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    キーマスター

    NTTの藤田早苗です。

    この連載ではNTTで取り組んでいる絵本検索システム「ぴたりえ」関連の研究を中心にご紹介していきます。第1回ではそもそもどうしてこのような研究を始めたかと、絵本のコーパス(=実際に使用された言語表現を集積、整理した言語データ)を大規模に構築していることをご紹介しました。

    第2回では、コーパスに含める絵本の選び方と、絵本のコーパスがあるとわかること(の一部)として、絵本に出てくる語についてご紹介します。

    絵本の選定 ~泣く泣く選ぶ~

    理想的にはすべての絵本を電子化してコーパスに含めたいのですが、絵本は毎年おおむね6,000冊以上出版されており、とても人手で電子化できる量ではありません。参考までにご紹介すると、国立国会図書館の分類別図書整理統計では、児童図書の和図書の出版数は、2016 年で6, 608 冊、2017 年で6, 734 冊、2018 年で6, 535 冊、2019 年で6, 878 冊となっています。

    これらすべての絵本の電子化はできないので、優先的に電子化する絵本を次の条件で選びました。

    (a) 売れている本(ベストセラー・トップセラー。紀伊国屋からリストをご提供いただきました。)

    (b) 図書館での推薦図書(全国の県立図書館で公開されているリストを調査。調査対象はこちらのサイトにまとめています。)

    (c) 小学校国語教科書掲載作品(2015年度のシェアトップ3 社(東京書籍,光村書店,教育出版) の教科書で調査しました。)

    基本的に、より多くの子どもに読まれていると考えられる絵本をカバーできるように選んでいます。その他、対象年齢が明示されている絵本や、実証実験先の図書館の蔵書リストなども参考に電子化(コーパス化)を進めています。

    絵本のクイズ ~絵本のコーパスからわかること~

    コーパスにしておくと検索や分析が簡単にできるようになります。NTT絵本・児童書コーパスの中の絵本のみ6,137冊(7,322話)(注)を使って、クイズを作ってみました。先の方で解説しますので、よろしければ先に考えてみてください。

    Q1. いぬとねこ、絵本により多く出てくるのはどちらでしょう?

    Q2. 一冊(一話)の絵本に出てくる語数はどのくらいでしょう? 中央値で答えてください。

      選択肢:  (a) 176語,  (b) 647語, (c) 1,022語, (d) 45,345語

    Q3. 子どもへの発話と絵本で、同じ語数中により多様な語が含まれるのはどちらでしょう?

    なお、語数と言っても、日本語の場合、どこまでを1語と考えるかは難しい問題ですが、我々はUniDic短単位に基づいて「形態素(=意味を持つ最小の言語単位。(「言語情報処理 用語集」参照))」に分割し、形態素数を語数としています。

    絵本により多く出てくるのはどちら? ~いぬ vs. ねこ~

    正解は「ねこ」です。しかもかなり圧倒的に多く、「ねこ」は「いぬ」の2.5倍も出てきます。表記ゆれ(ねこ/ネコ/猫、いぬ/イヌ/犬)をまとめて比較しても、「ねこ/ネコ/猫」の方が1.7倍多く出てきます。

    ところが、漢字の「猫」と「犬」だけを比較すると、「犬」の方が5.8倍も多く出てきます。「犬」は小学1年生の配当漢字ですが、「猫」は小学生の配当漢字ではありません。そうしたことから「猫」はあまり絵本では使われていないのかもしれません。なお、表記ごとの頻度は、ねこ, いぬ,ネコ, 犬, イヌ, 猫の順でした。

    ついでに動物の出現頻度トップ30をご紹介しておきます。表記ゆれはまとめていません。

    1話の絵本に出てくるのべ語数は? ~中央値~

    のべ語数とは、同じ語が何度でてきてもそのまま足し算したものです。選択肢は (a) 176語,  (b) 647語, (c) 1,022語, (d) 45,345語 でした。

    このうち、のべ語数の中央値の正解は、(b) 647語 でした。

    他の選択肢の数字にも意味があります。(a) 176語は、1話ずつの絵本に出てくる異なり語数を数えた時の中央値です。異なり語数では、同じ語なら何度出てきても1語とかぞえるので、当然ながらのべ語数よりはるかに小さな数字になります。

    (c) 1,022語は、のべ語数の平均値で、(d) 45,345語は、のべ語数の最大値です。

    絵本なのに4万語?と思って確認すると、最大語数の絵本は『発明図鑑 世界をかえた100のひらめき!』(文 トレイシー・ターナー, アンドレア・ミルズ, クライブ・ジフォード, 監修 ジャック・チャロナー, 主婦の友社, 2015)でした。128ページもあり、タイトルにも「図鑑」とあります。中身をみると、単に図鑑とも言い難いものの、絵本としていいのか迷う本かもしれません。

    こうした一部の非常に語数の多い絵本に引きずられ、最大値や平均値は引き上げられています。のべ語数の度数分布(ヒストグラム)を図1に示します。図1からもわかるように、約68%のお話は1,000語以下、つまり平均値以下です。図1の右側に、1,000語以下の絵本だけの度数分布を示します。1,000語以下の絵本の中では、100語以下の絵本が最も多いことが見て取れます。

    図1 絵本1話ごとののべ語数の度数分布(ヒストグラム)

    語数に関して、具体例をご紹介しておきますと、例えば、『ぐりとぐら』(なかがわりえこ、おおむらゆりこ, 福音館書店, 1963)の場合、空白や句読点のような記号を除き、のべ641語、異なり196語でした。『はらぺこあおむし』(エリック=カール さく/もりひさし やく, 偕成社, 1976)の場合は、のべ270語、異なり115語でした。

    より多様な語が出てくるのはどちら? ~絵本 vs. 子どもへの発話~

    正解は、もちろん絵本です。

    3問中、最も簡単な問題だったのではないでしょうか?

    では、実際に日常会話(子どもへの発話)と絵本ではどのくらい出てくる語が違うのでしょうか。子ども自身や子どもに向けた発話を記録・書き起こしたコーパスであるCHILDESと、絵本コーパスを比較した結果をご紹介します。

    具体的には,のべ語数(Token)に対して異なり語数(Type)がどのくらい出てくるか(以下,Type-Token比) を調査しました。Type-Token比が高ければ高いほど、同じ語数の中により多様な語が出てくることになります。

    上の左側の図では、絵本とCHILDESからランダムに100語ずつ取り出した場合のTypeとTokenの変化を示しています。右側の図は左側の図の一部を拡大し、さらに絵本1冊ずつ、CHILDESの1ファイルごとの値をプロットしています。二つの図から、絵本の方がCHILDES よりType-Token 比が高い、つまり、同じ語数で比較すると絵本の方がより多様な語が出現していることが分かります。

    のべ語数が多くなればなるほど、絵本とCHILDESの差は大きくなりますが、際限なく絵本を読めるわけではありません。仮に絵本100 冊程度(68, 400 語, 2018年調査時点の値)の語数で比較すると(左側の図の緑の縦線)、 約1.71 倍の種類の語が出てきます。

    絵本の読み聞かせは言語発達に貢献するとされています。その理由に関する研究はいろいろありますが、日常の会話ではほとんど出現しない語やフレーズが多数出現することも、理由の一つに挙げられます。

    では実際に絵本にはどのような語やフレーズが出てくるのか、日常会話とどのように違うのか、といった情報も、絵本コーパスを構築したことで、具体的な数字で示すことができるようになったのです。

    第3回は、対象年齢が明示されている絵本を使った難しさの推定についてご紹介予定です。


    (注)2023年10月19日時点のコーパスを利用しています。一冊の絵本に複数話入っていることがあるため、話数は冊数より多くなっています。

    参考資料: 藤田 早苗, 奥村 優子, 小林 哲生, 服部 正嗣. “絵本と幼児向けの発話に出現する語の多様性比較”,言語処理学会第24回年次大会 (NLP-2018), pp. 1264–1267, 岡山, B7-4, 2018.3.

    管理人
    キーマスター

    放送大学の塩谷京子です。ここでは、探究のプロセスを切り口として、毎回一つのトピックをもとに、学校現場のエピソードを交えながら連載しています。読者の皆さんが、「探究のプロセスと日々の授業」とをつなげて考えてみる機会になるようなトピックを、毎回選んで書いていきます。

     第5回のトピックは、「本にあることと体験をつなげる」です。

     子供がものの名前を知りたがるとき、「あれ何?」「これ何?」と指をさして尋ねます。2歳になる前から、何度も何度も繰り返し尋ねている光景を見かけます。ある時から、ものの名前だけではなく、「何してるの?」と、動作を尋ねてくるようにもなります。一瞬で答えが返ってくるものの、問いの対象は山ほどありますから、いくらでも尋ねることができます。

     子供は、手当たり次第、尋ねているのでしょうか?

     子供の行動を観察していると、ちゃんと理由があって尋ねていることに気づきます。でも、それは、大人が疑問をもたないと見えてきません。2歳児の母親のMさんは、「これ何?」と、息子が突然台所の扉を開けて尋ねたので「泡立て器」と答えたものの、不思議が脳裏をよぎったそうです。台所で泡立て器を使っていないのに、どうして、泡立て器を取り出して何度も尋ねるのかと。

     しばらくして、ハッとしたとのこと。このところお気に入りの絵本『ノラネコぐんだんシリーズ アイスのくに』の読み聞かせをしています。その中で、ノラネコぐんだんが泡立て器を使っている絵を見つけて・・・、そういうことか!!と、驚くやら、納得するやら。絵本の中のことと、実物をつなげていたんだと。

     数日後、靴が小さくなったので、新しい靴を買いに行くと、母親のMさんが買いたいな思う靴をどれだけ勧めても息子は「いや」の一点張り。「どれを履きたいの?」と尋ねると、欲しかったのは、父親と同じメーカー、同じデザイン、同じ色の靴でした。父親の靴と「一緒」の靴を履きたいからこそ、他のは頑なにいやと言うんだと・・・。

     子供の問いや主張に、意味があることが少しずつ見えてきたことを、このようなエピソードを交えて話してくれました。

     「同じ」「一緒」という認識、ここに至るには、別々にある情報と情報を、形、色というように何らかの視点でつなげることで、「同じだ!」と気づくというプロセスを経ています。

     「共通、相違、事柄の順序など、情報と情報の関係について理解すること」は、学習指導要領小学校国語1・2年生の「知識及び技能」の中に書かれている内容です。入学前までに、個人差はあれ、子供たちが体験しているであろう「共通、相違、事柄の順序」などの情報と情報の関係の理解について、国語の授業では、どのように扱われているのでしょうか。「体験」と「本に書いてあること」を「共通」という視点でつなげている事例を紹介します。

     司書教諭であるℕ先生の小学校1年生国語の授業です。

     「この前よりも様子がよくわかるアサガオゆうびんをかこう」の単元では、生活科で育てているアサガオを観察し、絵と文章でおうちの人にお手紙を書く活動が設定されていました。「この前よりも・・」とあることから、今回は2回目です。様子を伝えるために、「大きさ」「形」「手触り」などと、それぞれが選んだ観点で観察を始めます(図1)。子供の近くには観察するアサガオが置いてあり、教室の後ろにはアサガオの本が展示されています。

    図1 自分が選んだ観点でアサガオの観察をする子供

     書いたお手紙を友達に紹介しているときのことです。ある子供が突然、教室の後ろに並んでいる本の中から1冊取り出し、「本のここにも書いてあります」と、自分が観察したことと、本に書かれていることが「同じ」であることを嬉しそうに話し始めたのです。別々に見えていることをつなげた発言に対し、聞いている子供たちだけでなく、この授業を参観していた私も釘付けになりました。子供の発言を聞きながら、「アサガオ」を大切に育て、「アサガオの本」を手に取り読み聞かせを行うなど、ℕ先生がアサガオを介して、育てることと読むことをつなげ、それぞれの魅力を子供たちと共有している日常の光景が目に浮かんできました。

     国語科では、「体験」と「本にあること」を共通という視点でつなげる以外にも、教科書の説明的な文章を読むときに「絵」と「本文」をつなげたり、物語文を読むときに「さし絵」と「情景描写」をつなげたりしています。

     このように、国語科では一見別々に見える情報と情報を「共通」から始まり、「相違」、「順序」などの視点でつなげて(関係づけて)いくことを小学校1・2年生から、系統的に学んでいます(注1)。系統的に学んだ内容は、国語科だけに留まらず、各教科や総合的な学習の時間において活用します。特に、総合的な学習の時間では、探究の過程(「課題の設定」「情報の収集」「整理・分析」「まとめ・表現」)の中の「整理・分析」において、集めた情報を比較したり関係づけたりして考えるときにも使っています。


