畑を耕す
07/16/2021
発起人代表兼本サイト編集責任者の中村百合子です。このたび(2021年7月)、本サイトTANE.info立ちあげました。議論のための畑を耕したという気もちです。これから多くの種が撒かれていくと思います。「EDITOR’S Journal」には、編集日誌を時々書いていくつもりです。
2021年春、2018年から3年間、取り組んできた立教大学図書館長の仕事を離れるとき、私は大学図書館での3年間の経験とまた2020年春からのコロナ禍のさまざまな経験を振り返るよい機会をもらったように感じました。そうして思いを巡らせる中で、次のように近年の疑問を整理しながら、これからは過去より広く、より多くの人たちとつながって、これらについて探ってゆきたいと思うようになりました。
- 子どもたちの“探究”を教育者たちはどう支援できるのか?すべきなのか?
- 今後、人びとの“探究”において、図書館はどのような存在になるのか?
新しい学習指導要領、高校の教科名には「探究」の文字が踊っています。しかし、私たち教育者も探究の力をもっているのかどうか、あやしいように思います。探究とは何かというところから、探究する必要がありそうです。
一方で図書館は、インターネット上に多くの情報が見つかるようになった今、はて、これ/ここは何のための場だったかな?と思われるような状況にあるのではないでしょうか。紙の資料の集積の場、読書材の提供の場という図書館という前提は、さすがに日本でも崩れつつあります。が、日本の多くの図書館関係者の間には今も、20年ほど前のアメリカのライブラリアンたちと同じ感覚が案外、残っているのではないでしょうか。つまり、図書館はインターネット上の情報“も”扱う、図書館専門職は過去に身につけてきた紙の資料の収集整理等に関する専門的な知識・技能を応用してインターネット上の情報も適切に扱うことができるという見方であり、態度です。これは20年前に『インターネット時代の学校図書館』(東京電機大学出版会,2003)という本を企画した時に、同書に私を含む編著者らがこめたメッセージでした。当時の北米の図書館情報学大学院、つまりライブラリアン養成の場で叫ばれていたことでもありました。しかしその後のICTの発展や情報流通のグローバル化の進展など、情報環境の変化、コミュニケーションの変貌は激しく、そのような理解はすでに、確実に、OUTDATED(時代遅れ)になっていると思います。
20数年前、ハワイ大学の図書館情報学大学院へ留学していた時、図書館サービスについて、USER-CENTERED(利用者中心)という言葉をいつも聞きました。そして今、日米双方の、社会のあらゆる場面でUX(user experience:利用者の体験)の観点からのサービスの抜本的改善が語られるようになっています。図書館は20世紀の資料整理による制限がつきまとい、UXの向上には限界があるようです。しかし同時に、人間の身体にも限界があり、それゆえ物理的な存在である図書館や印刷資料の価値は残っているような気がします。とはいえ、図書館は、コミュニケーションが急激に変貌する中で、利用者の情報行動における一つのツールでしかないという事実をとうとう受け入れなければいけない状況になっています。インターネットの世界はUXの観点から日々更新されており、人びとにとって、図書館よりも身近な情報探索・発見ツールにすでになっています。図書館も図書館専門職も、過去と同じ原理では人びとからその必要性を認められ続けることは無さそうです。
このサイトを通じて、みなさんとともに、“探究”の意義を確認し、よりよい“探究”の実現に関わり、そして同時に、図書館とは何かということを根本から問い直してみたいと思っています。
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