ゴールをイメージする
放送大学の塩谷京子です。ここでは、探究のプロセスを切り口として、毎回一つのトピックをもとに、学校現場のエピソードを交えながら連載しています。読者の皆さんが、「探究のプロセスと日々の授業」とをつなげて考えてみる機会になるようなトピックを、毎回選んで書いていきます。
第3回のトピックは、「ゴールをイメージする」です。
小学校3年生が、総合的な学習の時間で、富士山に住む動物を調べ図鑑を作る活動をしていました。
「富士本動物図鑑」作成がゴールですが、そもそも、どんなことを書けばいいのかが子供にはイメージできません。そこで今日は、お手本として図鑑を見に図書館にやってきました。
図鑑を見ながら、子供たちは、「目次と索引があるよ」「写真や絵があり、近くに説明もあるね」と、次から次へと気づいたことを発表していきます(写真1)。
ふと、ある児童が、「これ何?」と、指をさしました。A先生が、「これは何でしょう?何のためにあるのでしょうか」と問いかけました(写真2)。すると、子供たちは、食い入るように図鑑の周りを読み始めました。
読んでいくと、これはシルエットと言って、人の大きさに対して恐竜がどれくらいの大きさなのかをイメージするための図ということがわかりました。
シルエットの意味は分かっても、子供たちの表情は、シルエットが何のためにあるのかがピンときていないように、私からは見えました。
子供の表情が一気に変わったのは・・・、
「シルエットに書かれた人は、170 cm」と書いてあるのを見つけ、「170 cmの人って、この学校にいる?」となり、校長先生が170 cm代であることがわかり、校長先生を目の前にして、
「校長先生をシルエットの人とすると、この恐竜はこんなに大きい!!」
「この恐竜は、こんなに小さいの?」
と、手を広げて大きさを示したときでした(写真3)。
図鑑は紙面の制約があります。恐竜の大きさは本当はみな違いますが、恐竜の大きさを数字以外で伝えることは容易ではありません。子供は、シルエットがあることで、実際の大きさを自分の手を広げてイメージすることができたのです。図鑑から本物の恐竜が飛び出してきたような、そんな実感があったかもしれません。
このような学びの後、A先生は「皆さんが作る富士本動物図鑑にはシルエットは必要ですか?」と問いかけました。子供たちは自分が調べた動物を見ながら、「大きさが違うから必要」「大きさはほとんど同じだから必要ない」と、選んでいました。そして、「目次・索引は必要ですか?」と続きます。これから作る図鑑のイメージが徐々に出来上がっていく時間でした。
探究の過程を進めていくときに、ゴールをイメージする授業、例えば、レポート、パンフレットなどの展示を見たり、先輩のプレゼンテーションやポスターセッションを聞いたりすることは、一般的に行われます。国語の教科書にも、アウトプットの事例が丁寧に書かれています。A先生は、図鑑という表現形式を提示したものの、どういうパーツを使うのかについては、子供に選択の余地を作っていました。選択の場を設定するというちょっとした工夫が、子供のゴールイメージをより具体的にさせた授業でした。
0 Comments