    (注1)以下は小中学校学習指導要領国語より、筆者が情報に関する内容を抜粋し、探究の過程の「整理・分析」と関わりのある部分を太文字で示したものです。

    <小学校国語 1・2年生 <知識及び技能>より抜粋>

    共通,相違,事柄の順序など情報と情報との関係について理解するこ と。

    <小学校国語 3・4年生 <知識及び技能>より抜粋>

    考えとそれを支える理由や事例、全体と中心など情報と情報の関係について理解すること。

    比較や分類の仕方、必要な語句などの書き留め方、引用の仕方や出典の示し方、辞書や事典の使い方を理解し、使うこと。

    <小学校国語 5・6年生 <知識及び技能>より抜粋>

    原因と結果など情報と情報の関係について理解すること。

    情報と情報との関係付けの仕方、図などによる語句と語句の表し方を理解し、使うこと。


    <中学校国語 1年生 <知識及び技能>より抜粋>

    原因と結果,意見と根拠など情報と情報との関係について理解すること。

    比較や分類,関係付けなどの情報の整理の仕方,引用の仕方や出典の示し方について理解を

    深め,それらを使うこと。

    <中学校国語 2年生 <知識及び技能>より抜粋>

    意見と根拠,具体と抽象など情報と情報との関係について理解すること。

    情報と情報の関係の様々な表し方を理解し使うこと。

    <中学校国語 3年生 <知識及び技能>より抜粋>

    具体と抽象など情報と情報との関係について理解を深めること。

    情報の信頼性の確かめ方を理解し使うこと。


    返信先: 子供と共に問いを作る #477607
    管理人
    キーマスター

    放送大学の塩谷京子です。ここでは、探究のプロセスを切り口として、毎回一つのトピックをもとに、学校現場のエピソードを交えながら連載しています。読者の皆さんが、「探究のプロセスと日々の授業」とをつなげて考えてみる機会になるようなトピックを、毎回選んで書いていきます。

     第4回のトピックは、「子供と共に問いを作る(社会科の事例)」です。

     子供と共に問いを作ることは、探究的な学習以外でも行われています。探究的な学習を進めている小中学校の総合的な学習の時間では、共通テーマを教師が提示し、そこから児童生徒が自分の問いを作っています。その一方で、教科においては、子供の問題意識をもとに、教師と子供で問いを作る授業が行われています。いずれも、与えられた問いではなく、子供の問いであることが共通しています。

     今回は、後者である「子供の問題意識をもとに、教師と子供で問いを作る授業」がどのように進められているのかを、4年生社会科、K先生の授業実践をもとに紹介します。

     前時はごみの問題を取り上げ、Xチャートを使って分類しました。分類した結果、「分別に協力しない人がいる」「処理にお金がかかる」「処理しにくいごみがある」「埋立地がまんぱい」という問題点が見えてきました。一言で言えば、「まだまだごみが多い!!」という事実です。問題点が見えると、問題点を解決するためにどんなことをしたらいいのか、どんなことが行われているのかという方向に自然と進みます。この授業では、「ごみを減らすために私たちの周りはどのようなことをしているのか」という問いを立てました。

     問いを解決するために、K先生が授業設計に組み入れたことは、三つあります。

     一つは、私たちの周りを、「学校」「家庭」「地域」「お店」と、具体的に4つ示したことです。具体的な用語があることは、情報収集の助けになります。

     もう一つは、使うツールとしてベン図を取り上げ、共通点を意識するように斜線で示したことです。この共通点が、ごみを減らす取り組みになります。

     さらには、教師が示した4つの私たちの周りから、子供は2つ選び、ベン図を使って比較していたことです。選ぶという行為は子供の気持ちをより主体的に向けていきます。

    図1

     図1は、前時に分類した問題点をもとに教師と子供で今日の授業の問いを作り、教師が問いを解決するためのツール(ベン図)と4つの項目(学校、家庭、地域、お店)を示しているところです。子供はタブレット上のベン図を使い、私たちの周りの4つの項目のうちの2つを選び、比較する活動に入ります。

    図2

     図2のように、ベン図を使って比較して考えると、自然に対話が始まります。対話の様子を見ていると、聞き手が上手!という印象を受けました。「うん、ふーん」と相槌を打ちながら聞いているだけでなく、「教科書の〇ページに、〜に書いてあるから、それも入れた方がいいんじゃない」というアドバイスしている場面もありました。このようなアドバイスを受け入れながら、ベン図に必要な情報を追加している子供もいました。

    図3

     情報を収集しながら比較して考え、共通点を見出しました。学校と地域を比較してごみを減らす取り組みを調べたところ、いずれもごみの収集日は決まっており分別してごみを出していることに気づきました。

     45分の授業時間の中で、教師と子供で問いを作り、ベン図を使って情報を収集しながら比較して考え、対話しながら加筆修正し、共通点をもとに問いの答えを導き出していました。子供が熱心に情報収集できるのは、問いが自分の問題意識と合っているからでしょう。K先生が、子供と共に問いを作るのは、その後の学びをより主体的対話的で深い学びにしていくためです。

     もし、子供が4つの私たちの周り(学校、家庭、地域、お店)のうち1つだけを選んで、問い(「ごみを減らすために私たちの周りはどのようなことをしているのか」)の答えを探したとしたら、どうなるでしょう?子供のノートには、例えば「学校」が取り組んでいることが羅列されることになるでしょう。K先生は、そうせず、4つの私たちの周り(学校、家庭、地域、お店)から2つ選び、ベン図を使って比較して考え、共通点に着目する活動を設定しました。共通点を見出すことで、ごみを減らすためにしていることが、浮かび上がってきます。見出した共通点は、分別であったり、リサイクルであったりするなど、羅列ではありません。2つの私たちの周りの取り組みを調べた上で、子供自身が見出した共通点を言葉やフレーズで表しているのです。

     また、密度の濃い時間となっている背景には、子供の問題意識をもとにした問いを作り解決するという授業設計に加え、電子黒板やタブレットなどのI C Tの活用、ベン図などの思考ツールの活用があります。これらを活用することで、思考、対話を組み入れた問いの解決が限られた時間の中でも可能になるのです。

    管理人
    キーマスター

    中村百合子です。図書館・情報スペシャリスト養成の世界最先端と言えるだろう、アメリカと欧州の二つのプログラムを報告してきた連載の番外編は、前回を受けて今回で完結します。カナダのアルバータ大学(院)の学校図書館専門職および教員の養成課程における児童文学の授業の実践報告で、Lynne Wiltse博士が2022年1月28日のオンラインシンポジウムで発表してくださった内容です(英語の記録)。[ ]に入れて記述する内容は、訳者による追加説明で、内容をよりよく理解していただくために加えたものです。

     授業では、多文化主義の正の側面を表現している本を検討します。多文化主義への批判的検討も行います。そして、同質的な国家という感覚に対して疑問をもたせるような児童文学も読んでみます。例えば第二次世界大戦中の日本人の強制収容についてのFlags、第一次世界大戦中のウクライナ人の強制収容についてのSilver Threads。カナダ国内で鉄道を建設しているときに、中国人を適切に扱わなかったことについてのGhost Train。また、Shi-she-etkoShin-chi’s Canoeは共にインディアンの寄宿学校(Indian Residential School: IRS)についての本です。

     カナダの歴史における難しい側面を学んできた学生が、M is a Mapleというタイトルのカナダの、カナダの象徴的な存在であるメープルを使ったアルファベットの本をひいて、MはむしろMythつまり神話を意味するのだと意見を述べました。

     カナダにおける多文化主義に関わる最大の課題の一つは、主流の人びとと先住民の人びとの趣向の積年の乖離に政策が対応していないというあり方です。ですから、多くの人がカナダの多文化政策を前向きにとらえていても、多くの先住民の人びとには前向きに受けとめられてきていません。ジャーナリストであり政治家でもあるWab Kinewは、先住民の人びととの和解は今もカナダが直面している、最も急を要する社会正義の問題だと強く主張しています。土地の問題が和解の核です。[本プレゼンテーション前編冒頭の「この土地に対する感謝」を参照]

     同時に、多文化の児童文学は、より包摂的なカナダの未来を形作るのに使うことができます。特に、もし多文化の文学の定義が、民族・言語・人種・社会階層・ジェンダー・性的志向・能力を含むものとするなら、そうでしょう。授業中に見ているこうした児童書は、幅広いトピックを扱っています。

     私は当初、多文化とは何かということについてもっとずっと限定的な見方をしていました。つまり、より広い定義の反対で、民族にもっと焦点をあてていました。私たちの学生たちの多くも私の当初の見方で授業にやってきます。

     例えば言語について言えば、カナダは公式に英語とフランス語の二言語の国です。しかし、それ以外の言語にも支援があります。

     私は学生たちに二言語で書かれた本に触れる時間を多くもってもらうようにしています。というのも、エドモントンには移民の人たちがたくさんいますし、近年は多様な国々からの難民がいるのです。

     英語以外の言語を話す、またはそれ以外の言語を学修している英語話者の子どもに向けて、一つ以上の言語で書かれた本を授業で検討しています。例えばこのStepping Stones(飛び石)は、シリアの難民の家族についての本です。石を使った芸術作品が用いられ、英語とアラビア語で書かれています。

     

     私たちにとって重要な話題の一つは、先住民の言語の維持と復興を支えることです。不幸にも、たくさんの先住民の言語が、主として寄宿学校でそれらの言語が禁じられたことによって引き起こされた損害によって失われ、もしくは危機にあります。

     インディアン寄宿学校(IRS)についての児童文学は今、数多く出版されています。数年前にカナダでは「真実と和解のための委員会(Truth and Reconciliation Commission)が置かれ、94項目の行動への呼びかけが発表されました。寄宿学校、インディアンとの条約、原住民の人びとのカナダに対する歴史的・現代的貢献について、幼稚園から12学年の義務的な必修教育での年齢にあったカリキュラムが、和解のための教育として提言されました。原住民ではないカナダの教師たちの多くはそれを支持するべきではありましたが、同時に非常に神経質になりました。というのは、インディアンの寄宿学校制には難しい歴史があるからです。

     ただ、何年も前に私が教えはじめたころと比較すると、教師は児童文学を通してこの話題を教えることはやりやすい立場にはあります。BIPOC、つまりBlack, indigenous and people of color(黒人、先住民や有色人種)の運動に対して多くの関心が必要とされているのであり、今は行動するのに適当な時期です。

     私は指導において、批判的多文化分析(Critical multicultural analysis)のアプローチを使っています。これは社会正義を指向することを基礎としたものです。

     私は教育活動において、自分が参加している研究をたくさん活用しています。

     英文や英語を学ぶ学科で児童文学を学ぶ科目と違って、私たちが教育学部で課す課題や活動の多くは、教員として指導することを念頭においたものです。望むらくは、学生たちが後にこれらの経験を自身の指導に役立てて欲しいです。

    管理人
    キーマスター

    中村百合子です。前回の更新からだいぶ時間が経ってしまいましたが、図書館・情報スペシャリスト養成の世界最先端と言えるだろう、アメリカと欧州の二つのプログラムを報告してきた連載の番外編として、カナダのアルバータ大学(院)の学校図書館専門職および教員の養成課程における児童文学の授業の実践を報告します。Lynne Wiltse博士が2022年1月28日のオンラインシンポジウムで発表してくださった内容です。発表言語である英語の記録を翻訳して今日から2回に分けてご紹介します。[ ]に入れて記述する内容は、訳者による追加説明で、内容をよりよく理解していただくために加えたものです。

     今日の未来への道のシンポジウムで私が発表するのは、多文化・多言語のカナダ社会において児童文学を教えることについてです。私が教える児童文学の科目はアルバータ大学教育学部に置かれています。

     [この日のシンポジウムの記録は立教大学司書課程紀要St. Paul’s Librarianの36号(2021)に英語で掲載]

     [ここで「この土地に対する感謝」と訳したのは「Land Acknowledgementで、近年、北米の多くの大学または学部等が作成し、掲げている。先住民の人たちが暮らしていた土地に、欧州からやってきて土地の所有の概念をもちこんだ。今のアメリカやカナダや現代の諸機関はそのような歴史の上にあることを認識しているという宣言であり、それを継続させてもらっていることに関わって先住民の人たちに感謝を示している。]

