learning, 2004)(仮に『探究に焦点をあてる:探究にもとづく学習を導入するための教員向け手引き』と訳してみます)が思い浮かぶ方が多くいらっしゃるでしょう。同書の著者は二人で、本報告のもととなる発表をしてくださったBranch教授と、彼女の先輩教員のDianne Oberg名誉教授です。同書については、日本でも、徳岡慶一氏、足立正治氏、桑田てるみ氏ら、河西由美子氏による論考で検討対象となったり(注1)、自主研究会で取りあげられたり、学校図書館現場で実践を生み出す際に参照されたり(注2)して、注目されました。(すでに同書刊行から20年近くが経ったというのも感慨深いです!)

 アルバータ大学はカナダのアルバータ州の州都であるエドモントンにある州立大学で、美しい都市型キャンパスでありながら、キャンパスの中には川が流れるという恵まれた環境にあり、Branch教授は、研究型のこの大きな大学に勤務できて幸運だと思っていると最初に自己紹介をされました。なんと、同大学には17の学部・研究科があり、学生数は45,000人に及びます。教育学部・教育学研究科だけでも、約5千人の学生がいます。その中には、初等教育、中等教育、教育政策研究、教育心理学、図書館情報学(School of Library and Information Studies)の専攻課程が置かれています。

アルバータ大学

 カナダでは、ティーチャーライブラリアン(「teacher-librarian」が学校図書館専門職の呼称として一般的)のために国が資格を定めているということはなく、それになろうと思ったら選択肢は次の四つになります。

  • 図書館情報学修士号(MLIS)を取得する(アメリカ図書館協会の認定校から取得する)
  • 教育学修士号(Master of Education)を取得する(ティーチャーライブラリアンシップ(注3)を中心に学ぶ)
  • ティーチャーライブラリアンシップのディプロマを取得する(課程修了証を手に入れる)
  • 学校図書館スペシャリストのサーティフィケートを取得する(資格を取得する)(注4)

 カナダにはアメリカ図書館協会の認定校が7校ありますが、そのどこにも、ティーチャーライブラリアンシップを専門とする正規職の教員がおらず、ティーチャーライブラリアン養成のための教育プログラムがありません。アルバータ大学のティーチャーライブラリアンシップに焦点をあてた教育学修士号の学位プログラムと、ブリティッシュコロンビア大学のディプロマのプログラム同プログラムの英語のページのみが、カナダ国内でティーチャーライブラリアンシップを専攻できる本格的な教育プログラムです。最も人口の多い州であるオンタリオ州では、教員が学校図書館スペシャリストになるのに、複数の選択肢があります。が、大学の単位科目ではなく、学区や大学が提供する継続教育の専門的な科目を学修することになっています。

 アルバータ大学の教育学修士号は、完全にオンラインになっていて(コロナ禍前から)、10科目の学修が要求されます。それぞれの科目は3単位科目で、1学期に39~42時間の授業時間になります。1科目は約1,200カナダドル(日本円で約113,000円)であり、図書の購入が求められるとしても、100カナダドル(約9,400円)以下ということになっています。科目によっては、教科書の購入が求められず、大学図書館の契約するデータベースから入手可能な研究や論文のみを用います。

 教育学修士号のプログラムには必修科目が二つあります。一つは、カリキュラムに関する入門科目で、カリキュラムについての歴史や現代の問題を扱います。もう一つは、教育に関する研究への入門科目で、教育についての研究をクリティカル(批判的)に読んで活用することができるようになるためのものです。その科目の主な課題は、学生が自ら選んだ一つのトピックについての文献レビューを書くことです。この2科目の他に、八つの選択科目を学位取得のために修得します。この修士号プログラムの中で、ティーチャーライブラリアンシップに関心をもつすべての学生のアドバイザーである私は、学生たちの学習ニーズに合うように、科目選択についてアドバイスします。学校図書館での実習は必修ではありません。学生はみな、担任や教科教員をしていたり、すでに学校図書館で働いていたりするので、実習を必修にすることは不可能です。

教育学部棟

 私たちのプログラムに応募してくる学生たちのほとんどは、現職者です。校長先生にティーチャーライブラリアンシップの役割に異動することを勧められて、ティーチャーライブラリアンが実際に何をするのかについてもっと学ぼうとして入学する学生にしばしば会います。多くの学生は、過去に私たちのプログラムにいた人や修了した人から紹介されてやってきます。

