【図書紹介】『ぼくは川のように話す』
「ザッザー、ザッザー、ザッザー!」絵本の表紙を見たとたんに一人の子が大きな声で言い出した。このイラストからは、確かにそういう音が聴こえてきそうだ。大きな川の流れの中で腰までつかっている少年。彼は静かにうっすらとほほ笑んでいるように見える。
「『川のように話す』ってどういうイメージだと思う?」と聞いてみた。少し考えた末に、子どもたちには「スラスラ―」という答えが多かった。中に「キラキラ」というものもあり、光輝くイメージを感じている子もいた。
『ぼくは川のように話す』(原題 I Talk Like a River)は、吃音で悩む少年が主人公だ。人前で話すのって、勇気がいる。まして、発音に苦手な音があったら・・・
教室では、うしろのせきでちぢこまっている。 あてられませんように、って思いながら。 先生がぼくをさすと、 みんなが、いっせいにふりかえる。
こんな気持ち、誰しも一度は経験あるのではないだろうか。
とりわけ、彼にとってこの朝はつらかった。なぜなら、
学校では、 毎朝ひとりずつ、 世界でいちばんすきな場所について 話すことになっていた。 きょうはぼくのばん。 でも口が どうしてもうごかない。 もううちへかえりたい。
学校でいやな思いをした日に、父親が少年を川へ連れだした。
そこで少年は父からの言葉と川に救われる。そして、もう大丈夫だと思える。決して彼の吃音が直ったわけではない。カナダの大自然の中で、それこそが自分なのだとありのままの自分自身を受け入れる瞬間が訪れたのだ。
川が大海をめざすように、このストーリーがタイトルにたどりつく道程に心を動かされる。原書では、特に最後の2行が印象的だ。
I talk about the river. And I talk like a river.
最初の文の「川」は、自分のお気に入りの場所”the river”であり、その次の「川」はこれからも少年を支えてくれるゆるぎないイメージの”a river”である。
なぜ少年がそう思えたのかは、ぜひ絵本で確かめていただきたい。文章と絵のコラボレーションが素晴らしい。
作った二人がこの作品について語った動画はこちら⤵。絵を描いたシドニー・スミス氏は、主人公の不安な心理をどう絵の描き方で反映させたかやストーリー上重要なシーン(見開きになっている)の川の絵を20ヴァージョン以上描いたとエピソードを紹介している。
さらに注目したいのは、この作品はジョーダン・スコット氏の個人的な体験から生まれたという点である。「ぼくの話し方」というあとがきで、吃音についてこのように解説している。
どもる人は、ひとりひとり、みなちがうどもり方をします。吃音に、たんなる吃音というものはなく、それは言葉と音と体がからみあった、とても個人的な苦労の塊です。(中略)ぼくはときおり、なんの心配もなくしゃべりたい、「上品な」、「流暢な」と言えるような、なめらかな話し方であればいいのに、と思います。でも、そうなったら、それはぼくではありません。
ぼくは、川のように話すのです。
スット氏自身の朗読はこちらで⤴、朗読の後で参加者が自分の吃音を自分の言葉で表現するのが興味深い。「私のは、アイス・キューブみたい」「ペンギンみたい」「ローラーコースターみたい」「風のよう」などと次々出てきて、みな詩人のようだった。社会で吃音への理解を深めるためにも、この絵本は多くの人に読んでもらいたい。
(青栁啓子)
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