     [メティスとは、ネイティブ・アメリカンとヨーロッパ系の両方の先祖をもつ人たちで、独自の文化を作りあげている。アルバータ州にはメティスの居住地域が八つある([Government of Alberta.] ”Metis Settlements locations,” the Government, (参照2023-11-17).)。イヌイットは、カナダ極北の先住民。]

     私が教えている児童文学に関する2科目が焦点をあてているのは、次のようなことです。二つのクラスのうちの一つは教師になる学生たちが対象で、もう一つはすでに教師の人たち向けのクラスです。この二つの科目は小学校における指導に関するものです。

     このスライドを作成しながら驚いたのは、児童文学における多様性ということが、教育と研究の両方で私の仕事の一部になっていることでした。文化的な多様性についての本に私は囲まれています。そして、Shortが指摘したアメリカの児童文学との違いの一つは、カナダは多様性というトレンドとつながっているということだと私は気がつきました。   

     Setteringtonが指摘したように、確かにカナダには多様な文学がたくさんあります。私は過去12年かそれ以上の間、関連の研究プロジェクトに参加して、教師や教師になろうという学生たちとそうした文学を使うことについても検討してきました。

     カナダは多文化主義で知られますが、カナダの国内というよりもむしろ国外から、その点が違って見えているのかもしれないと思います。この多文化主義の政策をカナダは1971年から維持しています。当時、私は若く、この政策について前向きでナイーブな見方をしていました。教育学の学位を取った後、私は孤立した遠方の先住民のコミュニティではじめて教育の仕事に就きました。自分がいかに軽く考えていたかがわかりました。この時、しばらくたってからですが、鏡と窓という考え方を知りました。子どもたちは自分たちが映し出される鏡である本と、また自分がいるところの外の世界に開かれた窓である本が必要です。Rudine Sims Bishopが、[読者が想像力によってそれを開いて文学の世界に入っていく]ガラスの引き戸とともに、鏡と窓の隠喩(たとえ)を提唱しました。日常的に、私は自分が映し出された本を読んで育ち、それをあたり前だと思っていました。でも、私のはじめての生徒たちは先住民で、自分たちの読む本の中に自分たちが映し出されているのをみてはいませんでした。少なくともポジティブな形では自分たちは描かれていませんでした。

     私のはじめての教職では、私の生徒たちが読むことを課されていた文学に、先住民の人たちは非常にネガティブに描かれていました。これは私の教師としてのキャリアの中で最も不快な経験の一つで、私は、子どもたちが読む文学の中で自分たちがポジティブに映し出されているのをいかに見る必要があるかということについて学びはじめました。それは特に、自分の目の前に座っていたような、伝統的に周縁化されてきた子どもたちに特にそれが必要だと思いました。鏡と窓は私が自分の指導に取り入れているたとえの一つです。学生たちが窓と鏡の隠喩について学んだ後、クラスの電子掲示板(eClass)に書き込まれた反応をみてください。

     このコメントは、私の現在の学生の一人が書いたもので、彼女は過去には先住民の人びとについて限られた、単一の物語しか知らなかったと応えています。けれども、教員養成課程で学んでいく中でこの学生はIRSで実際に何が起きたのかを学び、そうした学校を経験して現在まで生きている人が話すのを聞く機会を得ました。これによって、彼女の思考が劇的に変わりました。そして、先住民の人びとについての彼女の中の単一の物語は破壊される結果になったわけです。

    続く…

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    キーマスター

    青栁啓子です。甲州市立勝沼図書館の子ども読書クラブ・カムカムクラブの活動を紹介しながら、「遊びと探究の間」をテーマに投稿しています。今回は、本の話をお休みして、電子おもちゃのお話です。

    カムカムクラブの長年の懸案と言えば、デジタルへの対応だった。デジタル・ネイティヴの子どもたちを前にして、本と手作り小道具を使い20年もアナログな活動を楽しく行ってきた。しかし、私たちもそろそろデジタル的なこと(情けないワードだが・・・)をやってみたい、いや、やらねばと思っていた時に、出会ったのがこのおもちゃ。アメリカの乳幼児おもちゃブランド、フィッシャープライスの「コード・A・ピラー」はつなげて遊ぶ自走式いもむしロボットである。虫の体のユニットそれぞれに進む方向が決まっており、組み合わせることで、虫の進路を自分で決められる楽しさがある。2019年に図書館で購入した。

     このころから児童書にも「プログラミング」という言葉をよく見るようになり、翌年から小学生の新学習指導要領にも「プログラミング思考」という文言が登場した。文部科学省によると、プログラミング的思考とは「自分が意図する一連の活動を実現するために、どのような動きの組合せが必要であり、一つ一つの動きに対応した記号を、どのように組み合わせたらいいのか、記号の組合せをどのように改善していけば、より意図した活動に近づくのか、といったことを論理的に考えていく力」(注1)ということだ。

    2019年6月の活動

     おもちゃ自体は、対象年齢3歳からということで、小学生には幼すぎるのではないかと危惧したが、グループで協力してコースをクリアするという課題を設けると、子どもたちは夢中になって遊んだ。部屋の中で、スタートラインを決めて、画用紙で作った草を置いて、コースを作り、競争したのだ。行けー!と応援する子ども、無事にゴールへ行けるようにお祈りする子ども・・・それぞれの形で盛り上がった。3度目にクリアできると、次には自分たちでコースを作って走らせるという遊びに発展した。

    2022年11月の活動

     新しいおもちゃではないが、プログラミング気分で気軽に遊べるという点でおすすめグッズである。しかし、使ってわかった難点もあった。スイッチを入れるとかなりの音♪が鳴るという点だ。これは図書館にはつらい・・・購入前はオープンな児童コーナーで使用しようと目論んでいたが、それは厳しいということで、別室で行う人気プログラムとなった。気づけば、和室でわいわいと昔の遊びをしているような不思議な感覚がした。おもちゃは変わっても、遊びの本質はきっとかわらないのだろう。これからも、子どもたちが主体的になれる遊びを軸にプログラムを作っていきたい、とそんなことを考えさせられる活動となった。


    (注1)文部科学省「小学校プログラミング教育の手引(第三版)」同省,2020.2(2023-10-11閲覧).この手引きのp. 9などを参照。もともとは小学校段階における論理的思考力や創造性、問題解決能力等の育成とプログラミング教育に関する有識者会議で示された考え方。

    管理人
    キーマスター

     カムカムクラブは絵本の読み聞かせで毎回始める。

     毎年年度末に1年間に読んだ本の人気投票を行うのだが、今回は2022年度に読んだ本で最も得票した絵本を取り上げよう。

     『バスが来ましたよ』

     難病で視力を失った市職員の山崎浩敬さんの実話を絵本にした作品。彼がバス通勤をする際に10年以上にわたって、地元の小学生が手伝ってくれたという心あたたまるエピソードで、身近なリアリティーを感じる。いろいろなメディアで紹介されてきたので、ご存知の方も多いとは思うが、よい絵本なのでここで改めて紹介したい。

     絵本は「小さな助け合いの物語賞」の第11回しんくみ大賞を受賞した「あたたかな小さい手のリレー」という山崎さんのエッセイを元にしている。当エッセイより、山崎さんと女の子の出会いの部分を引用しよう。

     朝の通勤に使うバスには、和歌山大学附属小学校の児童が乗っています。ある朝、「おはようございます」というかわいい声が聞こえました。「バスが来ました」また声が聞こえました。そして、私の腰のあたりに温かい小さな手があたりました。そして、バスの入り口前まで誘導してくれて、「階段です」と言い、背中を入り口方向に押し出してくれました。座席に座っている子に向かって、「席に座らせてあげて」と言ってくれました。感動です。私は遠慮しながら、「いいの?」と言うと、「座って」と返事が返ってきました。

    山﨑浩敬「あたたかな小さい手のリレー」

     これが絵本になると、こうなる。

    「おはようございます。」

    小さなかわいい声がきこえてきました。

    「バスが来ましたよ」

    わたしのこしのあたりに、

    小さな手がそえられたのが、わかりました。

    「えっ・・・・・・・」

    白状をにぎりしめていたわたしの手が、

    ふわっとゆるみました。

    声の女の子は、「ここが、かいだんですよ」といい、

    バスの入口のほうに、わたしをおしあげてくれたのです。

    わたしがぶじにバスにのりこむと、女の子はさらに、

    「席、ゆずっていただけませんか?」

    と、すわっているひとに声をかけました。

    「いいですか?」とだれかれともなくいうと、

    「どうぞ」と声がかえってきて、

    わたしは席にすわることができました。

    由美村嬉々/文, 松本春野/絵(2022)『バスが来ましたよ』アリス館.

     女の子はさきちゃんという名前の小学生。山崎さんとさきちゃんのこの最初の出会いは短い文章だが、絵本では6ページ分3つの場面にわたって描写されている。ここをしっかりていねいに描くことで、物語が説得力を増す。何気ない描き方に見えるかもしれないが、余計なものがなく、すっと懐に入ってくるような言葉の選択には、老舗出版社で絵本の編集に携わってきた作家の力量が発揮されている。

     白状を持った方に声をかけ、体にそっと手をそえ、さらにまわりの人に声をかけて助けを求める・・・知らない人に声をかけるというだけでも勇気ある行動なのに、この女の子の一連の行動は、視覚障がいの方を手伝う際のお手本のように見事な動きである! さきちゃんは、その後も毎朝同じように山崎さんのバスの乗り降りの手助けを続けた。 

     そして、その手助けは、さきちゃんが卒業すると妹のみなちゃんに引き継がれ、さらにその妹や友だちに受け継がれていき、10年以上も続いたという。

     読み終わって、「さきちゃんのことどう思う?」と聞いてみたら、「すごい!」と口々に返ってきた。「これは本当にあったお話だよ。」と言うと、一人の男の子が「知ってる。この前NHKで見たよ。」と教えてくれた。エッセイが賞をとり、『読売新聞』の記事になったことで、作家がこのことを知り絵本にしたという。さらにテレビも取り上げた。様々なメディアを通し、多くの人に知られることになったのは素晴らしいことである。

     物語を自力で読み始めた小学生は、多くが次にノンフィクションに興味を持つと言われている。最近はCGアニメのような刺激的な色合いの絵本が多くなってきた中で、この優しい色調の絵本が印象に残ったという子どもたちの選択眼は確かなものと感じた。小学生が主人公で身近に感じたこと、実話がリアリティを失わずにあたたかな雰囲気の絵本になっていることが、子どもたちの支持を得た理由であろう。

    (青栁啓子)

    管理人
    キーマスター

    青栁啓子です。甲州市立勝沼図書館の子ども読書クラブ・カムカムクラブの活動を紹介しながら、「遊びと探究の間」をテーマに投稿しています。第3回目は予読本で読書へのアニマシオンをスタートするお話です。

     1回目で自己紹介2回目で図書館巡りを経験したメンバーは、3回目はまた少し緊張して来ている。それは「課題本を読んでくる」という初の宿題をやってきたからだ。読書へのアニマシオンでは、家であらかじめ本を読んできて会に参加するのが本来目指す形である。少しブッククラブらしくなってきたかな。

     前回貸し出した本は『アフリカ ないしょだけどほんとだよ』。読書レベルは小学校低学年向け。3、4年生には易しすぎると感じる本だが、<最初の宿題>というハードルを低く設定するにはこれくらいの本がちょうどよい。読むことが苦手な子も集中が続かない子も読めるような短い話が5つあり、それぞれに個性的な動物が主人公で登場する。ユーモラスで楽しい話なので、本嫌いの子にもおすすめしたい。なんといっても、1年間宿題に出した本を読まずに参加したDくんが、2年目のカムカムクラブで4年生にして初めて完読してきた記念すべき本なのだ。

    『アフリカ ないしょだけどほんとだよ』竹下文子/作 高畠純/絵 ポプラ社 2003年

     その時のD君の様子は、これまでとは違っていた。部屋に入るなり、「読んできた! 読んできた!」とうれしそうにしていて、他の子どもにも読んだかどうか尋ねていた。私がいつものようにみんなに「今日、みんなこの本読んできたかな?」と問いかけると、またまた読んだことを大声でアピールしていた。実は全く読んでこないD君に2年目はどのように対処しようかと私たちもさすがに頭を悩ませ始めていたところなので、この変化は嬉しい驚きだった。

     この本でするゲームは椅子取りゲームとクイズを組み合わせた遊びだ。

    素材)人数分のカードを作成する。カードには、主人公の動物の名前を〇〇と伏せ字にして本の文章を抜書きしている。5つの章から同数の文章を選ぶ。(20人の場合1章につき4つの文)
    
