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本にあることと体験をつなげる

放送大学の塩谷京子です。ここでは、探究のプロセスを切り口として、毎回一つのトピックをもとに、学校現場のエピソードを交えながら連載しています。読者の皆さんが、「探究のプロセスと日々の授業」とをつなげて考えてみる機会になるようなトピックを、毎回選んで書いていきます。

 第5回のトピックは、「本にあることと体験をつなげる」です。

 子供がものの名前を知りたがるとき、「あれ何?」「これ何?」と指をさして尋ねます。2歳になる前から、何度も何度も繰り返し尋ねている光景を見かけます。ある時から、ものの名前だけではなく、「何してるの?」と、動作を尋ねてくるようにもなります。一瞬で答えが返ってくるものの、問いの対象は山ほどありますから、いくらでも尋ねることができます。

 子供は、手当たり次第、尋ねているのでしょうか?

 子供の行動を観察していると、ちゃんと理由があって尋ねていることに気づきます。でも、それは、大人が疑問をもたないと見えてきません。2歳児の母親のMさんは、「これ何?」と、息子が突然台所の扉を開けて尋ねたので「泡立て器」と答えたものの、不思議が脳裏をよぎったそうです。台所で泡立て器を使っていないのに、どうして、泡立て器を取り出して何度も尋ねるのかと。

 しばらくして、ハッとしたとのこと。このところお気に入りの絵本『ノラネコぐんだんシリーズ アイスのくに』の読み聞かせをしています。その中で、ノラネコぐんだんが泡立て器を使っている絵を見つけて・・・、そういうことか!!と、驚くやら、納得するやら。絵本の中のことと、実物をつなげていたんだと。

 数日後、靴が小さくなったので、新しい靴を買いに行くと、母親のMさんが買いたいな思う靴をどれだけ勧めても息子は「いや」の一点張り。「どれを履きたいの?」と尋ねると、欲しかったのは、父親と同じメーカー、同じデザイン、同じ色の靴でした。父親の靴と「一緒」の靴を履きたいからこそ、他のは頑なにいやと言うんだと・・・。

 子供の問いや主張に、意味があることが少しずつ見えてきたことを、このようなエピソードを交えて話してくれました。

 「同じ」「一緒」という認識、ここに至るには、別々にある情報と情報を、形、色というように何らかの視点でつなげることで、「同じだ!」と気づくというプロセスを経ています。

 「共通、相違、事柄の順序など、情報と情報の関係について理解すること」は、学習指導要領小学校国語1・2年生の「知識及び技能」の中に書かれている内容です。入学前までに、個人差はあれ、子供たちが体験しているであろう「共通、相違、事柄の順序」などの情報と情報の関係の理解について、国語の授業では、どのように扱われているのでしょうか。「体験」と「本に書いてあること」を「共通」という視点でつなげている事例を紹介します。

 司書教諭であるℕ先生の小学校1年生国語の授業です。

 「この前よりも様子がよくわかるアサガオゆうびんをかこう」の単元では、生活科で育てているアサガオを観察し、絵と文章でおうちの人にお手紙を書く活動が設定されていました。「この前よりも・・」とあることから、今回は2回目です。様子を伝えるために、「大きさ」「形」「手触り」などと、それぞれが選んだ観点で観察を始めます(図1)。子供の近くには観察するアサガオが置いてあり、教室の後ろにはアサガオの本が展示されています。

図1 自分が選んだ観点でアサガオの観察をする子供

 書いたお手紙を友達に紹介しているときのことです。ある子供が突然、教室の後ろに並んでいる本の中から1冊取り出し、「本のここにも書いてあります」と、自分が観察したことと、本に書かれていることが「同じ」であることを嬉しそうに話し始めたのです。別々に見えていることをつなげた発言に対し、聞いている子供たちだけでなく、この授業を参観していた私も釘付けになりました。子供の発言を聞きながら、「アサガオ」を大切に育て、「アサガオの本」を手に取り読み聞かせを行うなど、ℕ先生がアサガオを介して、育てることと読むことをつなげ、それぞれの魅力を子供たちと共有している日常の光景が目に浮かんできました。

 国語科では、「体験」と「本にあること」を共通という視点でつなげる以外にも、教科書の説明的な文章を読むときに「絵」と「本文」をつなげたり、物語文を読むときに「さし絵」と「情景描写」をつなげたりしています。

 このように、国語科では一見別々に見える情報と情報を「共通」から始まり、「相違」、「順序」などの視点でつなげて(関係づけて)いくことを小学校1・2年生から、系統的に学んでいます(注1)。系統的に学んだ内容は、国語科だけに留まらず、各教科や総合的な学習の時間において活用します。特に、総合的な学習の時間では、探究の過程(「課題の設定」「情報の収集」「整理・分析」「まとめ・表現」)の中の「整理・分析」において、集めた情報を比較したり関係づけたりして考えるときにも使っています。


(注1)以下は小中学校学習指導要領国語より、筆者が情報に関する内容を抜粋し、探究の過程の「整理・分析」と関わりのある部分を太文字で示したものです。

<小学校国語 1・2年生 <知識及び技能>より抜粋>

共通,相違,事柄の順序など情報と情報との関係について理解するこ と。

<小学校国語 3・4年生 <知識及び技能>より抜粋>

考えとそれを支える理由や事例、全体と中心など情報と情報の関係について理解すること。

比較や分類の仕方、必要な語句などの書き留め方、引用の仕方や出典の示し方、辞書や事典の使い方を理解し、使うこと。

<小学校国語 5・6年生 <知識及び技能>より抜粋>

原因と結果など情報と情報の関係について理解すること。

情報と情報との関係付けの仕方、図などによる語句と語句の表し方を理解し、使うこと。


<中学校国語 1年生 <知識及び技能>より抜粋>

原因と結果,意見と根拠など情報と情報との関係について理解すること。

比較や分類,関係付けなどの情報の整理の仕方,引用の仕方や出典の示し方について理解を

深め,それらを使うこと。

<中学校国語 2年生 <知識及び技能>より抜粋>

意見と根拠,具体と抽象など情報と情報との関係について理解すること。

情報と情報の関係の様々な表し方を理解し使うこと。

<中学校国語 3年生 <知識及び技能>より抜粋>

具体と抽象など情報と情報との関係について理解を深めること。

情報の信頼性の確かめ方を理解し使うこと。


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