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新たな場所で出会う本

青栁啓子です。勝沼図書館の子ども読書クラブ・カムカムクラブの活動を紹介しながら、「遊びと探究のあいだ」をテーマに投稿しています。第2回目は図書館めぐりが出会わせてくれる本のお話です。

四つの図書館

 甲州市には 四 つの図書館が存在する。勝沼・塩山・大和図書館に加え、塩山図書館の分館にあたる甘草屋敷(かんぞうやしき)子ども図書館である。クラブの拠点である勝沼図書館は、ワインと葡萄の資料については全国でも有数のコレクションを誇る。武田勝頼が最期を迎えた武田氏終焉の地にある大和図書館は、武田氏の資料収集に力を入れている。塩山図書館は昭和30年に県立図書館の分館としてスタートした市内で最も歴史ある図書館である。特に「武田信玄」「薬草」「樋口一葉」について資料を収集している。そして、甘草屋敷こども図書館は国の重要文化財である甘草屋敷敷地内にある個性的な子ども専門図書館である。

図書館めぐりの目的

これらの 四 つの図書館をバスでめぐって、各館で本を借りるのが、「市内図書館めぐりバスツアー」である。ここで子どもたちに伝えたいことは、以下のことである。

  • 四 つの図書館の存在
  • 利用カードは市内共通で使えること
  • 借りられる本の冊数は4館合計で最大20冊
  • 返却はどこの館でもOK
  • 郷土の文化資源、甘草屋敷について

 このツアーで期待される収穫は、子どもたちが「自分で選んで本を借りる」体験をとにかくするということだ。本の紹介もしないし、借りなくてはならない義務も設けてはいないが、子どもたちは買い物ツアーのお客さんのように我先にと頑張って本を借りていく。ただ、違う図書館に連れて行くというだけで。

ツアーへ出発!

 当然のことだが、館内では大声でおしゃべりをしない、走らない、飲食はだめという社会的ルールをまず守ってもらう。バスの中では即席なぞなぞ大会(誰かが始める)で盛り上がったり、歌を披露する子もいたりしてにぎやかだが、図書館に足を踏み入れたら静かに過ごす(ことになっている)。貸出規則も自分で体験して学ぶ。最大20冊の貸出枠のうち、最初の図書館でたくさん借りてあとで借りられなくなった子もいれば、1館で5冊と決めて計画的に借りる子もいる。

 バスは、勝沼を起点としてまず大和図書館へ向かう。武田氏滅亡の折には三日間戦いの血が流れ続けたという「三日血川」の別名を持つ日川が窓の下を流れている。感想カードには「川の音がした!」と書く子が多い。

 次に訪問する塩山図書館は、勝沼とほぼ同数の蔵書なのだが、感想カードによると多くの子には「見たことのない本があった」らしい。確かにそういう場合もあるが、大抵は既に見ているのに気づいてなかったということのようだ。

 最後に、国の重要文化財・甘草屋敷へ。見学に先立ち、最低限必要な準備は直前のバス内で行う。まず「甘草」の漢字の読み。地元の施設とはいえ、小学3年生ではまだ読めない子が多い。甘草は何かのミニ講座の後、薬に使うのは甘草のどの部分(①花 ②葉 ③根)かを当ててもらう(答えは③です)。そんないくつかの甘草クイズの後、おやつを配る。そのミニサイズの「サッポロポテト」の原材料に「甘草」の文字を確認できたら、予習は終了! バスを降りたら記念撮影をして甘草屋敷へ。この名前は、江戸幕府の命を受け、漢方薬の原料「甘草」を栽培していたことに由来する。また昭和初期この地域で盛んだった養蚕業の痕跡を主屋二階の道具展示に見ることができる。そのあたりのことは、現地のボランティアガイドさんが写真や甘草の実物を見せながら子ども向けに易しく説明してくださるので、大変ありがたい。コロナ禍以前には、甘草の根を試食させていただいたりもした。

ボランティアガイドさんが甘草講義中

 甘草屋敷について学んだあと、同じ敷地内にある子ども図書館へ移動する。ここは屋敷の文庫蔵であったところを改築し、2002年に開館した小さな図書館である。見たことのない方はぜひ一度訪れて欲しい。そこにある歴史と古い木の温もりが本と溶け合う貴重な場である。読み聞かせを聞いて、フリータイムに。本を読んでも、展示作品で遊んでも、芝生でゴロンとしてもOK。子どもの本だけがある空間で子どもたちが過ごす様子はなんと平和な光景だろう。

天草屋敷子ども図書館:1階は絵本のみ(COVID-19以前)

読みたい本と出会う条件

 毎年、全館をまわった子どもたちの感想からわかるのは、レイアウトが違うと全く違う本があるように感じるらしいということ。実際、勝沼にある本をわざわざ他の館で借りてくるパターンが多い。そんな時は戻ってから「その本、ここにもあったね。」とそっと教えることにしている。子どもにとって読みたくなるタイミングで本と出会えるかという空間はとても大切な要素だとわかる。誰しもいつもと違う書店に行くと新たな本に出合った経験があるだろう。デジタル空間においては、同じキーワードでもリサーチツールによって違う情報にたどりつく。ひとつの場を使いこなすことも大切だが、場を変えてみるというのも、探究にとってひとつの有効な手段になりえるのではないかと思う。

大和図書館では、外の景色に心奪われる
甘草屋敷子ども図書館:前庭で読みきかせ( COVID-19以後)

 以上が毎年行う図書館による図書館の遠足である。子どもたちは、迎えに来た保護者もびっくりの量の本を大きなバッグにつめかえ重そうに抱えて家路につく。2週間で読み切れているかどうかはさだかではないが、2回目の活動で前回より緊張もほぐれ、新たな本との出会いがあったことを私たちは期待している。

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