    会場)人数分の席を5グループに分けている。グループ名は各章の主人公の動物名(ワニ、ヘビ、etc.)。子どもたちは好きな席に座っている。
    
    進行)1、子どもたちは1枚ずつカードをひいて、自分だけでカードの文を黙読し、その文章がどの章の文かを考える。
    
       2、最初の子Aが立って前に来て、カードの文章(文は一部○○と伏字になっている)を読み上げる。その文の章のグル-プの席に移動する。移動先には、別の子Bが座っているが、BはAに席を譲る(写真ア)。次にBが回答者になり前に出て発表する。そうやって、全員が発表し、正しい席に座る。
    
       3、章ごとにグループで前に出て、〇〇を埋めながら、順番に並んで文を読み、今度は章タイトルの穴埋めクイズに答える(写真イ)。
    
       4、最後に自分が引いたカードが本のどこに出てきたか探し、本のページを開いて担当者に示したら終了(写真ウ)。

    (写真ア)「この席かわって」

    (写真イ)正しい席に移動が終わると掲示する

    (写真ウ)どこに出てきたか探し中

     この遊びの良い点は、本もクイズ自体もとても簡単なのに、読んだからこそ遊びに加われること、ルールに従って席を移動するので体を動かすことである。カムカムクラブの読書活動には必ず身体活動を組み込むことにしている。そうすることで、グループの読書活動が遊びに変わる。

     カムカムクラブは、子どもの自立心を育てることを重視している。それが、自ら読み、自ら学ぶことにつながるからである。幼児の間は熱心に図書館のお話会に通ってくる親子も子どもが小学校に入ると、足が遠のいてしまう人が多い。読み聞かせを楽しんでいる子どもが、学校で読み方を習ったからといってそのまま全員が読み手になるわけではない。この読み聞かせからひとり読みへの移行期に、読む子と読まない子の差がつき始めるが、小学校では低学年の時ほど読書の時間を確保できない。

     また、成長の発達過程でも彼らは大きな壁に当たっている。『子どもの「10歳の壁」とは何か? 乗りこえるための発達心理学』(渡辺弥生著 光文社新書 2011年)によると、9歳、10歳は、非常に注目に値すべき年齢だという。この年齢は「さまざまな認識の領域で、質的に変化する時期」であるが、「この質的な変化が、スムーズに移行できる人と、停滞してしまう人とに分かれやすく、全体的には、不安定になる時期」という。「そのため、認識の枠組みがステップアップできるように、適切な支援が必要なとき」なのである。カムカムクラブで対象年齢を小学3、4年生としているのは、そんな彼らの読書活動をサポートしたいからである。私たち大人にできることは、子どもが独力で読み始める際のハードルをなるべく低くし、これから読書の大海へと漕ぎ出す彼らを励ますことだ。

     例のD君はその後、3月まで全ての課題本を自力で読んできた。よかった。

    管理人
    キーマスター

    中村百合子です。図書館・情報スペシャリスト養成の世界最先端と言えるプログラムを報告している本連載も最終回(第11回)になりました。ただ、次回から番外編としてもう2回を予定しています。今回はCristina Correro Iglesias博士からの英語での報告(2019年2022年)にもとづき、バルセロナ自治大学での児童文学の授業の概要、そして最後にスペインとフランスの最新の子どものための図書館サービスの実践を少し紹介します。

    世界中に広がる児童文学研究者のネットワーク

     スペインのバルセロナ自治大学(University Autònoma in Barcelona: UAB)に、1999年から2019年まで、GRETEL (Research Group on Books for Children and Youngsters and Literacy Learning)という児童文学と義務教育学校や図書館等におけるその活用等の研究会が置かれていたこと、またその研究会のネットワークを活用しながら、五つもの児童文学に関わる専門職養成のプログラムが生まれたことを、前回、報告しました。

     例えば、そのうちの一つ「本と児童文学のオンライン修士号」プログラムは英語・スペイン語でオンラインで提供されています。その講師陣は左に見られるように、世界中にいます。講師は各分野の最善の人を選ぶこととして、どこに住んでいるかや大学での地位、またh指数(Hirsch index:論文数と被引用数に基づいて研究者の貢献度を示す指標の一つ)は考慮せずに、独自の方法に拠って選ばれています。ちなみに、左の写真の上段の一番左がGRETELの設立者Teresa Colomer博士で、その二つ隣がCristina Correro Iglesias博士の写真です。

     世界中から講師、また学生を集めていること、理論的な内容、各授業で提供されているもの、使われる言葉、そして各授業内の活動において、学生たちは国際感覚を磨かれていきます。取りあげられる本や理論的な内容は、多彩な読み手を想定した多文化的な評価基準にもとづいて注意深く選ばれています。使われている言葉群(corpus)の選択や資料の評価基準については、読み手、目的、質、形態(typology)といった要素を、それがどのように出てきたものかということと合わせて考慮します。

     取りあげる本は、一般的な質の観点に加えて、類型として異なる本を選び、また代表的なもの、そして国際的または各国で受賞歴のあるものを選ぶことになっています。使われている言葉群の選択としては、民間伝承(forklore)の資料、本、アプリその他の電子形態の資料を含むようにしています。特定の民族を重視して描いていたり(ethnocentric)、覇権的であった(hegemonic)、代表であるかのように描かれすぎていたり(over-represented)といったことがないことも重要です。

     一例として、私が教えている「幼年期のための絵本」の授業では、地元の民間伝承と、世界の他の地域の伝統的な資料とを合わせて取りあげてきました。そのために、十数時間の長さの、世界中の子守歌のリストをSpotifyで作成しました。左の画面のキャプチャをクリックして聞いてみてください。また、参考文献は世界中の研究者のものに目を配り、英語中心にならないようにしています。

     国際的な児童図書館員のための授業を計画する際には、その目的と受講生をはっきりさせたうえで、シラバスを書きはじめるべきでしょう。それがうまくいったところで、多様性と多文化主義が二大柱とされるべきです。指導者、受講生、類型、言葉群の選択、教材は、それを反映したものであると同時に、世界中の異なる地域や文化を映し出したものであるべきです。オンラインのプラットフォーム、優れた本、国際的な機関、心を開いて参加してくれる人たちが推進力になり得ます。

    スペインとフランスの図書館の事例

     スペインやフランスの図書館では、サービスを進化させ、拡張している例がみられるようになっています。文学教育や芸術性という意味で展開が見られるだけでなく、宿題支援、wifi、音楽、お料理教室(cookiteka)、コンサート、テレビゲーム、展覧会、ワークショップ、会議、古い本、デジタル空間の提供が行われています。ヨーロッパではこのような新しい空間は、建築術の変化という価値のあることとみなされています。そして、社会的・文化的な分断と闘う空間とも考えられるようになっています。

     公共図書館と学校図書館の協働は、スーツケースに入れたコレクションの交換やネットワーキング、お互いの訪問ツアーで知られるようになっています。学校図書館は非政府組織(NGO)と協働して読書を推進し、社会的な不公正の改善に取り組んでいます(例えば、ACCESSl’Assotiation Quand les levres relientFAIRE LIRE)。そこで優れた能力をもつ人材の育成がカギになってきます。本を推薦するだけではなくて、ビデオゲーム、コミックや漫画、劇、音楽、テレビ番組などを推薦できないとなりません。

     バルセロナの学校図書館で充実していて知られるのは、右の写真にある、オルランダイ小学校とフランス人/語学校(フランスの教育省によって認可されている)です。スタッフは学校図書館に関する修士号をもっているだけでなく、自ら学び続けています。開館時間が延びて、児童・生徒だけでなく、家族も利用できるようになっています。

     

     公開の、柔軟な空間は、一種のアート空間(Artothèque)という新たな性質を帯びています。右の写真にあるように、家族を巻き込んだプロジェクトが行われ、地域の機関と強固なネットワークを築いていることが、両学校図書館の様子からうかがわれます。

     

     さて、次回から2回は、カナダのアルバータ大学の学校図書館専門職および教員の養成課程における児童文学の授業の実践を報告します。Lynne Wiltse博士が2022年1月28日のオンラインシンポジウム「Road to the Future: Discussion for Developing the International Children’s Literature Course」で発表してくださった内容(英語の記録)にもとづくものです。

    管理人
    キーマスター

    中村百合子です。図書館・情報スペシャリスト養成の世界最先端と言えるプログラムを報告している本連載前回(第9回)はスペインのバルセロナ自治大学(University Autònoma in Barcelona: UAB)に、1999年から2019年まで、GRETEL (Research Group on Books for Children and Youngsters and Literacy Learning)という、児童文学と義務教育学校や図書館等におけるその活用等の研究会が置かれて、さまざまな取り組みがされていたことを報告しました。今回(第10回)は、GRETELから生まれた、児童文学に関わる専門職養成のプログラム、なんとその数、五つにものぼりますが、それらを紹介します。前回(第9回)、今回(第10回)、また最終回の次回(第11回)は、すべてCristina Correro Iglesias博士からの英語での報告によっています(2019年2022年)。最新情報をCorrero Iglesias博士に確かめつつ、正確な記述に努めます。

    グローバルな視野からみる児童書[英語]

     このコース(Children’s Books from a Global Perspective)は、英語で提供されるオンラインのコースで、2カ月間の長さのものです。欧州単位互換制度((European Credit Transfer and Accumulation System: ECTS)の11単位(275時間)にあたります。受講料は750ユーロです。受講の条件に、学歴要件などはありません。カリキュラムには、四つのコア科目と児童書の古典といえる作品(classics)について議論し文学を読み込む科目で構成されます。児童書の古典を読む科目は、児童文学を中心に学ぶ文学修士課程の科目から一つを選んで履修することになっています。[このコースは2015年~2018年に毎年、開講されていました。]

    児童・青少年文学コース[スペイン語]

     このコース(Curso en Libros y Literatura Infantil y Juvenil)はスペイン語のオンラインのコースで、2カ月、児童文学と読書推進について学びます。欧州単位互換制度(ECTS)の11単位(275時間)にあたります。受講料は726 ユーロです。受講の条件に、学歴要件などはありません。カリキュラムは三つのコア科目で構成され、そのすべては、児童文学を中心に学ぶ文学修士課程の科目から選んで履修することになっています。[このコースは2012年~2018年に毎年、開講されていました。]

    本と児童文学のオンライン修士号[英語・スペイン語]

     このオンラインの修士課程(Online Master’s in Books and Children’s Literature)はバルセロナ自治大学とベネズエラ銀行(Banco de Venezuela)が共同で設置しました。教授言語は英語とスペイン語です。欧州単位互換制度(ECTS)で、必修科目48単位、選択科目12単位、合計60単位(1,500時間)のカリキュラムになっています。1年で修了することが期待されています。学費は約48万円です。オンラインのプログラムなので、世界中の経験豊富な指導者との協同で提供することができ、また受講生にも世界中の現職者の専門職の人たちが集まります。受験にあたっては学士号が必要です(望ましいのは教育学、心理学、図書館学)。2005年の開設以来、これまでのところ、毎年40~45名が入学していて、その93%が女性になっています。修了率は88%です。

     カリキュラムは必修科目(9月~2月)と選択科目(2月~6月)に分かれています。前者には、以下にあげる5科目があり、後者は必修科目を補完するような科目群で、実習、その他の特論系科目(古典作品の講読;会議参加;バルセロナでの集会)があります。

    • 子どものための本と文学概論(10単位)
    • 本、批評、読者(15単位)(以下に内容を例示)

      • 児童文学のイラストレーション
      • 児童文学の選書
      • 児童文学の批評面
      • 社会の価値観と児童文学
      • 文学テクストに関する議論と解釈

    • 読むことに関するプログラム(10単位)
    • 学位論文(6単位)
    • 子どものための本:生産、利用、受容(9単位)(以下に内容を例示)

      • 困難な環境での文学
      • 読書推進のプロジェクト
      • 学校での読書推進
      • 幼い子ども(3才まで)のための文学
      • 絵本の歴史
      • ライティング・ワークショップ(作文教育)
      • デジタルの児童文学
      • 児童文学における詩
      • 実習

     この修士号プログラムの主な目的は児童とヤングアダルトのための文学について学ぶことです。そうした文学を、次世代の若者たちへの文学や文化に関わる教育に、そしてリテラシーが求められる社会(literate society)が機能することにつなげるのです。児童文学が現在、いかに生み出されているかを学びますので、修了すれば、キャリアとしては次のような道が拓かれています。学校図書館または公共図書館の児童室で働く、出版社で働く、児童文学に関連する公的な機関やその他の社会的な活動で教育内容を評価する専門職として働く。[このコースは2005年~2019年に毎年、開講されていました。]

