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Tag: 学校図書館

2022年から2023年へ!

あけましておめでとうございます。昨晩,日本に14時間遅れて新年を迎えました。私は、ビザにアメリカ国外での書きかえが必要な事情があり、年末年始をまたいでカナダの首都オタワに来ております。昨晩、2022年はどんな年だったかを振り返ってみました。すぐに思い出されるのは、2020年末の叔父の急逝と相続作業、ついでに自分のルーツの再確認が2022年前半のほぼすべて。このプロセスでは、これまでは専門職と言ってしばしば話したことがあったのは各種の医療専門職と弁護士、神父や牧師くらいでしたが、今回、司法書士、税理士の方たちに出会い、大変お世話様になりました。図書館業界同様、業界内の専門性の細分化や業界団体とそれぞれの専門職の先生方の関係性をうかがい知ることができたのは興味深いことでした。夏からは、三人の親の介護問題を含めアメリカ行きの準備をしてこちらに来ました。その過程では、ケアマネージャー、介護福祉士の方たちとそれまでよりもずっときちんとコミュニケーションをとることになり、どのようなお仕事をされている専門職なのかがわかってきて、尊敬の念がほんとうに増しました。他の専門職の方たちのサービスの利用者の側になってみて、司書とは何か、を改めて考えることになりました。

 仕事面では次のようなことを、2022年にやってよかったなと振り返りました。みなさんにお力をかしていただいて実現したことばかりで、感謝に堪えません。

1.研究会

 春学期にボランティア参加の研究会をほぼ隔週で実施しました。価値を見出してくださったり、感謝してくださった方もいらっしゃり、ありがたいことでした。が、各回の実施準備はけっこう時間がかかるもので、やり続けるのは少し厳しいかなと思い、来年度の予定はたてていません。

2.夏休みの図書館見学会@ぎふメディアコスモス

 本学司書課程の兼任講師の中山美由紀先生に仲介していただき、南山大学の司書課程の学生さんたちや浅石卓真先生とご一緒させていただきました。また、同じく本学司書課程で兼任講師をしていただいている中村佳史先生が同館のシビックプライドプレイスのディレクションをされたことから現地で合流してくださったのも嬉しいことでした。同館の総合プロデューサーの吉成信夫さんには見学会後の夕食会にもご参加いただき、多くのご配慮いただき、本当にありがたく存じました。ただ、私は相続の件と渡米準備が佳境でまったく準備の余裕がなく、もう少し予習・準備をしていくべきだったと今になると思います。久しぶりの図書館見学会でしたが、学生さんたちと学外で会うことの楽しさも改めて感じ、また実施したいと思っています。

3.渡米

 図書館に関係する経験については少しずつ、本サイトTANE.infoでも報告していますが、それ以外にも広く、アメリカ社会を知ろうと心がけて活動しています。例えば…ニューヨーク州の運転免許をとろうとしています。筆記試験が終わり、次は講習の受講で、最後に実地試験です。これがとれると、車の保険料がぐんと下がるはず!

4.”公共図書館と学校図書館”という出発点に返る

 12月1日に、茨城県立図書館が企画・実施した、令和4年度関東・甲信越静地区図書館地区別研修で、標記についてオンラインでお話させていただく機会を得ました。スライドではタイトルが「公立図書館」となっているのですが、タイトルを付けた時、なぜ「公立」をあえて選んだのか、後(渡米後)になると思い出せなくなりました。その点、お恥ずかしいのですが、概要の記録という意味で、右にスライドを公開します。このテーマは、私の修士課程時代の関心で、久しぶりに立ち返ることができ、とてもよい機会をいただいたと思って感謝しています。

2023年は…

 次の二つの目標をたてました。

  • サバティカル中の研究成果をなんらかの形にする。正直に言って、まだまだ先が見えません。今はためている段階です~
  • 農林漁業の六次産業化について具体的に学びはじめる。これは図書館とは別の私の関心事で、数年前から無計画に少しずつはじめてきていたのですが、今年は週末を使って、より具体的に学びを進めていこうと思っています。畜産業も関心あるなあ。昨年末に、カナダ農業食糧博物館(Canada Agriculture and Food Museum)に行き、こんな動物たちに会ってきました!これ以外にも、歴史博物館、自然史博物館、美術館を訪問していますが、なぜかなあ、この年になって、私には農業食食糧博物館がほんとうに心に迫ってきますね~
人間が食する1キロを得るのに、飼料として何キロ必要かの正解一覧。でも、食べる部分としてどこまで計算に入れるかというのは、文化によって違うような…
とうもろこし(corn)の粒(kernel)やそれ以外の部分を発酵させ、そのほかにもプロテインのペレットなどを混ぜて作られている牛さんのお食事。
豚さんってとても頭がよいのだそうで。それぞれの牛さんのもとにぶら下がっているボールは遊具なのですと!

