アルバータ大学のティーチャーライブラリアン養成カリキュラム
中村百合子です。カナダのアルバータ大学の教育学修士号の課程に置かれるティーチャーライブラリアン養成プログラムについて、同プログラムの責任者であるJennifer L. Branch-Mueller教授のこ2019年の発表記録(英語)をもとに、英語の紹介サイトの情報も加えて、紹介しています。第1回では同プログラムの概要をご紹介しました。今回、第2回では、教育の中身を見ていきたいと思います。
第1回で紹介したように同プログラムでは、例年、10名ほどの学生が学んでおり、教育学修士号の二つの必修科目(カリキュラムに関する入門科目と教育に関する研究への入門科目)の他に、八つの選択科目を学ぶことになっています。ティーチャーライブラリアンになろうと学修を進めている学生には、Branch-Mueller教授はこのあと紹介する五つの基礎的科目はできるだけ修めるようにと強く指導しているそうです。
それらのティーチャーライブラリアン養成の基礎科目はすべて、小グループでのディスカッション(または大学院のゼミ形式)の形式で進みます。また、ほとんどの科目は、グループ(2~4名ずつ)でプロジェクトに取り組むことが求められます。例えば、学生が発表をしたり、セミナーやウェビナーを開催したりして、クラスメートとの共有を行います。それ以外に、個人で執筆して提出する課題に、次のようなものがあります。
- 行動計画
- 事例研究
- 論点レポート
- 専門誌への投稿
- 本の一章
また、ナショナル・パブリック・ラジオ(NPR)の人気番組This I Believe(私が信じているのは)・・・を真似て、学生たちに、一つの科目を履修し終わったら、その科目の学修を通して新たに理解したことについて書いてもらうこともあります。
さて、五つの基礎科目とは次のとおりです。
- (EDEL 540)ティーチャーライブラリアンシップ入門 学校図書館プログラムとそのサービスのマネジメントについて探索しクリティカルに評価します。具体的には次の三点を参照しながら、学生自身の学校の図書館ではない、一つの学校図書館の評価を行います。学生たちは、方針や規則、実践、コレクション、施設・設備を検討し、直接、ティーチャーライブラリアンとその学校図書館の計画や実際の運営について話をします。
・ エバーハート(Nancy Everhart)氏による『学校図書館メディアセンターを評価すること:分析テクニックと研究実施法(Evaluating the School Library Media Center: Analysis Techniques and Research Practices)』(1998, Libraries Unlimited)を手はじめに用いる。次の2点も使う。 ・ 『情報リテラシーの達成:カナダにおける学校図書館プログラムのための基準(Achieving Information Literacy: Standards for School Library Programs in Canada)』(Canadian Association for School Libraries, 2003) . 『学習をリードする:カナダにおける学校図書館学習コモンズの実践基準(Leading Learning: Standards of Practice for School Library Learning Commons in Canada)』(Canadian Association for School Libraries, 2016)
- (EDEL 542)探究にもとづく指導入門(教育学修士号の必修であるカリキュラムに関する入門科目とみなされる) 探究の本質や文化と教育と学習への探究の統合を探索しクリティカルに評価します。このクラスでは、あるシナリオにもとづいて、行動計画を作成する課題があります。学生は、教師、保護者、ティーチャーライブラリアン、管理職、教育長の中から一つの役にあてられて、与えられたコンテクスト(状況)の中で、探究の文化を作りあげることについて、共通の寄って立つ基盤を見つけることに取り組みます。行動計画には、ウェブサイトを作って参考資料を掲載し、また学校や学区を巻き込むような新しい取り組みを支える文献を提示します。保護者への手紙、専門職の学習目標、短いビデオも作成します。
- (EDEL 543)現代の複数のリテラシー入門 現代の複数のリテラシー、21世紀のリテラシー、ティーチャーライブラリアンにとってのリテラシーにおけるリーダーシップの基盤を探索し、クリティカルに評価します。