    学校図書館と読書推進修士号[カタロニア語・スペイン語]

     この修士課程(School Librarian and Reading Promotion Master’s)は、2008年にバルセロナ自治大学がバルセロナ大学(University of Barcelona: UB)が共同で開設したプログラムで、現在まで続いています。カタロニア語とスペイン語が教授言語です。対面授業と遠隔授業が組み合わされており、個人指導や学校図書館と公共図書館での実習もあります。修了にはECTSの60単位(1,500時間)が必要で、原則として1年で修了することになっています。学費は日本円にして約33万円ですが、EU圏外からの学生は約47万円になります。毎年30名から40名弱の学生が入学し、その9割程度が修了しています。

     本修士課程は、学習情報資源センターとして学校図書館を組織化して運営できるようになるためのものです。読書計画のデザイン、本の選定と活用、情報の検索と選択、利害関係者たちを文化的につなげる存在、人びとの読書習慣によい影響を与えるコミュニティに向けたプロジェクトを開発することを学びます。スペインの教育省は公式にこの修士号学位の取得者を学校図書館と読書の専門性をもった教育者として認めており、学校が新しい教員枠を要求する際にこの新しい専門性をもった人を選ぶことができるようになっています。しかも学校図書館と読書推進に関する修士号またそれにつらなる博士号はスペイン国内に一つしかありません。ただし、同修士号プログラムで学ぶ学生の中には、公共図書館の児童室で働く、出版社や情報資源センターで働く、ストーリーテラーなどとして社会的・文化的な表現者になるというようなことを希望する者も含まれています。

     欧州理事会情報協会(European Council of Information Associations: ECIA)[情報およびドキュメンテーションに関わる協会の意見集約の組織]が策定している「情報およびドキュメンテーションに関する欧州指針(European Guide on Information and Documentation)」[1998年にはじめて採択され2004年に新しいものが出されている]を、ドキュメンテーションと科学情報のためのスペイン協会(Sociedad Espanola de Documentacion e Informacion Cientifica: SEDIC)も採択しています(2004年版はここに見つけられます)。よって、それに書かれているとおり、スクールライブラリアンはライブラリアンシップ(librarianship)[図書館で働くために必要な知識や態度など]の能力だけでなく、教育の能力も身につけている必要があります。

     本修士課程の受験にあたっては学士号が求められますが、望ましいのは教育学、心理学、図書館学、ドキュメンテーション学をスペインまたはヨーロッパの大学で学んでいることになります。入学前にいくらかは教育学や図書館学を学んだ経験があることが期待されており、それをさらに修士課程で伸ばすことになります。スクールライブラリアンに求められるスキルとしては、自律性、コミュニケーションスキル、共感力、指導力、知的好奇心などがあります。もちろん、それら以上に、教育、図書館、読書推進に関心があることが必要です。また、教育や社会的介入に関わる共同事業に参加できる力が必要です。自立していて、自分の仕事を計画し整理して進めることができ、同時に創造性や柔軟性がある、自主的な人でなければなりません。

    児童の文学・メディア・文化に関するエラスムス・ムンドゥス修士号

     この修士課程(Erasmus Mundus Master’s in Children’s Literature, Media and Culture: CLMC)は2019年に開設され、現在まで続いています。バルセロナ自治大学と、スコットランドのグラスゴー大学(University of Glasgow)、オランダのティルブルグ大学(Tiburg University)、デンマークのオーフス大学(Aarhus University)、ヴロツワフ大学(University of Wroslawski)の五大学の共同設置課程です。本課程の修了には四学期(2年間)がかかりますが、次のように、大学間を移動して学んでいきます。

    • 1学期@グラスゴー大学:児童文学に対する歴史的・批判的見方
    • 2学期@オーフス大学:マスメディアや新しい情報媒体に影響を受ける児童文学
    • 3学期@バルセロナ自治大学:読書の推進;または@ティルブルグ大学:文化間の相違を超越した児童文学の発展(transcultural trajectories);または@ブロツワフ大学:映画や参加を求める文化(participatory culture)(三つの大学からどちらの大学での学修を選択しても、現場での実習が含まれる)
    • 4学期:学位論文の執筆(2年間、学びながら進め、この最終学期に完成させる)

     つまり、選択肢として、三つめの学期をバルセロナで過ごして、学校図書館と読書推進を専門的に学ぶことができるようになっています。基本の教授言語は英語です。しかし、母語以外に、二つめの言語を習得することが強く推奨されています(英語、スペイン語、カタロニア語、デンマーク語、ポーランド語)。受験にあたっては、学士号と英語力の証明が必要です。

     本修士課程のねらいは、学生たちの間に、児童およびヤングアダルトに向けた文学、メディア、文化への関心や経験を伸ばし、文学、メディア学、児童学や児童教育学の交差する部分の知識を国際的な角度から深めることです。同時に、子ども時代の文化を形成する児童やヤングアダルトに向けた文学、メディア(視聴覚、デジタルを含むテクスト)の総体に対して、評価し批評するために用いることのできる方法を学びます。多文化のテキストを生産し消費する際の児童、ヤングアダルト、大人の交流を検討し、その交流を文化と創造性を組み合わせることで促します。またしっかりとした調査研究をとおして、複数のリテラシーを多様な教育の文脈や政策に統合するという挑戦を検討します。さらに、文化に関わる豊かな感性を育むべく、多文化のテクスト、メディア、芸術作品(文化遺産を含む)の分析や学問的な会話を国際的な学生の間で行います。専門職の文脈と地域社会の文脈における、文学的テクスト、視聴覚やデジタルのテクストの推進、役割やその利用者たちについて、学生たちはさまざまに提出されている概念や理論、議論を批判的に理解します。子どもに向けた本、メディア、芸術作品のグローバルな市場を理解することも含まれます。子どもに向けたテクストや各種のメディアが子どもの成長・発達にさまざまな要素が競い合って影響を与えていることをいかに反映しているかという視点を拡張します。それらのテクストやメディアは、差別や正義といった社会・文化的な課題に対する批判的な認識を拡げる可能性をもっていますし、現存するグローバルな課題を表現して社会変化の推進力にもなり得ます。異なる文化の間のコミュニケーション、協力するためのスキル、市民性の発揮といったことも、ヨーロッパ内だけでなく、グローバルに、それらの発展に貢献します。ヨーロッパや欧州共同体(EU)の価値観をより多くの人に認識してもらうということにもつながります。

     講師には研究者も実践家もいます。子どもたちが文学その他のテクストとかかわる方法を理解し、その方法をよりよいものにする必要があると考えている人たち、また児童文学研究に理論的なしっかりとした基礎を作りたいと考え、歴史的、文学的、教育的、もしくはメディア研究的な枠組みから取り組んでいる人たちがかかわっています。一方で、実践的なスキルを習得してもらうべく、三学期目には、図書館、アーカイブズ、博物館・美術館、映画産業、放送局、出版者、本や読書の推進団体での実習をします。

     この修士課程には手厚い奨学金制度があります。学費は日本円にして約160万円ですが、EU圏外からの学生は約366万円になります。定員は毎年35名ですが、そのうち22名に対して奨学金が提供されることになっており、そのうちの5人はアジアからの学生とされています。この奨学金は、学費だけでなく、保険、大学間の移動や引越し、生活費その他、この修士課程でかかるあらゆる費用が支払われるというものです。

     今回は、バルセロナ自治大学が中心になって進めてきた、児童文学に関わる専門職養成のプログラム群の内容を紹介しました。次回は、それらの教育において近年、大切にされていること、またスペインの学校図書館に関わる展望を最後に少しご報告します。

    返信先: 2022年から2023年へ! #475458
    管理人
    キーマスター

    あけましておめでとうございます。昨晩,日本に14時間遅れて新年を迎えました。私は、ビザにアメリカ国外での書きかえが必要な事情があり、年末年始をまたいでカナダの首都オタワに来ております。昨晩、2022年はどんな年だったかを振り返ってみました。すぐに思い出されるのは、2020年末の叔父の急逝と相続作業、ついでに自分のルーツの再確認が2022年前半のほぼすべて。このプロセスでは、これまでは専門職と言ってしばしば話したことがあったのは各種の医療専門職と弁護士、神父や牧師くらいでしたが、今回、司法書士、税理士の方たちに出会い、大変お世話様になりました。図書館業界同様、業界内の専門性の細分化や業界団体とそれぞれの専門職の先生方の関係性をうかがい知ることができたのは興味深いことでした。夏からは、三人の親の介護問題を含めアメリカ行きの準備をしてこちらに来ました。その過程では、ケアマネージャー、介護福祉士の方たちとそれまでよりもずっときちんとコミュニケーションをとることになり、どのようなお仕事をされている専門職なのかがわかってきて、尊敬の念がほんとうに増しました。他の専門職の方たちのサービスの利用者の側になってみて、司書とは何か、を改めて考えることになりました。

     仕事面では次のようなことを、2022年にやってよかったなと振り返りました。みなさんにお力をかしていただいて実現したことばかりで、感謝に堪えません。

    1.研究会

     春学期にボランティア参加の研究会をほぼ隔週で実施しました。価値を見出してくださったり、感謝してくださった方もいらっしゃり、ありがたいことでした。が、各回の実施準備はけっこう時間がかかるもので、やり続けるのは少し厳しいかなと思い、来年度の予定はたてていません。

    2.夏休みの図書館見学会@ぎふメディアコスモス

     本学司書課程の兼任講師の中山美由紀先生に仲介していただき、南山大学の司書課程の学生さんたちや浅石卓真先生とご一緒させていただきました。また、同じく本学司書課程で兼任講師をしていただいている中村佳史先生が同館のシビックプライドプレイスのディレクションをされたことから現地で合流してくださったのも嬉しいことでした。同館の総合プロデューサーの吉成信夫さんには見学会後の夕食会にもご参加いただき、多くのご配慮いただき、本当にありがたく存じました。ただ、私は相続の件と渡米準備が佳境でまったく準備の余裕がなく、もう少し予習・準備をしていくべきだったと今になると思います。久しぶりの図書館見学会でしたが、学生さんたちと学外で会うことの楽しさも改めて感じ、また実施したいと思っています。

    3.渡米

     図書館に関係する経験については少しずつ、本サイトTANE.infoでも報告していますが、それ以外にも広く、アメリカ社会を知ろうと心がけて活動しています。例えば…ニューヨーク州の運転免許をとろうとしています。筆記試験が終わり、次は講習の受講で、最後に実地試験です。これがとれると、車の保険料がぐんと下がるはず!

    4.”公共図書館と学校図書館”という出発点に返る

     12月1日に、茨城県立図書館が企画・実施した、令和4年度関東・甲信越静地区図書館地区別研修で、標記についてオンラインでお話させていただく機会を得ました。スライドではタイトルが「公立図書館」となっているのですが、タイトルを付けた時、なぜ「公立」をあえて選んだのか、後(渡米後)になると思い出せなくなりました。その点、お恥ずかしいのですが、概要の記録という意味で、右にスライドを公開します。このテーマは、私の修士課程時代の関心で、久しぶりに立ち返ることができ、とてもよい機会をいただいたと思って感謝しています。

    2023年は…

     次の二つの目標をたてました。

    • サバティカル中の研究成果をなんらかの形にする。正直に言って、まだまだ先が見えません。今はためている段階です~
    • 農林漁業の六次産業化について具体的に学びはじめる。これは図書館とは別の私の関心事で、数年前から無計画に少しずつはじめてきていたのですが、今年は週末を使って、より具体的に学びを進めていこうと思っています。畜産業も関心あるなあ。昨年末に、カナダ農業食糧博物館(Canada Agriculture and Food Museum)に行き、こんな動物たちに会ってきました!これ以外にも、歴史博物館、自然史博物館、美術館を訪問していますが、なぜかなあ、この年になって、私には農業食食糧博物館がほんとうに心に迫ってきますね~

    人間が食する1キロを得るのに、飼料として何キロ必要かの正解一覧。でも、食べる部分としてどこまで計算に入れるかというのは、文化によって違うような…

    とうもろこし(corn)の粒(kernel)やそれ以外の部分を発酵させ、そのほかにもプロテインのペレットなどを混ぜて作られている牛さんのお食事。

    豚さんってとても頭がよいのだそうで。それぞれの牛さんのもとにぶら下がっているボールは遊具なのですと!

