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    キーマスター

    中村百合子です。これから数回に分け、筆者らが2019年夏に札幌で開催した国際シンポジウムでの、サンノゼ州立大学(San José State University)のSandra Hirsh教授およびMary Ann Harlan助教授の報告をもとに、「世界最先端の図書館・情報スペシャリスト養成」について報告します。お二人の先生から最新情報をいただきながら書いていきます。また、サンノゼ州立大学のプログラムの報告に続けて、同じシンポジウムで報告をいただいた、カナダのアルバータ大学(University of Alberta)、スペインのバルセロナ自治大学(Universitat Autònoma de Barcelona)のプログラムについても紹介いたします。すでに英語ではシンポジウムの記録をこちらに公開してるので、ぜひそちらもお読みください。

     この連載をとおして、現代の図書館・情報スペシャリストってどんな人?ということも、考えていきたいと思います。

     第1回の今回は、北米の図書館・情報スペシャリスト養成におけるサンノゼ州立大学の位置づけをみてみます。

     図書館・情報スペシャリスト養成は、北米では基本的には大学院レベルであり、図書館情報学大学院(Graduate School of Library and Information Science)と呼ばれることが広まっています。そのうちアメリカ図書館協会(American Library Association: ALA)が認定する修士号プログラムを修了すると、認定校修了者として、専門職ライブラリアン(professional librarian)への就職の道が開けます。つまり、図書館情報学大学院の修士課程というのは、プロフェッショナル・スクール(専門職大学院)の一種で、ただ学問として図書館情報学を学ぶというようなことはどこでも考えられていません。筆者は、1997-1999に認定校の一つのハワイ大学の図書館情報学大学院の修士課程に留学し、修了しましたが、ライブラリアンとしての洗礼を受けるような経験だったと思っています。そういう洗礼が全米の認定校で行われるから、修了生たちはその後、どこで出会っても、互いに話がすぐに通じると感じ、同じライブラリアン、図書館・情報スペシャリストという仲間として連帯できるのです。

     サンノゼ州立大学の図書館情報学修士号プログラムは1967/68から現在に至るまで、ALAの認定を受けています。ALAの認定制度は1924/1925にはじまっており、サンノゼ州立大学があるカリフォルニアでは、その時、UCバークレーが認定を受けました。しかし、大学の認定は1994年5月で終わってしまいました。現在は、カリフォルニアには、サンノゼ州立大学のほかには、UCLAと南カリフォルニア大学(USC)が認定を受けています。カリフォルニアは人口で言ったら日本の1/3、広さで言ったら日本の9割ほどはあるので、そんなところに三つしか認定校がないということです。

     サンノゼ州立大学の図書館情報学大学院について日本語で紹介されたものを探してもほとんど見あたりません。しかし、実は同大学の図書館情報学修士号プログラムは、2009年からプログラムのすべてをオンライン化し、世界中に講師と受講生を得て、そのカリキュラムの先進性とオンラインでの教授法の充実により、世界で最も評価されているプログラムの一つです。サンノゼ州立大学は、アメリカ西海岸最古の公立大学であり、シリコンバレーに位置するため、スタートアップ企業との連携も全学で行われていると聞きます。コミュニケーション・メディアが激しく変化する時代にあって、世界で最も注目すべき図書館情報学プログラムだと考え、紹介することにしました。

    San Jose州立大学とその周囲

    本ページ冒頭の写真は、同大学のマーティン・ルーサー・キング・ジュニア図書館。大学図書館であると同時に公共図書館としても機能している。

     ALAの認定制度を含めて、北米の図書館情報学プログラムについてはこれまでもたびたび紹介されてきました。もう15年ほど前の論考にはなりますが、井上靖代氏が国立国会図書館の調査研究報告書『米国の図書館事情 2007』(p.32-36)で紹介した内容は導入として参考になります。また、近年のiSchoolとしての認定というトレンドを中心に北米の図書館情報学教育事情を紹介したものとして、古賀崇氏の2015年の発表記録も大いに参考になりましょう。

     英語の参考文献としては、ALAの認定校についてのページサンノゼ州立大学情報学大学院のページを今回のところはあげておきます。


    参考資料:

    返信先: 畑を耕す #8198
    管理人
    キーマスター

    発起人代表兼本サイト編集責任者の中村百合子です。このたび(2021年7月)、本サイトTANE.info立ちあげました。議論のための畑を耕したという気もちです。これから多くの種が撒かれていくと思います。「EDITOR’S Journal」には、編集日誌を時々書いていくつもりです。

     2021年春、2018年から3年間、取り組んできた立教大学図書館長の仕事を離れるとき、私は大学図書館での3年間の経験とまた2020年春からのコロナ禍のさまざまな経験を振り返るよい機会をもらったように感じました。そうして思いを巡らせる中で、次のように近年の疑問を整理しながら、これからは過去より広く、より多くの人たちとつながって、これらについて探ってゆきたいと思うようになりました。

    • 子どもたちの“探究”を教育者たちはどう支援できるのか?すべきなのか?
    • 今後、人びとの“探究”において、図書館はどのような存在になるのか?

     新しい学習指導要領、高校の教科名には「探究」の文字が踊っています。しかし、私たち教育者も探究の力をもっているのかどうか、あやしいように思います。探究とは何かというところから、探究する必要がありそうです。 

     一方で図書館は、インターネット上に多くの情報が見つかるようになった今、はて、これ/ここは何のための場だったかな?と思われるような状況にあるのではないでしょうか。紙の資料の集積の場、読書材の提供の場という図書館という前提は、さすがに日本でも崩れつつあります。が、日本の多くの図書館関係者の間には今も、20年ほど前のアメリカのライブラリアンたちと同じ感覚が案外、残っているのではないでしょうか。つまり、図書館はインターネット上の情報“も”扱う、図書館専門職は過去に身につけてきた紙の資料の収集整理等に関する専門的な知識・技能を応用してインターネット上の情報も適切に扱うことができるという見方であり、態度です。これは20年前に『インターネット時代の学校図書館』(東京電機大学出版会,2003)という本を企画した時に、同書に私を含む編著者らがこめたメッセージでした。当時の北米の図書館情報学大学院、つまりライブラリアン養成の場で叫ばれていたことでもありました。しかしその後のICTの発展や情報流通のグローバル化の進展など、情報環境の変化、コミュニケーションの変貌は激しく、そのような理解はすでに、確実に、OUTDATED(時代遅れ)になっていると思います。

     20数年前、ハワイ大学の図書館情報学大学院へ留学していた時、図書館サービスについて、USER-CENTERED(利用者中心)という言葉をいつも聞きました。そして今、日米双方の、社会のあらゆる場面でUX(user experience:利用者の体験)の観点からのサービスの抜本的改善が語られるようになっています。図書館は20世紀の資料整理による制限がつきまとい、UXの向上には限界があるようです。しかし同時に、人間の身体にも限界があり、それゆえ物理的な存在である図書館や印刷資料の価値は残っているような気がします。とはいえ、図書館は、コミュニケーションが急激に変貌する中で、利用者の情報行動における一つのツールでしかないという事実をとうとう受け入れなければいけない状況になっています。インターネットの世界はUXの観点から日々更新されており、人びとにとって、図書館よりも身近な情報探索・発見ツールにすでになっています。図書館も図書館専門職も、過去と同じ原理では人びとからその必要性を認められ続けることは無さそうです。

     このサイトを通じて、みなさんとともに、“探究”の意義を確認し、よりよい“探究”の実現に関わり、そして同時に、図書館とは何かということを根本から問い直してみたいと思っています。

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