- (EDEL 544)現れつつあるテクノロジー入門 現れつつあるテクノロジーの学校と学校図書館における活用を探索し、クリティカルに評価します。個人として、専門職として、また教育と学習の場でいかにそれらを活用可能かに焦点をあてます。学生たちはいろいろなテクノロジーを使って、毎週、読書や思索をクラスメートと共有します。ポッドキャスト、ブログ、アニメ作成アプリ、タイムライン作成アプリ、Twitterチャット(日時を決めて会議を開催し、ハッシュタグ(#)を用いて議論する)などを用います。
- (EDEL 546)情報資源の選定と評価入門 学校と学校図書館における児童・ヤングアダルトのための印刷および電子情報資源の選定と評価について探索し、クリティカルに評価します。
加えて、最後のまとめの科目として「ティーチャーライブラリアンシップにおけるリーダーシップ」に関する科目があります。このクラスでは学生たちはそれぞれに関心をもったトピックについて、本の一章を書きます。そしてお互いに編集しあい、電子書籍の形にしあげます。その本はこちらで公開しています。アルバータ大学のティーチャーライブラリアン養成プログラムは、ティーチャーライブラリアンのリーダーシップの役割を重視しています。異なるスタイルのリーダーシップや、ティーチャーライブラリアンとしての効果的な資質や姿勢について、時間をかけて話し合い、また資料を読みます(注)。テクノロジー、探究、情報資源、複数のリテラシーにおけるリーダーシップに焦点をあてています。副校長といった管理職ポストに修了後に移っていく学生もいます。
カナダには、ティーチャーライブラリアン(学校図書館専門職)の国家資格がないということは、前回も書きました。そこもそもカナダでは教育は(連邦政府ではなく)各州政府の権限の範囲にあります。アルバータ州には、学校図書館の教職員について、こうした資格をもつ者を置くという最低基準がありません。ですから、学校図書館に非常勤のスタッフしかいない学校もあれば、有資格のティーチャーライブラリアンがいる学校もあり、また一般の教師やそのほか何らかのアシスタント職(図書館に関する訓練を受けていない人も少しは受けている人もいる)がいる学校もあります。無資格どころかボランティアしかいない学校も実はあります。学区によっても、求められる資格要件が違います。上掲の『学習をリードする:カナダにおける学校図書館学習コモンズの実践基準(Leading Learning: Standards of Practice for School Library Learning Commons in Canada)』(Canadian Association for School Libraries, 2016)を採用している学区はあっても、有資格のティーチャーライブラリアンの必要性は伝えられていません。結果として、ソファやコーヒーメーカー、コンピューターの置かれた空間はあっても、学校図書館に指導や計画(プログラム作成)がほとんどされていないとか、まったくされていないとかいう学校もあります。
カナダの多くの学校は学校単位での意思決定が行われています。つまり、学校管理職が、学校図書館に教職員を配置するか否か、いかに配置するかを決めるのです。州政府による基準や規制が無ければ、仮に配置されても、いつでも学校図書館から一般教室の担当に戻されることがあり得ます。教師としての勤務時間の一部を図書館で過ごすようにと言われても、その時間数はいつ減らされるかわかりませんし、一日1時間か2時間だけ学校図書館で働くという話になってしまうこともあり得ます。ですから、管理職の学校図書館に対する認識や理解がとても重要になっています。
さて、次回は続けて、アルバータ大学のティーチャーライブラリアンの養成プログラムの学修評価のあり方についてご紹介します。
(注)Jones, J., & Bush, G. (2009). What defines an exemplary school librarian: An exploration of professional dispositions. Library Media Connection, 27(6), 28-30.;Kimmel, S. C., Dickinson, G. K., & Doll, C. A. (2012). Dispositions in the twenty-first
century school library profession. School Libraries Worldwide, 18(2).
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