    (中村百合子)

    管理人
    キーマスター

     アメリカは昨日がサンクスギビング(収穫祭)で、今日はブラックフライデーということで、私のアパートは大学(院)生が中心なので、ほんとうに静かです。大学は今週は人がいなくて、改めて、サンクスギビングがクリスマスと同じくらいかひょっとしたらそれ以上に、アメリカ人にとって重要な祝日だなと思います。ただ、1621年にはじめてのサンクスギビングのディナーがピルグリムたちとネイティブ・インディアンたちで一緒にお祝いされたというお話は、語り継がれてきましたが、近年はそれも、より広い見地から再検証されているとか…

     さて、前回はシラキュースの生活の基盤づくりについて書きました。今回は、こちらに来てから2カ月ほどの間に訪れた、楽しいところをいくつか報告します。私は2016年にこのシラキュース大学(Syracuse University:SU)に、アメリカ議会図書館(Library of Congress: LC)が一次資料を使って学習指導をすることを勧める活動(Teaching with Primary Sources)で紹介して著名になった探究モデル(Stripling Model of Inquiry)を作られたストリップリング教授(Dr. Barbara K. Stripling;現在は名誉教授)にお会いしたくて、来たことがあります。数日の滞在では、人がやさしい町だという印象と、100年ほど前から存在する建物がたくさんあっていいなあというくらいしか思いませんでした。その時にはシラキュースでの生活がどんなものか、まったくわからなかったのですが、今回来てみて、歴史は興味深いし、大好きになりました。

     ニューヨーク州にいると私が日本の方たちに言うと、ほとんどの方はニューヨークシティーを思い浮かべるようですが、シラキュースはあの大都市とはまったく違うところです。それではどんなところかというと…ということで、少し書いてみたいと思います。

    たくさんの湖

     シラキュースはニューヨーク州の中央部(Central NY)だと言われます。しかし同時に、ニューヨーク州上部(北部)のような言い回し(Upstate NY)の大きな町の一つというような言い方もされています。シラキュースには、私が滞在しているシラキュース大学の他にもいくつか大学があるのですが、そのうちの一つはUpstate Medical Universityという州立の医大です。このUpstateは、五大湖のうちのオンタリオ湖(Lake Ontario)とエリー湖(Lake Erie)に面するエリアであって、これらの湖の向こう岸はカナダです。加えて,Finger Lakesと呼ばれる、まるで指のように並ぶ縦長の湖群もあります。シラキュース北部のオノンダーガ湖は、この地域にもともとあったホデノショニ連邦(Haudenosaunee Confederacy=フランスの入植者たちはイロコイ連邦(Iroquois Confederacy)と呼んでいた)の中心であったオノンダーガ族が聖なる湖とみなしていたそうです。この湖は、コーネル大学の協力のもとで水質改善が取り組まれています(コーネル大学の関連サイト(英語))。このエリアにはこうしていくつも湖があります。

     左(上)の写真や、このシラキュースに関する連載の毎回の冒頭の写真は、Green Lakes State Parkで撮ったものです。シラキュースに来てから、お散歩やハイキングに時々出かけていますが、この州立公園はシラキュース大学から車で30分もかからないところで、多くの人がお散歩に訪れています。

     シラキュース大学は街中の大学とは言えない気がします。大学キャンパスを出てすぐのところはアメリカの大学の典型的な門前町になっていてレストランや薬局、コンビニのようなお店はあります。片道で徒歩20~30分かければ、ダウンタウンエリアに行くことができます。でも私個人は、アメリカの町の中心はそんなに楽しいところと思えません。しかもここシラキュースは、いわゆるラストベルトの一角ですので、街の中心はかつて栄えていたという雰囲気がどうしてもしてしまうのです。

     でも私は、理由は一言では言えませんが、シラキュースが好きです。ここで出会った人たちが、東京から来たというと、それはまったく違う生活でしょう!と言うのですが、ほんとうにそうで、車で30分でこうした自然いっぱいの場所に行くことができて、幸せです。

    おいしいりんごとさりげなく提供される本

     ここにいて何が幸せと言って、一つはおいしい果物とお野菜の存在です。車で20~30分も走れば広大な農地が広がります。ニューヨーク州は、ワシントン州に次ぐ、りんごの生産地だそうで、あらゆるところでいろいろな種類のりんごが売られています。りんごジュース、アップルパイなど、りんごを農園内で加工したものを売る農園も多いです。

     このりんご、とうもろこし、そして小屋(barn)の写真は、コーネル大学のあるイサカ(Ithaca)という町に向かう道すがらのお店で撮りました。三つ目の写真はフィンガーレイクスの本の小屋(Book Barn of the Finger Lakes)という名前の古書店です。オーナーのドラガン氏(Mr. Vladimir Dragan)はとってもウイットに富んだ会話をされる、素敵な方でした。、コーネル大学で建築を学び、古い建物の保存のお仕事をしてきたのだとおっしゃっていました。この赤い建物は最初は牛小屋(cow barn)だった、その後に馬小屋(horse barn)、そして今は彼が本の小屋(book barn)にしているというわけです。

     建物の中で写真を撮るのはだめと言われてしまったので、テレビの取材の映像をリンクしておきます!この映像の中では、ドラガン氏は10代の時にこの本のビジネスを小さくはじめたと仰っています。本が好きなのだなあと思いました。「何十億という、あなたが読むことのできる本があるというのに、ベストセラーに載っている一人の著者に自分の選択を限定する理由はないよ(There are billions books that you can read, why you restrict yourself to one author who is on the bestseller list?)」 「一冊のよい本があなたの人生を変えますよ(A good book change your life.)」などの言葉が響きます。

     私はシラキュース大学内だけでなく、ここに来てから訪れたどこの図書館でも、一切嫌な経験をしていないし、出会うライブラリアンはみなプロフェッショナルで、不満は今のところまったくないです。が、この古書店さんとそのオーナーのドラガン氏は、図書館やライブラリアンたちとは違う角度から心が通じるような、私たちは何かを共有していると感じるような方でした。

     イサカのファーマーズマーケットは一流大学のお膝元ならではのリベラルな雰囲気で、おしゃれでした。マーケットは小さな湖の横で開かれていて、カンボジア料理やピタサンドなどの食べ物のブースもあるので、買った食べ物を湖を見ながら食べている人がたくさんいました。そこには赤いかわいらしい書架が置かれていて、無料で持っていってください、持っていてもいいし、他の人に渡してもいいですと書かれていました。

     青い本箱はシラキュース大学近くの一軒家の前にあって、これも、無料で持っていってよいですよというものです。小さな無料図書館(Little Free Library)という活動だそうです。さりげないけれど、本への愛情を感じます。

     

    レストラン「旧図書館」

     旧図書館The Old Libraryという名前のこのレストランは、ニューヨーク州オレアン(Olean)という町にあり、ピッツバーグからの帰路で寄りました。なんと!1909年にオレアンの町の公共図書館としてアンドリュー・カーネギーの資金で建てられた建物だということです。こちらでご紹介した、オーバーン(Auburn)という町のセイモアー公共図書館と同じ、ボザール様式で、同館はアメリカ合衆国の歴史登録財(National Register of Historic Places: NRHP)であるのも同じです。

     設計は、ティルトン氏(Edward Lippincott Tilton)という、当時の、またカーネギーの公共図書館の建築を数多く手がけた方によります。このティルトンという方はなんと!19世紀末から20世紀半ば過ぎまで、欧州からの移民の入国手続きを行っていたエリス島の建築にも参画していて、ニューヨークの建築史では大変重要な人物のようです。レストランは、建物だけでなく、中の書架、階段、暖炉も公共図書館として使われていた当時のままだそうです。

     このオレアンの旧図書館は1910年に開館しましたが、1974年に新図書館ができて、それから1979年まではこの建物は歴史協会(Olean Historical Society)等の建物として使われていたそうです。

     ちなみにこちらのお料理はとってもおいしくて、私がオーダーしたのはイスラエルのクスクス料理(The Mariaという名前になっていました)というものだったのですが、これは今回、アメリカに来てから食べたものの中で今のところ最も美味しかったものです。オレアンの街並みは美しく維持されていて、今回これまで訪れた町の中では、今のところ私の最も住んでみたい町です。新図書館も見てくるべきでした!

     といったところで、まとまりませんが、今回はこのあたりで。

    (中村百合子)

    管理人
    キーマスター

    2022年10月から11月にアメリカ合衆国で次の四つの図書館を訪れることができました。そこで考えたことを、コレクションのメディアの多様化という観点から報告したいと思います。各図書館についてのご紹介は、失礼なことになっていますが、本ページ末尾に記しましたので、そちらをご覧ください。

    グラフィック・ノベル

     過去、十数年の間に、欧米の図書館で当たり前になったコレクションに、mangaがあると思います。日本人である私に図書館を案内するというとどこでも、mangaの書架を見せてくださるのですが、そのコレクションの規模が次第に大きくなってきていると思っていました。

     mangaは基本的には日本で出版されたものの翻訳、comicはアメリカ(または英国)生まれで、世界で最も有名なキャラクターだろうスヌーピーが主人公のPeanutsや、映画化にも成功しているBatmanなどがそれにあたると言えば、なるほどと思われるでしょう。そのほかに、アメリカの図書館関係者はgraphic novelという表現も使いますが、comicよりも長い(厚い)ものを指していて、mangaの多くはgraphic novelと言えるだろうと思います。

    コーネル大学クローチ図書館の入口周辺の壁

    コーネル大学クローチ図書館閲覧室入口

     グラフィック・ノベルについて日本語で読んでなるほどと思った説明として、「Real Sound」というサイトの「【アメリカの最新ブック事情】第1回「コミック・グラフィックノベル」」と、「英語で!アニメ・マンガ」というブログの「「グラフィック・ノベル」とはなにか?」という記事があります。長くてもいいからもっとちゃんと理解したいという方はそうしたサイトの説明をご覧いただければと思いますが、ライブラリアンの方たちと話していると、上記の私の記述くらいの簡潔な説明をしてくださいます。

    コーネル大学クローチ図書館の漫画コレクション。これはごく一部。大学の研究・教育や学習のための資料なので、もちろんこれらは日本語版

    セイモアー図書館のグラフィック・ノベルコレクション

    カーネギー図書館のYA向け書架の漫画コレクション

     これらはYA向けコレクションの中核と言ってもいいくらいの存在になっている印象があります。今年(2022年)の秋にアメリカ合衆国で見た図書館では、YA向けコレクションのかなりの部分、つまり数十パーセントになっていると思いました。これらmanga、comic、grahic novelが三つに分けられて配架されている図書館もあると思います。ただ、欧米の図書館でこの十数年の間に私が見てきた印象では、graphic novelかmangaのいずれかの言葉のもとにすべてを含んでゆるやかに整理しているところが多かったように思います。コレクションが拡大してきている分、整理の仕方も変わってきているかもしれませんが。

    カーネギー図書館のYA向けのノンフィクション資料。成長の過程でのさまざまな悩みに応えるような資料が並んでいる。ノンフィクション資料の点数は必ずしも多くなくて、他の書架の漫画コレクションの存在感が大きく感じられた。漫画を挟んで、フィクションの書架があった。

    パイングローブ中学校図書館のグラフィック・ノベル等の書架。2020年にグラフィック・ノベルではじめてニューベリー賞を受賞した『New Kid』も。

    パイン・グローブ中学校図書館の一角はカラフルでにぎやかな雰囲気で、アートの本(作ってみることを促す)、データがまとまった本(ギネスや歴史など)や、手に取りたくなるような表紙の伝記本が並べられていた。

    ゲームはもちろん、ケーキ型も!