(中村百合子)

学校図書館研究のための大学院進学

 

立ち上げ人の中村百合子です。私は、立教大学司書課程(図書館司書コースと学校図書館司書教諭コースがあります)の主任をしていますが、立教大学大学院文学研究科教育学専攻でも教えています(私の今の研究を高校生にわかりやすく紹介したウェブページはこちら)。過去にはそれで、主に本学の学部生の司書課程登録生や学部時代に司書課程に登録せずにいて大学院に進学して資格を取り図書館への就職の可能性を探りたい学生から、図書館研究のために大学院進学をすることについて相談を受けてきました。学外からの相談もたまに届きます。そこで、ここに、学部生もしくは学部卒者で、大学院での図書館、主に学校図書館研究を志す方のために、大学院進学についての簡単な情報提供をしてみます。

ポーランドのDolnośląska Biblioteka Publiczna(2017年)

 私自身、大学院から学校図書館研究を志しましたし、図書館研究の世界は、伝統的に、大学院からの進学者に対して門戸を開いている学問領域だと思います。これは、欧米(特にアングロサクソン系諸国)では、図書館情報学は応用科学(applied science)であり[1]、大学院から学ぶことが一般化していることに影響を受けているものと思われます。ですから、大学院から新たに図書館研究(図書館(情報)学)の専攻に移ることは、無理なことではありません。ただ、学部時代に一切の関連知識を得ていなくて(司書資格や司書教諭資格の取得に向けての科目を一切履修していないとか、情報学、メディア学、教育学等を一切学んでいない)、かつ図書館や情報機関、情報産業で働いたこともないという状況で、図書館情報学を大学院で学びたいと考えて入試を受けるとなれば、相当厳しいということは誰にでも想像できると思います。私が知る範囲では、アングロサクソン系諸国の専門職大学院である図書館情報学大学院に進学するのには、学部時代の学修経験の有無は一切、ハードルになりません(今は、本サイトにも記事をあげているように、すべてをオンラインで終えられる専門職養成プログラムも登場していますから、日本から入学して学び、修了することもできます)。しかし、日本では、ゼロから学修をスタートさせるような図書館専門職養成を主たる目的とする大学院は皆無といえ、まったく図書館に関わる学修や勤務の経験のない状態での大学院進学は、私の目にはかなり無謀にみえます。まずは、科目等履修生や通信教育でよいので、少し、図書館について学んでみたり、もしくは図書館で働いてみたりするのがよいと思います。立教大学司書課程も科目等履修生を毎年、2月に募集しています。

 大学院進学の先は、専門課程としては、慶應義塾大学の図書館・情報学専攻と、筑波大学の人間総合科学学術院人間総合科学研究群情報学学位プログラムがまず選択肢になるでしょう。九州大学のライブラリーサイエンス専攻など、それ以外にも図書館情報学(関連)の大学院課程は全国にあります[2]。それから、東京大学の教育学研究科にある図書館情報学研究室京都大学の教育学研究科にある図書館情報学研究室も、研究者養成の色彩が強いと思われますが、選択肢です。学校図書館についての研究ということになると、教育学の中の図書館情報学、さらには教育工学や教育心理学の研究室で学ぶことが大きな選択肢になってきます。そうなれば、東京学芸大学や大阪教育大学の大学院も覗いてみようかなとなりましょう。そうした多くの選択肢の一つが、私のいる立教大学大学院文学研究科の教育学専攻ということになります。

