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【図書紹介】『バスが来ましたよ』

 カムカムクラブは絵本の読み聞かせで毎回始める。

 毎年年度末に1年間に読んだ本の人気投票を行うのだが、今回は2022年度に読んだ本で最も得票した絵本を取り上げよう。

 『バスが来ましたよ』

 難病で視力を失った市職員の山崎浩敬さんの実話を絵本にした作品。彼がバス通勤をする際に10年以上にわたって、地元の小学生が手伝ってくれたという心あたたまるエピソードで、身近なリアリティーを感じる。いろいろなメディアで紹介されてきたので、ご存知の方も多いとは思うが、よい絵本なのでここで改めて紹介したい。

 絵本は「小さな助け合いの物語賞」の第11回しんくみ大賞を受賞した「あたたかな小さい手のリレー」という山崎さんのエッセイを元にしている。当エッセイより、山崎さんと女の子の出会いの部分を引用しよう。

 朝の通勤に使うバスには、和歌山大学附属小学校の児童が乗っています。ある朝、「おはようございます」というかわいい声が聞こえました。「バスが来ました」また声が聞こえました。そして、私の腰のあたりに温かい小さな手があたりました。そして、バスの入り口前まで誘導してくれて、「階段です」と言い、背中を入り口方向に押し出してくれました。座席に座っている子に向かって、「席に座らせてあげて」と言ってくれました。感動です。私は遠慮しながら、「いいの?」と言うと、「座って」と返事が返ってきました。

山﨑浩敬「あたたかな小さい手のリレー」

 これが絵本になると、こうなる。

「おはようございます。」

小さなかわいい声がきこえてきました。

「バスが来ましたよ」

わたしのこしのあたりに、

小さな手がそえられたのが、わかりました。

「えっ・・・・・・・」

白状をにぎりしめていたわたしの手が、

ふわっとゆるみました。

声の女の子は、「ここが、かいだんですよ」といい、

バスの入口のほうに、わたしをおしあげてくれたのです。

わたしがぶじにバスにのりこむと、女の子はさらに、

「席、ゆずっていただけませんか?」

と、すわっているひとに声をかけました。

「いいですか?」とだれかれともなくいうと、

「どうぞ」と声がかえってきて、

わたしは席にすわることができました。

由美村嬉々/文, 松本春野/絵(2022)『バスが来ましたよ』アリス館.

 女の子はさきちゃんという名前の小学生。山崎さんとさきちゃんのこの最初の出会いは短い文章だが、絵本では6ページ分3つの場面にわたって描写されている。ここをしっかりていねいに描くことで、物語が説得力を増す。何気ない描き方に見えるかもしれないが、余計なものがなく、すっと懐に入ってくるような言葉の選択には、老舗出版社で絵本の編集に携わってきた作家の力量が発揮されている。

 白状を持った方に声をかけ、体にそっと手をそえ、さらにまわりの人に声をかけて助けを求める・・・知らない人に声をかけるというだけでも勇気ある行動なのに、この女の子の一連の行動は、視覚障がいの方を手伝う際のお手本のように見事な動きである! さきちゃんは、その後も毎朝同じように山崎さんのバスの乗り降りの手助けを続けた。 

 そして、その手助けは、さきちゃんが卒業すると妹のみなちゃんに引き継がれ、さらにその妹や友だちに受け継がれていき、10年以上も続いたという。

 読み終わって、「さきちゃんのことどう思う?」と聞いてみたら、「すごい!」と口々に返ってきた。「これは本当にあったお話だよ。」と言うと、一人の男の子が「知ってる。この前NHKで見たよ。」と教えてくれた。エッセイが賞をとり、『読売新聞』の記事になったことで、作家がこのことを知り絵本にしたという。さらにテレビも取り上げた。様々なメディアを通し、多くの人に知られることになったのは素晴らしいことである。

 物語を自力で読み始めた小学生は、多くが次にノンフィクションに興味を持つと言われている。最近はCGアニメのような刺激的な色合いの絵本が多くなってきた中で、この優しい色調の絵本が印象に残ったという子どもたちの選択眼は確かなものと感じた。小学生が主人公で身近に感じたこと、実話がリアリティを失わずにあたたかな雰囲気の絵本になっていることが、子どもたちの支持を得た理由であろう。

(青栁啓子)

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