     ゲームは世界各地の図書館のコレクションに加わって久しいが、今回、ニューヨーク州オーバーンのセイモアー図書館(Seymour Library)では、ケーキ型の貸出を見てなるほど!と。こんなコレクションを見たのはたぶんはじめて。

    カーネギー図書館ビデオゲームコレクション

    セイモアー図書館のゲーム、ケーキ型のコレクション

    カーネギー図書館の音楽資料(Music Resources)はほんとうに充実しています。この素敵な木製の棚の中に、楽器や関連機材が収まっていました。これらの貸出もしています(Musical Instrument Lending Library)。

    セイモアー図書館の閲覧室。実はとってもクラシカルな建築・内装が基本となっている図書館です。サービスはしかし時代に沿って進化しています。

    セイモアー図書館の児童室では利用者のニーズを先取りするような貸出セットが用意されていた。たとえばトイレトレーニングに有用なメディアを一つのリュックにまとめて入れてあったり。

    創造性を刺激する

     要するに、図書館を何のための場所と考えるかということなのですが、創造の場と考えているのが今のアメリカの図書館なのだろうと思います。読む、聞くということは人としてとてもだいじだし、図書館がそれを支える、そのための素材(資料や情報)へのアクセスを保証し提供するというのは当然そうなのだけれど、人間とは何かが問われる、シンギュラリティなどという言葉が聞かれる時代…よりよい未来を切り拓くのは、人間の創造性にかかっているということではと思います。

    セイモアー図書館の児童室には、鍋つかみを編んで聖アルフォンソ教会に寄付してくださいという呼びかけが。感謝祭のターキーといっしょに500の家族に渡すという目標があるそう。

    パイングローブ中学校今、一時的に、メイカースペースにあたるコーナーを上の写真の右のほうに設けている。COVID-19の前には、別にもう少し広いコーナーを確保できていたそう。

    メイカースペースには創造力を刺激する、わくわくするようなものがたくさん置かれている。何かを作ろうとツールを手にするようなことではなくても、お友だちと一緒に座っておしゃべりをしながらパズルやゲームで手を動かすだけできっと楽しい。

    図書館入口には、スクールバスの運転手さんに感謝を伝えるカードを記入する机が設けられていた。一緒の机には、「勇気とは」と書かれた大きな空白のある紙も(空白に自分の考えを書き込む)。

     過日、こちらでご報告しましたように、私は今年(2022年)、アメリカ合衆国ニューヨーク州のシラキュース大学に滞在しています。そろそろ2カ月になろうというところで、図書館や博物館の訪問を繰り返してきましたが、どのタイミングでどの何をどのように紹介するか悩んでいるうちにどんどん時間が過ぎて、また別の素敵なところに行ってしまって、というふうになってしまっていました。しかし今週になって雪が降りはじめ、この後、冬の間は訪問のペースがスロウになるだろうと考えて、ここで一度、これまで図書館で見たことを報告しました。ほんとうはもっともっといろいろ見せていただいて刺激をいただいているのですが、考えが整理しきれなくて…

    (中村百合子)

    言及した四つの図書館のご紹介

     コーネル大学は東海岸の名門大学アイビー・リーグ8校のうちの一つですが、イサカ(Ithaca)というニューヨーク州の内陸のこじんまりとした町にあって(人口約3万人)、とても静かな環境でした。ハリーポッターの世界みたい!などと言われて有名なのは、同大学で一番最初に建てられたウリス図書館(Uris Libraries)の一部で、アンドリュー・ディクソン・ホワイト図書館(Andrew Dickson White Library)というところです。ウリス図書館の建物内には、研究成果のオープンアクセス化の先鞭をつけたarXivのオフィスも入っていました。私が訪れたのは土曜日でしたが、ウリス図書館には観光客とおぼしき人たちがひっきりなしに入っていました。そんな人たちにチラチラ見られながら、同大学の学生さんたちは勉強しているという…。私は、クローチ図書館の日本語コレクションのご担当のダンさん(Mr. Daniel McKee)に前日に思いついてメールをしてみましたところ、土曜日の午後ではありましたが、時間をとって、短い館内ツアーをしてくださいました。ここに記して感謝をお伝えしたいと思います。

     ピッツバーグの公共図書館の多くは、19世紀末にアンドリュー・カーネギー(Andrew Carnegie)氏の寄付を基礎として建てられているので、カーネギー氏の名前が冠されています。カーネギーが無料の公共図書館のための寄付を当時のピッツバーグ市長に最初に申し出たのは1881年11月25日(日本では明治14年)のこと、そして最初の図書館の開館が1895年だったそうです(同館ウェブページ上の略史を参照)。2020年には125年をお祝いしています(特設サイト)。今回、私はピッツバーグを図書館情報学教育に携わる人たちの学会(Association for Library and Information Science Education: ALISE)の年次大会で訪れたので、時間が限られており、特にツアーを頼むことはしないで、自分で見学して回りました。各部屋のサービスの充実、また整理や展示の丁寧なことに驚嘆しました。ライブラリアンに質問をしながら見て回ったら、数時間かかりそうだと思いました。ただ、月曜日のお昼ころというタイミングのせいか、図書館内に人はとても少なく、その事情も含めて、いろいろと聞きたいので、また行きたいと思っているところです。ちなみに同館は現在、改装工事の真っ最中でした。

     セイモアー図書館はオーバーン(Auburn)という、ニューヨーク州内陸部のこれまた人口3万人弱という比較的小さな町の公共図書館です。同館はアメリカ合衆国の歴史登録財(National Register of Historic Places: NRHP)になっている、歴史ある由緒正しい建物です。セイモアー(James Skinner Seymour)氏という銀行家がこの地域に会費制の図書館を設けたのが1876年で、その後、1896年にケース(Willard E. Case)氏が両親を偲んで図書館の土地と建物を寄贈して、今もその図書館が存在し使われているということです。この時からサービスは無料になっています。この図書館をデザインしたのはのちにニューヨーク公共図書館(NYPL)をデザインした建築事務所(Carrère and Hastings)で、ほんとうに美しい建物です。こちらは事前にコンタクトせずに訪れたのですが、図書館の職員の方たちみなさんがとても丁寧にご説明くださいました。こちらは今いるシラキュースから車で40分くらいなので、必ず再訪したいと思っています。

     パイングローブ中学校Pine Grove Middle School)はニューヨーク州シラキュース東部にある公立中学校(6~8年生が通う)で、その図書館(Pine Grove Middle School Library)はスクールライブラリアンのコワルスキー(Susan Kowalski)氏のすばらしい活動で知られています。コワルスキー氏はめったに出会えないような、輝かしい受賞歴のある方で、AASLの機関紙Knowledge Questにも寄稿されています。同學校図書館館は2011年にアメリカ・スクールライブラリアン協会(AASL)の全国学校図書館賞(National School Library of the Year Award)を受賞しています。コワルスキー氏はその翌年、2012年には、ニューヨーク州カーネギー財団(Carnegie Corporation of New York)・ニューヨーク公共図書館(NYPL)・アメリカ図書館協会(ALA)によるライブラリアン賞(I Love My Librarian Award)と、School Library Journal誌のライブラリアン/教師コラボレーション賞(Librarian/Teacher Collaboration Award)を受賞されています。また2016年にはシラキュース大学情報学大学院(iSchool, SU)からも、修了生の母校への貢献を讃える賞(The Impact of the Year Award)を受けておられます。一日、滞在させていただいて拝見したコワルスキー氏や先生やスタッフの方たちと生徒たちとの関わりはさまざまに印象的でした。シラキュース大学で図書館情報学を学ぶ修士院生さんのインターンシップの初日でもあったので、大変な日に私の見学を受け入れてくださって、感謝に堪えません。

    管理人
    キーマスター

    中村百合子です。図書館・情報スペシャリスト養成の世界最先端と言えるプログラムを報告している本連載の締めくくりは、ヨーロッパの教育実践です。連載第9回となる今回から3回にわたり、スペインの学校図書館と公共図書館の児童サービス担当の専門職の養成や、バルセロナ自治大学(University Autònoma in Barcelona: UAB)が提供する養成プログラムを紹介します。同大学でそれらのプログラムに深くかかわってこられたCristina Correro Iglesias博士から、二度、国際シンポジウムでご発表いただきました。そのときの発表原稿にもとづきながら、最新情報を追加でCorrero博士からご提供いただいて、正確な内容になるよう努めます。Correro Iglesias博士の発表の記録には、本報告よりも多くの画像があり、英語での本文をお読みにならないにしても楽しんでいただけると思いますから、ぜひ次のリンク先の原文 2019年2022年 もご覧ください。

     なお、スペインのごくごく基礎的な情報と同国の言語事情や児童文学出版については、2016年に同じくUABで教えるJoan Portell Rifà博士に講演をしていただき、通訳を日本・スペイン文化経済交流センター エクステンションの方にしていただいたことがあります(スペイン語原文日本語訳)。この後の養成事情の理解の助けになる内容と思いますので、ご紹介しておきます。

    児童文学とその活用に関する研究の発信地UAB

     バルセロナ自治大学(UAB)は1968年創立と比較的新しい大学ですが、各種の大学世界ランキングで常に上位に上がる、スペイン国内ではトップを争っている名門大学です。カタルーニャ州の州都であるバルセロナにあります。1999年に、同大学のTelesa Colomer教授が、GRETEL (Research Group on Books for Children and Youngsters and Literacy Learning)という、児童文学と義務教育学校や図書館等におけるその活用等を研究する集まりをはじめました。(GRETELは2019年まで活動し、Colomer教授は2021年1月に退職されました。)

    Colomer教授は後列一番左、前列の左から二番目がCorrero博士

     このグループでは、スペインの教育省やEU(欧州共同体)から資金を得て、デジタル児童文学やデジタルリテラシー、そして移民に関わる様々なテーマの研究を近年は進めてきました。国際的であることを大切にし、スペインだけでなく、チリ、アルゼンチン、ベネズエラからも参加者がいました。多様性ある、GLOCAL(グローバル+ローカル)なグループということが、すばらしい特徴でした。ライブラリアン、学校の先生、大学の教職員が主なメンバーでした。

    GRETELの出版物と参加者の出身地

    バルセロナのライブラリアン養成

     スペインには15の図書館情報学の修士号プログラムがありますが、バルセロナでの取り組みが最も歴史があります。そのはじまりは、Noucentismeと呼ばれる、20世紀初頭のカタロニアの改革的な文化運動(モダニズムやアバンギャルドへのある種の対抗)と目的においてつながっていました。百年以上前から、図書館員のネットワークとつながることで、文化や社会の変革がなされるということを、政治家や知識人たちははっきりと理解していたということです。そして投資がされ、1915年にカタロニア政府(Mancomunitat de Catalunya;1914-1925年)によって図書館学校が作られました。

     しかし20世紀初頭のそうしたよい取り組みは、1936-1939年のスペイン内戦で大きく変わってしまいました。戦後、状況はさらに変化しました。1939-1975年の40年もの間、スペインには検閲が存在しました。図書館では、カタルーニャ語やバスク語その他の言語の本もスペイン国外からの本も禁じられていました。学校の教員たちもライブラリアンたちも、ファシストのイデオロギーに従うこととされ、政権の監督のもとで養成されました。

     1977年に民主主義がやってきて、やっと図書館や教育制度が回復できました。20世紀初頭に現れたイデオロギーとつながった、新しい教授法が出てきて、また図書館・学校・子ども・本の関わりあいを促進する出版者・批評・協会も生まれました。児童書出版、特に翻訳が盛んになり、ライブラリアンや教師たちはふたたび、あらゆる類の本を推薦できるようになり、養成も新しい民主主義の価値観に沿ったものになりました。

    教育学と図書館情報学での養成

     1970年代末には、児童文学やライブラリアン養成のためのものを含めて、新しい学科が大学に置かれました。そのころからスペインでは、教育学か、図書館情報学の二つの領域で、児童文学や学校図書館について学ぶことができます。幼児教育や初等教育の教師を目指して教育学の領域に所属する学生は、在学する4年間の間に、児童文学と学校図書館について選ぶことができます。この領域は入試において非常に高い成績が求められています(10点満点のうち9.4以上が平均値)。もう一つ、図書館情報学において学ぶという選択肢があります。この場合も4年間が必要で、3年目から学校図書館を専攻することができます。

     しかし、経験から言って、それら二つの養成方法はどちらも学校図書館の専門職養成には十分ではないと思われます。PISA (Programme for International Student Assesment)でもPIRLS (Progress in International Reading Literacy Study)でも、スペインの成績は満足のいくものではありません[平均を若干上回ってはいる]。また、欧州単位互換制度(European Credit Transfer System: ECTS)の登録状況をみるおt、幼児教育や初等教育の養成において、児童文学関係の科目はわずか5%です。これは例えば次のような問題を引き起こしていると考えられます。

     児童文学に関する養成教育が不十分であるがゆえに、教師たちが適切な本を知らない、または教室で本を使って何をするかを知らないため、幼稚園や学校の教室で読書に割く時間が少なくなっているかもしれません。もし教師や教育者たち自身が本を読まないならば、もしよい本をどう方法を知らないならば、教室における読書の活動はとても難しいものになるでしょう。教師や教育者たちはたぶん読まなくなっていて、読書習慣や文学教育は貧しくなっており、これによって子どもたちの間に機能的な非識字が生まれている可能性があります。

     未来の教師やスクールライブラリアンが、教室での読書や児童文学、適切な文学教育をすすめるためには学部レベルでの養成では不十分です。そこで、GRETEL、ひいてはUABは、複数の組織と連携して大学院(修士)レベルのプログラムを新たに開設し、子どもたちの読解力、文学教育、そして教師その他の専門職養成の質の向上に取り組むこととしました。それは次の五つです。どのプログラムでも、「児童文学」が重要な位置を占めます。

