学校図書館による資料提供の実際
浅石卓真です。連載第1回「なぜ「探究」が注目されているのか」と連載第2回「日本における探究的な学習」では、20世紀後半から学校教育全体が、児童生徒が自ら知識を構成する構成主義に変化してきたこと、それに伴って日本でも探究的な学習が浸透しつつあることを説明しました。さらに連載第4回「学習指導要領の中す学校図書館はどのように言及されてきたか?」では、学習活動を支援する学校図書館の役割が具体的かつ多面的になってきたことを述べました。今回は、学校図書館による学習支援の典型である、資料提供の実際について検討したいと思います。なお、以下は宮田ほか(2018)の一部を抜粋したものなので、興味のある方はご覧ください。
学校図書館による資料提供の実際を反映したデータとして、東京学芸大学学校図書館運営専門委員会が運営しているWebサイト先生のための授業に役立つ学校図書館活用データベース(以下、活用DB)の事例を利用します。活用DBでは学校図書館を活用した授業実践の事例について、「校種」「教科・領域等」「学年」といった情報に加えて、「図書館とのかかわり(レファレンス)」「授業のねらい・協働」「授業者コメント」「司書・司書教諭コメント」などの情報が記載されています。また、(全てではありませんが)提供された資料の一覧が「ブックリスト」として提供されています。
活用DBから、2017年8月23日時点で収録されていた279事例を抽出しました。表1は、教科・学年ごとの事例数の分布を示したものです。教科に注目すると、国語の事例数(109件)が最も多く、社会(37件)・総合的な学習の時間(28件)が続くことがわかります。理科、外国語、家庭、音楽、図工美術工芸書道、特別活動は10〜20件の事例が蓄積されています。一方で算数数学、保健体育、技術、情報科、生活科、道徳、その他は事例が10件以下です。学年に注目すると、高3の事例がとりわけ少ないことが分かります。これは、大学受験が迫る高3は教科書に沿った講義形式の授業が中心になりがちで、図書館活用が減少することを示唆しています。
図1は、各教科で提供された図書をNDC(0〜9類)別に計量し、相対度数をとったものです。国語は9類(文学)、算数数学・理科は4類(自然科学)、社会は3類(社会科学)と2類(歴史)の図書が主に提供されており、教科で参照される知識は、NDCに概ね対応していることが分かります。他の教科でも、図工美術工芸書道は7(芸術)が多いなど、同様の傾向が確認できます。またいずれの教科でも、8類(言語)の図書はほとんど提供されておらず、初等・中等教育では言語学に関する知識はあまり参照されていないことが示唆されます。個別の教科では、以下のような傾向が確認できます:
- 国語:9類以外は、比較的均等に分散しており、多領域の図書が幅広く活用されている
- 算数数学:4類のほか、5、7類の理系的な図書も多い
- 理科:4類が突出して多く、それ以外の図書があまり提供されていない
- 社会:4、5、6類の理系の図書も一部提供されている
また、学校図書館による資料提供では、複数の類から図書が選ばれています。特に国語や社会では、四つ以上の類にまたがって図書が提供されている事例も多く見られました。この他にも、例えば音楽では7類だけでなく9類の図書も多く使われるなど、教科に関連した知識領域の傾向が確認できます。一方で算数数学・理科では、他の教科に比べて、提供される図書が少数の類に集中しています。これは、理系教科では自然法則などある程度確立した知識内容の習得が中心になりやすく、参照される知識源も文系教科ほどは広がらないためと考えられます。そのほか、提供される図書がどれだけ最新のものか、また提供されル図書の分量(ページ数)についても学年・教科ごとの傾向が観察されましたが、それらについては宮田ほか(2018)をご覧下さい。
参考資料:
- 宮田玲, 矢田竣太郎, 浅石卓真(2018)「学校図書館員の教員サポートにおける授業に関連した資料提供の事例分析」『日本図書館情報学会誌』vol. 64, no. 3, p.115-131, 2018.
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