アメリカは昨日がサンクスギビング(収穫祭)で、今日はブラックフライデーということで、私のアパートは大学(院)生が中心なので、ほんとうに静かです。大学は今週は人がいなくて、改めて、サンクスギビングがクリスマスと同じくらいかひょっとしたらそれ以上に、アメリカ人にとって重要な祝日だなと思います。ただ、1621年にはじめてのサンクスギビングのディナーがピルグリムたちとネイティブ・インディアンたちで一緒にお祝いされたというお話は、語り継がれてきましたが、近年はそれも、より広い見地から再検証されているとか…
さて、前回はシラキュースの生活の基盤づくりについて書きました。今回は、こちらに来てから2カ月ほどの間に訪れた、楽しいところをいくつか報告します。私は2016年にこのシラキュース大学(Syracuse University:SU)に、アメリカ議会図書館(Library of Congress: LC)が一次資料を使って学習指導をすることを勧める活動(Teaching with Primary Sources)で紹介して著名になった探究モデル(Stripling Model of Inquiry)を作られたストリップリング教授(Dr. Barbara K. Stripling;現在は名誉教授)にお会いしたくて、来たことがあります。数日の滞在では、人がやさしい町だという印象と、100年ほど前から存在する建物がたくさんあっていいなあというくらいしか思いませんでした。その時にはシラキュースでの生活がどんなものか、まったくわからなかったのですが、今回来てみて、歴史は興味深いし、大好きになりました。
ニューヨーク州にいると私が日本の方たちに言うと、ほとんどの方はニューヨークシティーを思い浮かべるようですが、シラキュースはあの大都市とはまったく違うところです。それではどんなところかというと…ということで、少し書いてみたいと思います。
たくさんの湖
シラキュースはニューヨーク州の中央部(Central NY)だと言われます。しかし同時に、ニューヨーク州上部(北部)のような言い回し(Upstate NY)の大きな町の一つというような言い方もされています。シラキュースには、私が滞在しているシラキュース大学の他にもいくつか大学があるのですが、そのうちの一つはUpstate Medical Universityという州立の医大です。このUpstateは、五大湖のうちのオンタリオ湖(Lake Ontario)とエリー湖(Lake Erie)に面するエリアであって、これらの湖の向こう岸はカナダです。加えて,Finger Lakesと呼ばれる、まるで指のように並ぶ縦長の湖群もあります。シラキュース北部のオノンダーガ湖は、この地域にもともとあったホデノショニ連邦(Haudenosaunee Confederacy=フランスの入植者たちはイロコイ連邦(Iroquois Confederacy)と呼んでいた)の中心であったオノンダーガ族が聖なる湖とみなしていたそうです。この湖は、コーネル大学の協力のもとで水質改善が取り組まれています(コーネル大学の関連サイト(英語))。このエリアにはこうしていくつも湖があります。
左(上)の写真や、このシラキュースに関する連載の毎回の冒頭の写真は、Green Lakes State Parkで撮ったものです。シラキュースに来てから、お散歩やハイキングに時々出かけていますが、この州立公園はシラキュース大学から車で30分もかからないところで、多くの人がお散歩に訪れています。
シラキュース大学は街中の大学とは言えない気がします。大学キャンパスを出てすぐのところはアメリカの大学の典型的な門前町になっていてレストランや薬局、コンビニのようなお店はあります。片道で徒歩20~30分かければ、ダウンタウンエリアに行くことができます。でも私個人は、アメリカの町の中心はそんなに楽しいところと思えません。しかもここシラキュースは、いわゆるラストベルトの一角ですので、街の中心はかつて栄えていたという雰囲気がどうしてもしてしまうのです。
でも私は、理由は一言では言えませんが、シラキュースが好きです。ここで出会った人たちが、東京から来たというと、それはまったく違う生活でしょう!と言うのですが、ほんとうにそうで、車で30分でこうした自然いっぱいの場所に行くことができて、幸せです。
おいしいりんごとさりげなく提供される本
ここにいて何が幸せと言って、一つはおいしい果物とお野菜の存在です。車で20~30分も走れば広大な農地が広がります。ニューヨーク州は、ワシントン州に次ぐ、りんごの生産地だそうで、あらゆるところでいろいろな種類のりんごが売られています。りんごジュース、アップルパイなど、りんごを農園内で加工したものを売る農園も多いです。