    • グローバルな視野からみる児童書(Children’s Books from a Global Perspective)
    • [スペイン語]児童・青少年文学コース(Curso en Libros y Literatura Infantil y Juveni)
    • 本と児童文学のオンライン修士号(Online Master’s in Books and Children’s Literature)
    • 学校図書館と読書推進修士号(School Librarian and Reading Promotion Master’s)
    • 児童の文学・メディア・文化に関するエラスムス・ムンドゥス修士号(Erasmus Mundus Master’s in Children’s Literature, Media and Culture: CLMC)

     次回はこれらのプログラムを紹介します。Colomer教授が退職されて、今、これらの養成改革は転換期にあり、新しい取り組みへと生まれ変わろうとしているものもあります。近年の欧州の動向としては、2019年に欧州全体では283もの図書館に関わる学位を提供するプログラムがありました。しかし独立したプログラムはその1割で、たいていは学部レベルであり、教員数は少なく、学生数は200名以下で、しかも減少傾向にあります。国際的なネットワークも存在しないので、逆にそこには可能性があるとも言える状況です。

     

    管理人
    キーマスター

    中村百合子です。2022年度秋学期から1年間の在外研究を許可され、9月17日に米国NY州の北部にあるシラキュース大学(Syracuse University: SU)に来ました。この1カ月、バタバタしていて、何かを書くという状況にありませんでした。こちらに来てからアパート探しをして居場所を整え、車の購入をして3週間が過ぎました。この連載では、今のアメリカについて、見たこと、考えたことを書いていこうと思います。今回は、今のアメリカの物価のお話です。

    生活費

     インフレ、円安が話題でしたので、ものの値段について、恐れに恐れていました。ニューヨーク州北部(Upstate New York)は、日本人の多い大都市に比べればずっと生活費が安いことはもちろん想像してきていますが、実際にどんなものかは来てみないとわからないと思っていました。この3週間の感触は、東京とほぼ同じ額の支出だなというところです。ただ、子どものいない私には、子どもにかかるお金のことは一切わかっていません。よって、端的に言えば住居費と食費の話になります。この、大都市から離れた町(NY市内に車で5時間といったところ)でこれなので、都市部は東京に住むよりもずっと大変だということが想像できます。

     賃貸アパート探しはシラキュース大学近辺、具体的には大学の徒歩圏または車で10分もかからないところと決めて、インターネットで数か月前から見ていました。家具を全部揃えるのは非現実的なので,家具付き(furnished)で探しました。しかしインターネット検索では決めきれず、結局、こちらに来て3軒を見せてもらい、最後のところで決めました。どこも日本に比べれば広々した感じなのですが、安くはなく、1ドル145円のレートで日本円にすると、光熱費込みではありますが、20万をゆうに超えます。アメリカの大学の近くには10万~15万でかなりいいアパートが見つかると25年前の経験から思っていた私には、うわーどこも高いなという感じでした。はっきり申しまして、私の見たアパートはどれも、このエリアの中では安い部類のアパートです。平穏を感じられるということが必要十分条件でした。私より少し年上のSUの教員は、昔は大学の近くに、500ドルでまあまあのアパートが見つかったわよねと言っていて、私と同じような90年代の思い出を話していると思いました。アパートは倍以上の価格になり、そこに円安が加わっているということかと思います。私のいるところは、2022年のはじめくらいのレートになれば月に20万円をじゅうぶん切ることになるので、これから年末くらいまでの辛抱だといいなと思っているのですが。

     ちなみに、家具と言って、ソファとダイニングセット、ベッド、チェスト、テレビや照明器具をこちらの管理会社は貸してくれました。キッチン用品は、昔は置いていたけれど、今は貸していないとのことで、それをいくらか買った支出が痛かったです。生活用品は、WalmartやTargetというような大手スーパーのほか、Amazon、また救世軍(Salvetion Army)の寄付された中古品を売るお店を使いました。どこも、日本でなら100均にけっこうあるんだよなあと思うと、高いです。こちらもDollar generalといった百均のお店はいたるところにあり、私も行っていますが、実際には価格は1ドル25セントになっていて、200円近いことになります。それ以上の値段の商品も多いです。

     食費については、東京にいたときに想像していたとおりになりそうです。過去に私は、アメリカは食材が大きな単位で売られているので、一度の支払いはそれなりになるが、1か月くらいで見ると、日本よりもずっと支出は少なくなるという経験をしてきました。おそらく、食費は、インフレでものの値段があがっていることが加わって、1か月単位で東京と同じくらいになると思います。ちなみに外食は何度かしましたが、最も安い選択肢だろう中南米料理やピザのテイクアウトでも、千円でおいしいものが食べられる日本のようには今のアメリカではいきません。テイクアウトではなく、席に座ってサービスしてもらったら、チップを入れて一人25ドルを最低ラインと考えないといけない感じです。ちなみにアジア料理は…帰国して食べるのがよさそうです。

     先週土曜日に納車された車は中古車ですが、この車探しが一番大変でした。中古車の値段は世界的に上がっているようですが、最初、1万ドルを切るような値段の車、それでも150万なわけですが、を入手して、壊れるくらい乗って誰か学生にでもあげて帰ろうと思っていたのですが、そのやり方は適当ではないということが、何軒か中古車販売店を回っているうちにわかってきました。わたしは東京でホンダの、数十万で購入した中古車に乗っていますが、平和です。でも、今のアメリカで1万ドル以下の車って、10万マイル超え、つまりすでに16万キロ以上走ってます。すごく古そうでもう何十万キロも走っていそうな車が平和そうに走っているのをアメリカではよく見かけるので、ああいうのがいいなあと思ってましたけれど、1年という短期間の滞在でその選択をして、しょっちゅう車の修理にお金や時間をかけるというわけにいかないですよね。結局、今までの人生で二番目に高いお買い物をして、これから事故らないように乗って、なるべく高く売って帰国するということにしました。事故を起こしませんように!ちなみに、訴訟国家アメリカの保険には対人無制限などというものはなく、その点、リスクたっぷりです。 

     車探しは最初、何が欲しいというのがなかったので、ネットで評判のよい中古車販売店を回って、営業さんに予算や事情を話して、試乗(test drive)をほんの少しさせてもらいました。英語で車の購入についてネットで調べると、「used car salesman」(中古車販売セールスマン)というのが、饒舌で信用できない人の代表のように書かれているので、どんな人たちかと思っていました。まあ、確かに結果としてそうなってしまうこともあるのでしょうが、こういう大都市ではないところで長く商売をやっている人たちがまったく信用ならない人たちなわけもないのではというのが私の考えです。最初に会っていろいろ教えてくれたシニアと言ってよいだろう営業さんは、「inegrity」を大事にしている、つまり誠実にやっていると自分(たち)のことを言っていました。「I work hard for you!」と別れ際に言われたのが印象的でした。「がんばります」ってことですよね!?いろんな営業さんに出会いましたが、みなさん、よくしてくださったと思ってます。ちなみに、1万ドル以下で探していると言うと、どこでも、それならホンダと言われます。ホンダは日本で乗ってるからつまらないなあと言うと困ったなあ…となる。トヨタ、スバル、日産はこの価格帯ではありませんでした。アメ車はなぜか(日本人が相手だからか)勧めてこない。あとはワーゲンを勧めてきます。ドイツ車はアウディやベンツの古いものもこの価格帯にけっこう出ていますが、結局、ガソリンがハイオクになり、故障となれば部品が高価になるということで、乗り心地はやはりいいですが、営業マンは積極的には勧めてきません。雪のたくさん降るこの地域ではスバルの評価がべらぼうに高く、私も試乗ですっかりファンになりましたが、これもまたほんとうに値段が下がってません。今のところまだ、概して日本車への評価はとても高く、run forever(永久に走る)と思ってもらえているのだと思いました。

     なんと8軒も回ってやっと欲しい車種とこのくらいの予算でというのが決まって、一晩それで在庫を検索して、翌日隣町まで9軒目を訪ねて行き、その場で決めました。担当してもらった営業マンは、こちらから聞かない限り何も教えてくれない、どちらかと言うと無口な若者でした。アメリカの中古車業界も、ネットが出てきて、営業スタイルから何から変わってきているのだろうと思いました。ネットがある今、価格も条件もかなり、ネット上で比較できてしまいます。ピンポイントで一台を見に来たような人に饒舌に営業する意味はあまりないと思う若者がいても驚きません。回ったところのほとんどは地元密着のお店で、正規ディーラーは高いように思われて一軒も行きませんでしたが、一軒、EchoPark Automotiveというアメリカで広く展開されている中古車販売店に行きました。新古車のような新しめきれいめの車を多く扱っていて、価格は表に出されているところから変わらない、徹底的に情報を開示するという販売方法のチェーン店です。そこで出会った営業さんは、元は空軍で働いていたという真面目そうな方で、中古車業界にはあまりよくない人たちもいるから気をつけてというようなことを言ってくれました。素人はほんとうはこういうわかりやすい会社で買うのが安心なのだろうと思いました。回った9軒のどこでも、私には価格交渉はまったく無理というのが私の感触でした。

    学費

     米国の大学がいっぱんに学費があがってきていることはもちろん聞いてきていましたが、SUは米国の大学の中でもとっても高いグループで、正規学部生でなんと年間5万ドルをゆうに超えています。大学が試算している学部1年間の学修経費は、なんと87,070ドルです(大学発表データ)。1千万円じゃ済まないという話です。情報学修士号(図書館情報学のコースなどがこの傘の下にある)は6万ドル強のようなので(大学発表データ)、学費だけなら日本円で1千万程度です。

     こんなアメリカの私立大学に日本から留学ってできるのかなと思います。キャンパスでよく見かけるのはインド出身と思しき学生で、中国語もたまに聞こえてきます。今のところ日本語は聞いてません。学生も教員も白人がどう見ても半数を超えています。ちなみに学生数は、立教とほぼ同数の2万人強です。ただし院生の割合がSUは約30%、立教大学は約5%。学生-教員比率は、SUが15:1で立教は約40:1。院生が多いSUの方がこの比率はよくなりますよね。

     私が留学してからいろいろな場所で出会った日本人は、社会人を何年かしてお金を貯めて、学費の安い大学を選んで留学している人がほとんどで、あとは奨学金か会社が出しているかだったと思います。留学費用の工面の大変さはいつも変わらないような気もします。ただ、今のアメリカに来ることに価値を見出す日本の若者がどれだけいるかというと、きっと昔よりずっと少ないでしょうね。

    治安

     シラキュースのローカルニュースサイトSyracuse.comのニュースを見ていたら、今年の4月に書かれた「シラキュースにおける子どもの貧困」と題したニュースに出会いました。人口10万人以上の町の子どもの貧困率で、シラキュースは48.4%で、全米1位だと言うのです。ただこの種の数字は、子どもがいて大学院に通うような人も含まれている数字で、大学が複数あって存在感の大きい町では高くなる傾向があるようです。一方でFBIの犯罪率ではシラキュースはまったく上位に出てこないそうです(Syracuse.comの2019年の1月記事)。シラキュースは家が安く買えて生活費も安いから、全米統一の貧困率指標は意味をなさないと、私がこれについて聞いた大学関係者は答えてくれました。どうなんでしょう。これからよく見ていきたいと思ってます。

     実際、この町では大都市のような緊張感は必要ないし、私は勉強にいいのどかさだなあと感じます。でもこれは一方で、特に若い学部生たちは、大学に閉じ込められるというか、大学の特に人間関係がここでの生活のすべてを決めてしまうようなところがあるのではないかと思います。キャンパスに隣接するエリアに住んで学生たちを見ていると、キラキラした学生ばかりに思われて、裏を返せば、私には見えていないスクールカースト的なもの(cliques)があって、目立って目に入ってくるのはキラキラした学生だけなのかもしれないなと思います。

    図書館は…

     シラキュースに到着してこの3週間は、私にとっては勉強の環境づくりの期間だったと思っています。SUの図書館については、二つのオンラインの新入生向けと思われるセミナーに出て、オンラインの資料やツールの使い方を学び、アカウント設定をしました。公共図書館は徒歩15分ほどの分館を見に行ってみました。まだカードは作っていません。利用者としての経験が増えてきたところで、何か報告ができればと思っています。

     それから、SUの情報学大学院(iSchool)については、一度、教員会議とそれに続いたFDのような集まりに出させてもらいました。こうした会議にはまた出させてもらってゆくつもりです。また、少しずつ、いろんな教員と交流していこうと思っています。そうした報告も、改めてできればと思っています。

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