 教育学の中で学校図書館研究をする、その進学先を検討する際には、以下に気をつけてください。

  • 図書館研究者は1名~2名しかいないはずですから、師事したい教員を一人見つけるだけでなく、その他の領域にも学びたい領域や研究者があるかいるかを確かめましょう。大学院修了には、一定単位を修得することが必要ですから、一人の教員だけを目当てに進学先を決めると、進学の後に苦しくなる可能性があります。
  • 教育学も図書館学も、教育や図書館を対象にしていることが前提で、日本の大学院では研究の手法を修得して修士論文を書くことになります(一方でアングロサクソン系諸国の専門職大学院では修士論文を書かない選択肢があります)。つまり、心理学や社会学、史学といった手法を学ぶ必要があります。例えば私の主たる研究手法は史学と(国際)比較図書館学で、特に日本とアメリカ合衆国の(学校)図書館史や両国の(学校)図書館の比較に関心があります。しかし、私の所属する大学院には教育”哲学”、教育”社会学”、教育”心理学”、”比較”教育学等に優秀な教員がいます。また、特に社会学については、社会学部があるので、進学後にそちらの(学部や大学院の)授業を受けることもできます。もし本学大学院文学研究科教育学専攻に進学して学校図書館や図書館を研究したいとなれば、研究手法の第一の選択肢は歴史研究と国際比較研究ですが、それらでなければ他の研究手法を身につけるために大学院では個人的に相当の努力をする必要があります。やみくもに研究の「テーマ」だけを考えていてもだめで、それをどうやって研究するのかという「方法」について考えることが、進学先を決めるときには必要です。これは、図書館情報学の教員が多くいる大学院に進学する場合も考える必要があると思います。研究手法をいかに修得するか、が大学院生活の一大テーマです。

 そして、進学の先の就職先の問題です。今のところ、日本には数百の司書や司書教諭の資格付与を行っている大学が存在します。夏の集中講義や司書講習・司書教諭講習、通信課程もあります。ですから、そのどこかに一コマ二コマと非常勤講師として教える機会があるという話は、修士課程または博士課程を修了すれば聞こえてくると思います。ただし、雇用大学側は採用候補者に、大学院の修了証以外に、しっかりとした論文や著書があること、また/または、図書館現場での経験や実績を求めることがほとんどです。専業の研究者の道はそうした積み重ね(学部卒以降に最低でも10年の精進となりましょう)の先にしかないと言ってよいと思われます。一方で、図書館への正規職の就職では、大学院の学位が採用試験で考慮されることはあると思いますが、それが採用試験の得点に何十点も加点してもらえるような影響力をもつかというと…わかりません。むしろ、非常勤であれ、図書館での現場での経験や実績が、次の図書館への就職においては、大いに評価されるのではないでしょうか。

 しかしそれでも、大学院で図書館について研究する人が増えてほしいし、全体としては増えているというのが私の印象です。Evidence-based librarianshipつまり科学的根拠にもとづく図書館実践が求められていることを、日本でも多くの人が認識しつつあるからだと思っています。政策決定もEBPM(evidence-based policy making)が基本になってきていますね。図書館を変えたい思いは、科学的根拠にもとづいた発言として、より多くの人から表現されるようになってほしいと願っています。(もちろん、これは図書館の思い出や思い入れの表現の価値を否定するものでは決してありません。)

 ところで大学院生活ってどんな?ということを考えるとき、進学を考える大学院の説明会に行ったり、所属したい教員にコンタクトしたりすると思います。ただ、そういう行先個別の話の前に、どんなことが期待されているのかなあという姿勢のようなことも考えてみてほしいです。大学院という世界を想像せずに、学部の授業に出席していた時の感覚でいると…かなり違う世界が待ち受けています。理系の先生方の中には、ゼミや研究室の選択の参考になる情報をよく整理してウェブページで公開しておられる方がおられます。その中でも、(学校)図書館の研究を大学院でするかを考えるときにも参考になるだろうと私が思った三つのサイトを以下にリンクしておきます(並び順は単に私が読んだ順です)。


[1] このこと、筆者のプライベートのブログにチラっと書いたことがある

[2] 図書館情報学の専門課程については、歴史の話が中心になっているが、吉田右子「第1章 図書館情報学専門課程の変遷:組織改革を通じた学の模索」『図書館情報学教育の戦後史:資料が語る専門職養成制度の展開』中村百合子,松本直樹,三浦太郎,吉田右子編著,ミネルヴァ書房,2015,viii, 1039 p., p. 53-103. が参考になる。