 入学の条件としては、平均B(3.0)以上の成績を60単位以上でとっていること、教育学の学士号、そして3年以上の教員経験が必要です。実際には、5年以上の教員経験をもっている学生がほとんどで、中には10年、20年の教員経験をもつ学生もいます。入学志望者は教育学修士号のプログラムで何を学びたいかを書いた文章を提出します。また、管理職から、過去に指導を受けた教員から、学区のリーダーから、三通のレファレンス・レター(推薦状)の提出も求めます。

 学生たちはカナダの各地からやってきます。ほとんどはカナダ国籍です。しかし、留学生もカナダ人の学生と同じ額の学費です。教員やティーチャーライブラリアンとしてインターナショナルスクールで働く学生もいます。私たちの学生はみな、フルタイムで働きながら学び続け、各学期に一つのオンライン科目を履修しています。秋学期(9~12月)、冬学期(1月~3月)、春学期(5月~6月)、夏学期(7月~8月)のすべての学期で科目提供をしています。春と秋は6週間で、秋と冬は13週になっています。ほとんどの学生は3年間をかけて教育学修士号を取得しますが、最長で6年間の在学が可能です。多くの学生は一度もキャンパスに来ないまま卒業します。修了式くらいは来てほしいと思うのですが…というのがBranch教授の弁。

 現在(2019年夏時点)のところ、20名の学生がティーチャーライブラリアンシップに焦点をあてて学んでおり、教育学修士号のプログラムには150名以上の学生がいます。博士課程には約30名の学生がいます。過去5年の間に、ティーチャーライブラリアンシップに焦点をあてて学んで教育学修士号を取得した学生は50名以上です。一方で、ティーチャーライブラリアンシップについて研究している、終身在職権をもつ(つまり有期雇用でない)教員はBranch教授だけであり、科目担当講師の雇用が必要になっています。近年は以下の4人の先生方にいらしていただいています。最初のお二人は図書館情報学修士号と学校また/または公共図書館を専門として博士号を取得している方です。外国籍の教員はこの四人の中にはいません。

  • Dr. Dianne Oberg(過去、同プログラムの教授であった方。現在は名誉教授)
  • Dr. Joanne Rodger(非常勤講師で、医学・歯学部のカリキュラムのスペシャリスト)
  • Dr. Lois Barranoik(ティーチャーライブラリアンを退職した方)
  • Lissa Davies(卒業生で、ティーチャーライブラリアンとして働いていた方。現在はエドモントンの公立学校のための学区のコンサルタント)

 今回はアルバータ大学のティーチャーライブラリアンの養成プログラムの概要を紹介しました。次回はその教育の内容を紹介します。


(注1)徳岡慶一「「探究」型学習に関する一考察:カナダ・アルバータ州教育省教師用手引き書”Focus on Inquiry”の分析を通して」『京都教育大学実践研究紀要』第8号, 2008, p. 119-128.足立正治「「探究」を促進する学校図書館」『カレントアウェアネス』No. 297, 2008.9.20.;桑田てるみ編著, 眞田章子, 庭井史絵, 野村愛子, 五十嵐卓司, 大木理恵子, 木之下瞬, 黒瀬卓秀, 法土明子, 山佐知子, 山田英雄, 唐澤智之著『思考力の鍛え方:学校図書館とつくる新しい「ことば」の授業』静岡学術出版, 2010.;河西由美子「情報リテラシー概念の日本的受容:学校図書館と情報教育の見地から」『情報の科学と技術』67巻, 10号, p. 514-520, 2017.

(注2)例えば、庭井史絵「学校教育のなかで図書館を活用するために:中学校図書館での実践を振り返って」『コンピュータ&エデュケーション』Vol. 48, 2020, p. 31-36.

(注3)ライブラリアンシップ(Librarianship)は長く、「図書館学」と訳されてきました。よって、ティーチャーライブラリアンシップ(teacher-librarianship)を簡潔に訳すなら、「学校図書館学」と訳すことができます。ただし、この翻訳については議論しようとすればいくらでも議論できそうです。私(中村)は「司書職」と訳したこともあります。

(注4)ディプロマ(diploma)よりもサーティフィケート(certificate)の方が求められる単位数は一般に少なく、ディプロマの方が上位資格とみなされます。

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