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学校図書館のスタンダード?

東山由依です。これから、「アメリカの学校図書館基準を学ぶ」をテーマに連載をしていきます。本連載では、2020年12月に実施したオンラインセミナーでの報告をもとに、同基準の概要を、わかりやすく、全4回で改めて紹介します。オンラインセミナーの記録はこちらに公開されているので、そちらもあわせてお読みください。

 世界には、学校図書館についての情報や活動を発信している団体があります。そのうち最も有力な組織のひとつが、アメリカ・スクール・ライブラリアン協会(American Association of School Librarians: AASL)です。AASLの前身は、アメリカ図書館協会(American Library Association: ALA)内に1914年に創設され、1951年に部会になりました。特に部会になって以降は、学校図書館界で強いリーダーシップを発揮して、世界にさまざまな情報を発信し続けています。

 AASLは、1920年より、約10年ごとに学校図書館基準を発表しています。2018年には最新の学校図書館基準『学習者、スクール・ライブラリアン、学校図書館の全国学校図書館基準』(National School Library Standards for Learners, School Librarians, and School Libraries)が出版され、新基準についての概要と学習者基準のフレームワークを示したパンフレット(英語のオリジナル版)が無料でインターネット上に公開されました。

 本連載では、その無料で公開されたパンフレットの翻訳プロジェクトに携わった筆者が、AASLの新アメリカの学校図書館基準について紹介します。初回となる今回は、新基準の構成について紹介します。日本の学校図書館ガイドラインにも簡単に触れますので、アメリカにおける学校図書館の基準(standard)とはどのようなものなのか、イメージをもっていただけたらと思います。

 なお、新基準については、現時点では以下のような論考が発表されていますので、こちらも参考になさってください。

中村百合子(2018)「米国学校図書館員協会による新学校図書館基準<文献紹介>」『カレントアウェアネス-E』no. 343.

中島幸子, 坂下直子, 大城善盛(2020)「AASL「新学校図書館基準」の概要と意義」『Journal of I-LISS Japan』vol. 2, no. 2, p.12-22.

大城善盛, 坂下直子(2020)「学習者, 学校図書館員, 学校図書館のための全米学校図書館基準:フレームワークを中心とした分析」『図書館界』vol. 72, no. 2, p. 89-95.

・柳勝文(2020)「教育時評266 新しいアメリカの学校図書館基準(1)」『学校図書館』vol. 842, p. 54-55.[2021年5月号まで続いた全6回の連載]

過去の基準の歴史についての概説には、以下があります。

・中村百合子, 河野哲也(2022)『学校経営と学校図書館』樹村房(「第6章 学校図書館の歴史(アメリカ)」, p. 75-103.)

AASL新しい学校図書館基準の概要

 今回の新しい基準は、以下のように全4部、15章構成となっており、巻末資料を含めると314ページあります。

  • 第1部:導⼊と概要
  • 第2部: 基準統合フレームワーク(探究、包摂、協働、キュレート、探索、関与)
  • 第3部:達成、成⻑を評価するための細やかなアプローチ
  • 第4部:現実にありえる状況を描いた事例 

 第1部では、学習者のための基準、スクール・ライブライアンのための基準、学校図書館のための基準の三つが示されています。続く第2部では、学習者、スクール・ライブラリアン、学校図書館の三者を対象にした基準をまとめて別の角度からみた「基準統合フレームワーク」が提示されています。別の角度というのは、具体的には三者が共有する六つの基盤ごとに基準をみるということで、基盤のそれぞれで章が立てられています。第3部では、学習者/スクール・ライブラリアンの成長や、学校図書館を評価する方法が紹介されています。そして、第4部では、専門職として働くうえで実際に起こりそうな事例を学べるシナリオが紹介されています。学区のリーダーや各学校のスクール・ライブラリアン等が基準をどのように行動に落とし込んでいくかについてのヒントとなるかもしれません。

 最新版の基準は、学習者、スクール・ライブラリアン、学校図書館三者の基準を示しながらも、学習者の基準を中心においています。2007年の「21世紀の学習者のための基準」と同様に、学習者のための基準のエッセンスは、別刷りのパンフレットとして無料で公開されました。

学校図書館の基準とは

 アメリカの学校図書館基準は、当時の社会情勢、教育や学校図書館に関する研究の動向も反映しながら策定されています。また、近年は学校図書館の役割だけでなく、21世紀に求められる学習者像についても、広く一般に共有されるように作られています。

 日本では、2015年6月に「学校図書館の整備充実に関する調査研究協力者会議」が設置され、学校図書館の整備や人材の配置状況に学校間、地域間で格差がある現状に対して学校図書館基準の作成の必要性が検討されました。その後、協力者会議における計8回の審議を経て、2016年10月に「これからの学校図書館の整備充実について(報告)」が公開され、同年11月、文部科学省より「学校図書館の整備充実について(通知)」の別添資料として「学校図書館ガイドライン」が示されました。このガイドラインは、法令にもとづいて定める「基準」という形ではなく、「学校図書館の運営上の重要な事項についてその望ましい在り方を示す」ものと冒頭に述べられ、学校図書館を利活用するための図書館資料の充実や、運営する教職員の役割について述べられています。

 「学校図書館ガイドライン」は以下の構成になっています。

  • (1)学校図書館の目的・機能
  • (2)学校図書館の運営
  • (3)学校図書館の利活用
  • (4)学校図書館に携わる教職員等
  • (5)学校図書館における図書館資料
  • (6)学校図書館の施設
  • (7)学校図書館の評価

 以上をふまえると、日本の学校図書館ガイドラインとアメリカの学校図書館基準では、基準の位置づけや構成面で異なっていることがわかります。日本のガイドラインでは、“学校図書館で子どもたちにこういう力をつけてほしい”ということには紙面が割かれておらず、学校図書館を通して身につく学習者のコンピテンシー(行動特性)については言及されていません。ここがアメリカの学校図書館基準との大きな違いのひとつといえるでしょう。

 今回は、アメリカの学校図書館基準と日本の学校図書館ガイドラインの構成について紹介してきました。次回はアメリカの学校図書館基準の変遷と新基準の特徴についてみていきます。


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