バルセロナ自治大学における児童文学の教授法
中村百合子です。図書館・情報スペシャリスト養成の世界最先端と言えるプログラムを報告している本連載も最終回(第11回)になりました。ただ、次回から番外編としてもう2回を予定しています。今回はCristina Correro Iglesias博士からの英語での報告(2019年;2022年)にもとづき、バルセロナ自治大学での児童文学の授業の概要、そして最後にスペインとフランスの最新の子どものための図書館サービスの実践を少し紹介します。
世界中に広がる児童文学研究者のネットワーク
スペインのバルセロナ自治大学(University Autònoma in Barcelona: UAB)に、1999年から2019年まで、GRETEL (Research Group on Books for Children and Youngsters and Literacy Learning)という児童文学と義務教育学校や図書館等におけるその活用等の研究会が置かれていたこと、またその研究会のネットワークを活用しながら、五つもの児童文学に関わる専門職養成のプログラムが生まれたことを、前回、報告しました。
例えば、そのうちの一つ「本と児童文学のオンライン修士号」プログラムは英語・スペイン語でオンラインで提供されています。その講師陣は左に見られるように、世界中にいます。講師は各分野の最善の人を選ぶこととして、どこに住んでいるかや大学での地位、またh指数(Hirsch index:論文数と被引用数に基づいて研究者の貢献度を示す指標の一つ)は考慮せずに、独自の方法に拠って選ばれています。ちなみに、左の写真の上段の一番左がGRETELの設立者Teresa Colomer博士で、その二つ隣がCristina Correro Iglesias博士の写真です。
世界中から講師、また学生を集めていること、理論的な内容、各授業で提供されているもの、使われる言葉、そして各授業内の活動において、学生たちは国際感覚を磨かれていきます。取りあげられる本や理論的な内容は、多彩な読み手を想定した多文化的な評価基準にもとづいて注意深く選ばれています。使われている言葉群(corpus)の選択や資料の評価基準については、読み手、目的、質、形態(typology)といった要素を、それがどのように出てきたものかということと合わせて考慮します。
取りあげる本は、一般的な質の観点に加えて、類型として異なる本を選び、また代表的なもの、そして国際的または各国で受賞歴のあるものを選ぶことになっています。使われている言葉群の選択としては、民間伝承(forklore)の資料、本、アプリその他の電子形態の資料を含むようにしています。特定の民族を重視して描いていたり(ethnocentric)、覇権的であった(hegemonic)、代表であるかのように描かれすぎていたり(over-represented)といったことがないことも重要です。
一例として、私が教えている「幼年期のための絵本」の授業では、地元の民間伝承と、世界の他の地域の伝統的な資料とを合わせて取りあげてきました。そのために、十数時間の長さの、世界中の子守歌のリストをSpotifyで作成しました。左の画面のキャプチャをクリックして聞いてみてください。また、参考文献は世界中の研究者のものに目を配り、英語中心にならないようにしています。
国際的な児童図書館員のための授業を計画する際には、その目的と受講生をはっきりさせたうえで、シラバスを書きはじめるべきでしょう。それがうまくいったところで、多様性と多文化主義が二大柱とされるべきです。指導者、受講生、類型、言葉群の選択、教材は、それを反映したものであると同時に、世界中の異なる地域や文化を映し出したものであるべきです。オンラインのプラットフォーム、優れた本、国際的な機関、心を開いて参加してくれる人たちが推進力になり得ます。
スペインとフランスの図書館の事例
スペインやフランスの図書館では、サービスを進化させ、拡張している例がみられるようになっています。文学教育や芸術性という意味で展開が見られるだけでなく、宿題支援、wifi、音楽、お料理教室(cookiteka)、コンサート、テレビゲーム、展覧会、ワークショップ、会議、古い本、デジタル空間の提供が行われています。ヨーロッパではこのような新しい空間は、建築術の変化という価値のあることとみなされています。そして、社会的・文化的な分断と闘う空間とも考えられるようになっています。
公共図書館と学校図書館の協働は、スーツケースに入れたコレクションの交換やネットワーキング、お互いの訪問ツアーで知られるようになっています。学校図書館は非政府組織(NGO)と協働して読書を推進し、社会的な不公正の改善に取り組んでいます(例えば、ACCESS、l’Assotiation Quand les levres relient、FAIRE LIRE)。そこで優れた能力をもつ人材の育成がカギになってきます。本を推薦するだけではなくて、ビデオゲーム、コミックや漫画、劇、音楽、テレビ番組などを推薦できないとなりません。
バルセロナの学校図書館で充実していて知られるのは、右の写真にある、オルランダイ小学校とフランス人/語学校(フランスの教育省によって認可されている)です。スタッフは学校図書館に関する修士号をもっているだけでなく、自ら学び続けています。開館時間が延びて、児童・生徒だけでなく、家族も利用できるようになっています。
公開の、柔軟な空間は、一種のアート空間(Artothèque)という新たな性質を帯びています。右の写真にあるように、家族を巻き込んだプロジェクトが行われ、地域の機関と強固なネットワークを築いていることが、両学校図書館の様子からうかがわれます。
さて、次回から2回は、カナダのアルバータ大学の学校図書館専門職および教員の養成課程における児童文学の授業の実践を報告します。Lynne Wiltse博士が2022年1月28日のオンラインシンポジウム「Road to the Future: Discussion for Developing the International Children’s Literature Course」で発表してくださった内容(英語の記録)にもとづくものです。
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