このりんご、とうもろこし、そして小屋(barn)の写真は、コーネル大学のあるイサカ(Ithaca)という町に向かう道すがらのお店で撮りました。三つ目の写真はフィンガーレイクスの本の小屋(Book Barn of the Finger Lakes)という名前の古書店です。オーナーのドラガン氏(Mr. Vladimir Dragan)はとってもウイットに富んだ会話をされる、素敵な方でした。、コーネル大学で建築を学び、古い建物の保存のお仕事をしてきたのだとおっしゃっていました。この赤い建物は最初は牛小屋(cow barn)だった、その後に馬小屋(horse barn)、そして今は彼が本の小屋(book barn)にしているというわけです。
建物の中で写真を撮るのはだめと言われてしまったので、テレビの取材の映像をリンクしておきます!この映像の中では、ドラガン氏は10代の時にこの本のビジネスを小さくはじめたと仰っています。本が好きなのだなあと思いました。「何十億という、あなたが読むことのできる本があるというのに、ベストセラーに載っている一人の著者に自分の選択を限定する理由はないよ(There are billions books that you can read, why you restrict yourself to one author who is on the bestseller list?)」 「一冊のよい本があなたの人生を変えますよ(A good book change your life.)」などの言葉が響きます。
私はシラキュース大学内だけでなく、ここに来てから訪れたどこの図書館でも、一切嫌な経験をしていないし、出会うライブラリアンはみなプロフェッショナルで、不満は今のところまったくないです。が、この古書店さんとそのオーナーのドラガン氏は、図書館やライブラリアンたちとは違う角度から心が通じるような、私たちは何かを共有していると感じるような方でした。
イサカのファーマーズマーケットは一流大学のお膝元ならではのリベラルな雰囲気で、おしゃれでした。マーケットは小さな湖の横で開かれていて、カンボジア料理やピタサンドなどの食べ物のブースもあるので、買った食べ物を湖を見ながら食べている人がたくさんいました。そこには赤いかわいらしい書架が置かれていて、無料で持っていってください、持っていてもいいし、他の人に渡してもいいですと書かれていました。
青い本箱はシラキュース大学近くの一軒家の前にあって、これも、無料で持っていってよいですよというものです。小さな無料図書館(Little Free Library)という活動だそうです。さりげないけれど、本への愛情を感じます。
レストラン「旧図書館」
旧図書館The Old Libraryという名前のこのレストランは、ニューヨーク州オレアン(Olean)という町にあり、ピッツバーグからの帰路で寄りました。なんと!1909年にオレアンの町の公共図書館としてアンドリュー・カーネギーの資金で建てられた建物だということです。こちらでご紹介した、オーバーン(Auburn)という町のセイモアー公共図書館と同じ、ボザール様式で、同館はアメリカ合衆国の歴史登録財(National Register of Historic Places: NRHP)であるのも同じです。
設計は、ティルトン氏(Edward Lippincott Tilton)という、当時の、またカーネギーの公共図書館の建築を数多く手がけた方によります。このティルトンという方はなんと!19世紀末から20世紀半ば過ぎまで、欧州からの移民の入国手続きを行っていたエリス島の建築にも参画していて、ニューヨークの建築史では大変重要な人物のようです。レストランは、建物だけでなく、中の書架、階段、暖炉も公共図書館として使われていた当時のままだそうです。
このオレアンの旧図書館は1910年に開館しましたが、1974年に新図書館ができて、それから1979年まではこの建物は歴史協会(Olean Historical Society)等の建物として使われていたそうです。
ちなみにこちらのお料理はとってもおいしくて、私がオーダーしたのはイスラエルのクスクス料理(The Mariaという名前になっていました)というものだったのですが、これは今回、アメリカに来てから食べたものの中で今のところ最も美味しかったものです。オレアンの街並みは美しく維持されていて、今回これまで訪れた町の中では、今のところ私の最も住んでみたい町です。新図書館も見てくるべきでした!
といったところで、まとまりませんが、今回はこのあたりで。
(中村百合子)