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【図書館見学記】マルチメディア化の進むアメリカの図書館

2022年10月から11月にアメリカ合衆国で次の四つの図書館を訪れることができました。そこで考えたことを、コレクションのメディアの多様化という観点から報告したいと思います。各図書館についてのご紹介は、失礼なことになっていますが、本ページ末尾に記しましたので、そちらをご覧ください。

グラフィック・ノベル

 過去、十数年の間に、欧米の図書館で当たり前になったコレクションに、mangaがあると思います。日本人である私に図書館を案内するというとどこでも、mangaの書架を見せてくださるのですが、そのコレクションの規模が次第に大きくなってきていると思っていました。

 mangaは基本的には日本で出版されたものの翻訳、comicはアメリカ(または英国)生まれで、世界で最も有名なキャラクターだろうスヌーピーが主人公のPeanutsや、映画化にも成功しているBatmanなどがそれにあたると言えば、なるほどと思われるでしょう。そのほかに、アメリカの図書館関係者はgraphic novelという表現も使いますが、comicよりも長い(厚い)ものを指していて、mangaの多くはgraphic novelと言えるだろうと思います。

コーネル大学クローチ図書館の入口周辺の壁
コーネル大学クローチ図書館閲覧室入口

 グラフィック・ノベルについて日本語で読んでなるほどと思った説明として、「Real Sound」というサイトの「【アメリカの最新ブック事情】第1回「コミック・グラフィックノベル」」と、「英語で!アニメ・マンガ」というブログの「「グラフィック・ノベル」とはなにか?」という記事があります。長くてもいいからもっとちゃんと理解したいという方はそうしたサイトの説明をご覧いただければと思いますが、ライブラリアンの方たちと話していると、上記の私の記述くらいの簡潔な説明をしてくださいます。

コーネル大学クローチ図書館の漫画コレクション。これはごく一部。大学の研究・教育や学習のための資料なので、もちろんこれらは日本語版
セイモアー図書館のグラフィック・ノベルコレクション
カーネギー図書館のYA向け書架の漫画コレクション

 これらはYA向けコレクションの中核と言ってもいいくらいの存在になっている印象があります。今年(2022年)の秋にアメリカ合衆国で見た図書館では、YA向けコレクションのかなりの部分、つまり数十パーセントになっていると思いました。これらmanga、comic、grahic novelが三つに分けられて配架されている図書館もあると思います。ただ、欧米の図書館でこの十数年の間に私が見てきた印象では、graphic novelかmangaのいずれかの言葉のもとにすべてを含んでゆるやかに整理しているところが多かったように思います。コレクションが拡大してきている分、整理の仕方も変わってきているかもしれませんが。

カーネギー図書館のYA向けのノンフィクション資料。成長の過程でのさまざまな悩みに応えるような資料が並んでいる。ノンフィクション資料の点数は必ずしも多くなくて、他の書架の漫画コレクションの存在感が大きく感じられた。漫画を挟んで、フィクションの書架があった。
パイングローブ中学校図書館のグラフィック・ノベル等の書架。2020年にグラフィック・ノベルではじめてニューベリー賞を受賞した『New Kid』も。
パイン・グローブ中学校図書館の一角はカラフルでにぎやかな雰囲気で、アートの本(作ってみることを促す)、データがまとまった本(ギネスや歴史など)や、手に取りたくなるような表紙の伝記本が並べられていた。

ゲームはもちろん、ケーキ型も!

 ゲームは世界各地の図書館のコレクションに加わって久しいが、今回、ニューヨーク州オーバーンのセイモアー図書館(Seymour Library)では、ケーキ型の貸出を見てなるほど!と。こんなコレクションを見たのはたぶんはじめて。

カーネギー図書館ビデオゲームコレクション
セイモアー図書館のゲーム、ケーキ型のコレクション
カーネギー図書館の音楽資料(Music Resources)はほんとうに充実しています。この素敵な木製の棚の中に、楽器や関連機材が収まっていました。これらの貸出もしています(Musical Instrument Lending Library)。
セイモアー図書館の閲覧室。実はとってもクラシカルな建築・内装が基本となっている図書館です。サービスはしかし時代に沿って進化しています。
セイモアー図書館の児童室では利用者のニーズを先取りするような貸出セットが用意されていた。たとえばトイレトレーニングに有用なメディアを一つのリュックにまとめて入れてあったり。

創造性を刺激する

 要するに、図書館を何のための場所と考えるかということなのですが、創造の場と考えているのが今のアメリカの図書館なのだろうと思います。読む、聞くということは人としてとてもだいじだし、図書館がそれを支える、そのための素材(資料や情報)へのアクセスを保証し提供するというのは当然そうなのだけれど、人間とは何かが問われる、シンギュラリティなどという言葉が聞かれる時代…よりよい未来を切り拓くのは、人間の創造性にかかっているということではと思います。

セイモアー図書館の児童室には、鍋つかみを編んで聖アルフォンソ教会に寄付してくださいという呼びかけが。感謝祭のターキーといっしょに500の家族に渡すという目標があるそう。
パイングローブ中学校今、一時的に、メイカースペースにあたるコーナーを上の写真の右のほうに設けている。COVID-19の前には、別にもう少し広いコーナーを確保できていたそう。
メイカースペースには創造力を刺激する、わくわくするようなものがたくさん置かれている。何かを作ろうとツールを手にするようなことではなくても、お友だちと一緒に座っておしゃべりをしながらパズルやゲームで手を動かすだけできっと楽しい。
図書館入口には、スクールバスの運転手さんに感謝を伝えるカードを記入する机が設けられていた。一緒の机には、「勇気とは」と書かれた大きな空白のある紙も(空白に自分の考えを書き込む)。

