子供と共に問いを作る
放送大学の塩谷京子です。ここでは、探究のプロセスを切り口として、毎回一つのトピックをもとに、学校現場のエピソードを交えながら連載しています。読者の皆さんが、「探究のプロセスと日々の授業」とをつなげて考えてみる機会になるようなトピックを、毎回選んで書いていきます。
第4回のトピックは、「子供と共に問いを作る(社会科の事例)」です。
子供と共に問いを作ることは、探究的な学習以外でも行われています。探究的な学習を進めている小中学校の総合的な学習の時間では、共通テーマを教師が提示し、そこから児童生徒が自分の問いを作っています。その一方で、教科においては、子供の問題意識をもとに、教師と子供で問いを作る授業が行われています。いずれも、与えられた問いではなく、子供の問いであることが共通しています。
今回は、後者である「子供の問題意識をもとに、教師と子供で問いを作る授業」がどのように進められているのかを、4年生社会科、K先生の授業実践をもとに紹介します。
前時はごみの問題を取り上げ、Xチャートを使って分類しました。分類した結果、「分別に協力しない人がいる」「処理にお金がかかる」「処理しにくいごみがある」「埋立地がまんぱい」という問題点が見えてきました。一言で言えば、「まだまだごみが多い!!」という事実です。問題点が見えると、問題点を解決するためにどんなことをしたらいいのか、どんなことが行われているのかという方向に自然と進みます。この授業では、「ごみを減らすために私たちの周りはどのようなことをしているのか」という問いを立てました。
問いを解決するために、K先生が授業設計に組み入れたことは、三つあります。
一つは、私たちの周りを、「学校」「家庭」「地域」「お店」と、具体的に4つ示したことです。具体的な用語があることは、情報収集の助けになります。
もう一つは、使うツールとしてベン図を取り上げ、共通点を意識するように斜線で示したことです。この共通点が、ごみを減らす取り組みになります。
さらには、教師が示した4つの私たちの周りから、子供は2つ選び、ベン図を使って比較していたことです。選ぶという行為は子供の気持ちをより主体的に向けていきます。
図1は、前時に分類した問題点をもとに教師と子供で今日の授業の問いを作り、教師が問いを解決するためのツール(ベン図)と4つの項目(学校、家庭、地域、お店)を示しているところです。子供はタブレット上のベン図を使い、私たちの周りの4つの項目のうちの2つを選び、比較する活動に入ります。
図2のように、ベン図を使って比較して考えると、自然に対話が始まります。対話の様子を見ていると、聞き手が上手!という印象を受けました。「うん、ふーん」と相槌を打ちながら聞いているだけでなく、「教科書の〇ページに、〜に書いてあるから、それも入れた方がいいんじゃない」というアドバイスしている場面もありました。このようなアドバイスを受け入れながら、ベン図に必要な情報を追加している子供もいました。
情報を収集しながら比較して考え、共通点を見出しました。学校と地域を比較してごみを減らす取り組みを調べたところ、いずれもごみの収集日は決まっており分別してごみを出していることに気づきました。
45分の授業時間の中で、教師と子供で問いを作り、ベン図を使って情報を収集しながら比較して考え、対話しながら加筆修正し、共通点をもとに問いの答えを導き出していました。子供が熱心に情報収集できるのは、問いが自分の問題意識と合っているからでしょう。K先生が、子供と共に問いを作るのは、その後の学びをより主体的対話的で深い学びにしていくためです。
もし、子供が4つの私たちの周り(学校、家庭、地域、お店)のうち1つだけを選んで、問い(「ごみを減らすために私たちの周りはどのようなことをしているのか」)の答えを探したとしたら、どうなるでしょう?子供のノートには、例えば「学校」が取り組んでいることが羅列されることになるでしょう。K先生は、そうせず、4つの私たちの周り(学校、家庭、地域、お店)から2つ選び、ベン図を使って比較して考え、共通点に着目する活動を設定しました。共通点を見出すことで、ごみを減らすためにしていることが、浮かび上がってきます。見出した共通点は、分別であったり、リサイクルであったりするなど、羅列ではありません。2つの私たちの周りの取り組みを調べた上で、子供自身が見出した共通点を言葉やフレーズで表しているのです。
また、密度の濃い時間となっている背景には、子供の問題意識をもとにした問いを作り解決するという授業設計に加え、電子黒板やタブレットなどのI C Tの活用、ベン図などの思考ツールの活用があります。これらを活用することで、思考、対話を組み入れた問いの解決が限られた時間の中でも可能になるのです。
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