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日本の多文化・多民族化の現状を知るためのブックリスト

宮澤篤史です。第1回~第4回まで、図書館の多文化サービスについて記述してきました。そうした多文化サービスの状況は、当然ですが日本社会の多文化・多民族化の状況を色濃く映し取ります。第5回となる今回では少し図書館という話題から離れ、日本社会の多文化・多民族化の状況を知ることができる近刊図書をご紹介します。

ルポルタージュや取材記 ― 多文化・多民族化する場を描く

 日本の各地域の多文化・多民族化の状況の「現場感」を知りたいときに役立つのは、ルポルタージュや取材記でしょう。文化的・民族的な多様性の度合いが強い地域での取材をもとにした以下のような本は、人びとの息遣いや暮らし方、地元日本人住民との関わり方(時には軋轢)を地に這うような視線で描き出してくれます。

 外国籍人口がおよそ40%におよび、近年はベトナムやネパールなど東南アジア出身者も増加していることから、従来呼ばれていたコリアンタウンから多民族タウンとしての様相を強めている新大久保(東京都新宿区)を取材した室橋(2020)<①>。中国出身者を中心とした外国籍住民が半数に達した芝園団地(埼玉県川口市)に、実際に筆者が居住するなかで見えてきた世界を描いた大島(2019)<②>。同じく団地での移民との共存への課題を、排外主義や入居者の高齢化の課題とも絡めて記述した安田(2019)<③>が挙げられます。

写真1:新大久保「イスラム横丁」のエスニック食品店
写真2:芝園団地(埼玉県川口市)外観 ↑ と 団地内の注意書き(日本語と中国語が併記)→

外国人労働者や外国に(も)つながる子どもたち

 日本で「多文化共生」、ないし「多様性/ダイバーシティ」といったことばで目指され表象されるのは多くの場合、多様な人びとが差異を認め合いながら軋轢なく共に生きる社会です。ですが、実際には制度的、構造的課題から権利が保障されず、困難な生活を強いられ、さらには「見えない存在」となっている状況があるのも事実です。

 ここでは外国人労働者と外国に(も)つながる子どもたちの困難を取材した新聞取材班による図書を挙げます。西日本新聞社(2020)<④>は、留学生や実習生の名の下で外国人を(実質的な)単純労働者として受けている日本社会の負の側面を描き出しています [注1]。この外国人労働者受け入れに関する問題点については、望月(2019)<⑤>に新書として端的にまとめられています。また、外国に(も)つながる子どもたちの教育面での課題について取材しているのが、毎日新聞取材班(2020)<⑥>です。この取材記は、国籍、また、民族・言語・宗教的に「日本人」と異なることを理由に、日本で生活する学齢期の子どもたちが教育や他者との関係性から排除されている現状があること。それが多くの場合、数が少ないことや制度上の課題からかれらの存在が社会的に認識されないことに起因することを浮き彫りにしています。

コロナ禍と移民・外国人

 コロナ禍では誰もがパンデミックの影響を被っていますが、その影響は弱者やマイノリティにより重くのしかかっていると考えられます。図書館サービスに関しても、パンデミック下での対面サービスの提供比率低下がデジタルデバイドや社会的排除の状態にある利用者を取り残してしまうリスクがあるとの指摘があり(Rosales 2021)、社会における脆弱な存在をいかに包摂できるかは喫緊の課題であるといえます。

 鈴木編(2020)<⑦>は、コロナ禍で移民/外国人が直面する困難に目を向け、日本社会の脆弱性がどのような人たちの前に偏ってあらわれるのかを議論しています。毛受(2020)<⑧>はパンデミック以降、つまりポストコロナを見据え、人口減少時代のレジリエンス(復元力、危機対応能力)をいかに高めていけるかを展望する内容となっています。

多文化社会日本を批判的にまなざすために

 最後に、各地域の状況や、各論的な日本社会の現状を知ることから一歩進んで、多文化・多民族化する日本社会をより批判的にまなざすために有用な図書を、数あるなかから1点挙げておきます。

 宮島(2021)<⑨>は日本の移民受け入れの過程、また、「イミグレーション政策」の現状(労働、教育、国籍、地域参加)が、どのように排除の契機を孕んできたのかを問うことで、多文化共生社会のために何が必要か、その条件を論じています。また、ヨーロッパ(主にフランス)との比較のうえでの議論であることから、他国と照らしてどうなのかという日本の相対的な位置づけを知る助けともなるでしょう。


[注]  写真はいずれも筆者撮影。

[注1] 日本は1960年代より、単純労働者を受け入れないという方針をとっている(松下・石川 2022)。

[参考資料・参考文献]

松下秀雄・石川智也,2022,「「すでに『移民社会』の日本」を直視できない私たち~髙谷幸・東京大准教授に聞く(上)」論座,2022年2月14日取得,https://webronza.asahi.com/politics/articles/2022021200002.html?page=2).

Rosales, Nelson. “Public Library Responses to COVID-19: An Investigation & Reflection of Canadian Experiences.” Emerging Library & Information Perspectives, 4(1): 169-185.

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