 過日、こちらでご報告しましたように、私は今年(2022年)、アメリカ合衆国ニューヨーク州のシラキュース大学に滞在しています。そろそろ2カ月になろうというところで、図書館や博物館の訪問を繰り返してきましたが、どのタイミングでどの何をどのように紹介するか悩んでいるうちにどんどん時間が過ぎて、また別の素敵なところに行ってしまって、というふうになってしまっていました。しかし今週になって雪が降りはじめ、この後、冬の間は訪問のペースがスロウになるだろうと考えて、ここで一度、これまで図書館で見たことを報告しました。ほんとうはもっともっといろいろ見せていただいて刺激をいただいているのですが、考えが整理しきれなくて…

(中村百合子)

言及した四つの図書館のご紹介

 コーネル大学は東海岸の名門大学アイビー・リーグ8校のうちの一つですが、イサカ(Ithaca)というニューヨーク州の内陸のこじんまりとした町にあって(人口約3万人)、とても静かな環境でした。ハリーポッターの世界みたい!などと言われて有名なのは、同大学で一番最初に建てられたウリス図書館(Uris Libraries)の一部で、アンドリュー・ディクソン・ホワイト図書館(Andrew Dickson White Library)というところです。ウリス図書館の建物内には、研究成果のオープンアクセス化の先鞭をつけたarXivのオフィスも入っていました。私が訪れたのは土曜日でしたが、ウリス図書館には観光客とおぼしき人たちがひっきりなしに入っていました。そんな人たちにチラチラ見られながら、同大学の学生さんたちは勉強しているという…。私は、クローチ図書館の日本語コレクションのご担当のダンさん(Mr. Daniel McKee)に前日に思いついてメールをしてみましたところ、土曜日の午後ではありましたが、時間をとって、短い館内ツアーをしてくださいました。ここに記して感謝をお伝えしたいと思います。

 ピッツバーグの公共図書館の多くは、19世紀末にアンドリュー・カーネギー(Andrew Carnegie)氏の寄付を基礎として建てられているので、カーネギー氏の名前が冠されています。カーネギーが無料の公共図書館のための寄付を当時のピッツバーグ市長に最初に申し出たのは1881年11月25日(日本では明治14年)のこと、そして最初の図書館の開館が1895年だったそうです(同館ウェブページ上の略史を参照)。2020年には125年をお祝いしています(特設サイト)。今回、私はピッツバーグを図書館情報学教育に携わる人たちの学会(Association for Library and Information Science Education: ALISE)の年次大会で訪れたので、時間が限られており、特にツアーを頼むことはしないで、自分で見学して回りました。各部屋のサービスの充実、また整理や展示の丁寧なことに驚嘆しました。ライブラリアンに質問をしながら見て回ったら、数時間かかりそうだと思いました。ただ、月曜日のお昼ころというタイミングのせいか、図書館内に人はとても少なく、その事情も含めて、いろいろと聞きたいので、また行きたいと思っているところです。ちなみに同館は現在、改装工事の真っ最中でした。

 セイモアー図書館はオーバーン(Auburn)という、ニューヨーク州内陸部のこれまた人口3万人弱という比較的小さな町の公共図書館です。同館はアメリカ合衆国の歴史登録財(National Register of Historic Places: NRHP)になっている、歴史ある由緒正しい建物です。セイモアー(James Skinner Seymour)氏という銀行家がこの地域に会費制の図書館を設けたのが1876年で、その後、1896年にケース(Willard E. Case)氏が両親を偲んで図書館の土地と建物を寄贈して、今もその図書館が存在し使われているということです。この時からサービスは無料になっています。この図書館をデザインしたのはのちにニューヨーク公共図書館(NYPL)をデザインした建築事務所(Carrère and Hastings)で、ほんとうに美しい建物です。こちらは事前にコンタクトせずに訪れたのですが、図書館の職員の方たちみなさんがとても丁寧にご説明くださいました。こちらは今いるシラキュースから車で40分くらいなので、必ず再訪したいと思っています。

 パイングローブ中学校Pine Grove Middle School)はニューヨーク州シラキュース東部にある公立中学校(6~8年生が通う)で、その図書館(Pine Grove Middle School Library)はスクールライブラリアンのコワルスキー(Susan Kowalski)氏のすばらしい活動で知られています。コワルスキー氏はめったに出会えないような、輝かしい受賞歴のある方で、AASLの機関紙Knowledge Questにも寄稿されています。同學校図書館館は2011年にアメリカ・スクールライブラリアン協会(AASL)の全国学校図書館賞(National School Library of the Year Award)を受賞しています。コワルスキー氏はその翌年、2012年には、ニューヨーク州カーネギー財団(Carnegie Corporation of New York)・ニューヨーク公共図書館(NYPL)・アメリカ図書館協会(ALA)によるライブラリアン賞(I Love My Librarian Award)と、School Library Journal誌のライブラリアン/教師コラボレーション賞(Librarian/Teacher Collaboration Award)を受賞されています。また2016年にはシラキュース大学情報学大学院(iSchool, SU)からも、修了生の母校への貢献を讃える賞(The Impact of the Year Award)を受けておられます。一日、滞在させていただいて拝見したコワルスキー氏や先生やスタッフの方たちと生徒たちとの関わりはさまざまに印象的でした。シラキュース大学で図書館情報学を学ぶ修士院生さんのインターンシップの初日でもあったので、大変な日に私の見学を受け入れてくださって、感謝に堪えません。

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