Editor’s Journey 1 米国NY州シラキュース
10/11/2022
中村百合子です。2022年度秋学期から1年間の在外研究を許可され、9月17日に米国NY州の北部にあるシラキュース大学(Syracuse University: SU)に来ました。この1カ月、バタバタしていて、何かを書くという状況にありませんでした。こちらに来てからアパート探しをして居場所を整え、車の購入をして3週間が過ぎました。この連載では、今のアメリカについて、見たこと、考えたことを書いていこうと思います。今回は、今のアメリカの物価のお話です。
生活費
インフレ、円安が話題でしたので、ものの値段について、恐れに恐れていました。ニューヨーク州北部(Upstate New York)は、日本人の多い大都市に比べればずっと生活費が安いことはもちろん想像してきていますが、実際にどんなものかは来てみないとわからないと思っていました。この3週間の感触は、東京とほぼ同じ額の支出だなというところです。ただ、子どものいない私には、子どもにかかるお金のことは一切わかっていません。よって、端的に言えば住居費と食費の話になります。この、大都市から離れた町(NY市内に車で5時間といったところ)でこれなので、都市部は東京に住むよりもずっと大変だということが想像できます。
賃貸アパート探しはシラキュース大学近辺、具体的には大学の徒歩圏または車で10分もかからないところと決めて、インターネットで数か月前から見ていました。家具を全部揃えるのは非現実的なので,家具付き(furnished)で探しました。しかしインターネット検索では決めきれず、結局、こちらに来て3軒を見せてもらい、最後のところで決めました。どこも日本に比べれば広々した感じなのですが、安くはなく、1ドル145円のレートで日本円にすると、光熱費込みではありますが、20万をゆうに超えます。アメリカの大学の近くには10万~15万でかなりいいアパートが見つかると25年前の経験から思っていた私には、うわーどこも高いなという感じでした。はっきり申しまして、私の見たアパートはどれも、このエリアの中では安い部類のアパートです。平穏を感じられるということが必要十分条件でした。私より少し年上のSUの教員は、昔は大学の近くに、500ドルでまあまあのアパートが見つかったわよねと言っていて、私と同じような90年代の思い出を話していると思いました。アパートは倍以上の価格になり、そこに円安が加わっているということかと思います。私のいるところは、2022年のはじめくらいのレートになれば月に20万円をじゅうぶん切ることになるので、これから年末くらいまでの辛抱だといいなと思っているのですが。
ちなみに、家具と言って、ソファとダイニングセット、ベッド、チェスト、テレビや照明器具をこちらの管理会社は貸してくれました。キッチン用品は、昔は置いていたけれど、今は貸していないとのことで、それをいくらか買った支出が痛かったです。生活用品は、WalmartやTargetというような大手スーパーのほか、Amazon、また救世軍(Salvetion Army)の寄付された中古品を売るお店を使いました。どこも、日本でなら100均にけっこうあるんだよなあと思うと、高いです。こちらもDollar generalといった百均のお店はいたるところにあり、私も行っていますが、実際には価格は1ドル25セントになっていて、200円近いことになります。それ以上の値段の商品も多いです。
食費については、東京にいたときに想像していたとおりになりそうです。過去に私は、アメリカは食材が大きな単位で売られているので、一度の支払いはそれなりになるが、1か月くらいで見ると、日本よりもずっと支出は少なくなるという経験をしてきました。おそらく、食費は、インフレでものの値段があがっていることが加わって、1か月単位で東京と同じくらいになると思います。ちなみに外食は何度かしましたが、最も安い選択肢だろう中南米料理やピザのテイクアウトでも、千円でおいしいものが食べられる日本のようには今のアメリカではいきません。テイクアウトではなく、席に座ってサービスしてもらったら、チップを入れて一人25ドルを最低ラインと考えないといけない感じです。ちなみにアジア料理は…帰国して食べるのがよさそうです。
先週土曜日に納車された車は中古車ですが、この車探しが一番大変でした。中古車の値段は世界的に上がっているようですが、最初、1万ドルを切るような値段の車、それでも150万なわけですが、を入手して、壊れるくらい乗って誰か学生にでもあげて帰ろうと思っていたのですが、そのやり方は適当ではないということが、何軒か中古車販売店を回っているうちにわかってきました。わたしは東京でホンダの、数十万で購入した中古車に乗っていますが、平和です。でも、今のアメリカで1万ドル以下の車って、10万マイル超え、つまりすでに16万キロ以上走ってます。すごく古そうでもう何十万キロも走っていそうな車が平和そうに走っているのをアメリカではよく見かけるので、ああいうのがいいなあと思ってましたけれど、1年という短期間の滞在でその選択をして、しょっちゅう車の修理にお金や時間をかけるというわけにいかないですよね。結局、今までの人生で二番目に高いお買い物をして、これから事故らないように乗って、なるべく高く売って帰国するということにしました。事故を起こしませんように!ちなみに、訴訟国家アメリカの保険には対人無制限などというものはなく、その点、リスクたっぷりです。
車探しは最初、何が欲しいというのがなかったので、ネットで評判のよい中古車販売店を回って、営業さんに予算や事情を話して、試乗(test drive)をほんの少しさせてもらいました。英語で車の購入についてネットで調べると、「used car salesman」(中古車販売セールスマン)というのが、饒舌で信用できない人の代表のように書かれているので、どんな人たちかと思っていました。まあ、確かに結果としてそうなってしまうこともあるのでしょうが、こういう大都市ではないところで長く商売をやっている人たちがまったく信用ならない人たちなわけもないのではというのが私の考えです。最初に会っていろいろ教えてくれたシニアと言ってよいだろう営業さんは、「inegrity」を大事にしている、つまり誠実にやっていると自分(たち)のことを言っていました。「I work hard for you!」と別れ際に言われたのが印象的でした。「がんばります」ってことですよね!?いろんな営業さんに出会いましたが、みなさん、よくしてくださったと思ってます。ちなみに、1万ドル以下で探していると言うと、どこでも、それならホンダと言われます。ホンダは日本で乗ってるからつまらないなあと言うと困ったなあ…となる。トヨタ、スバル、日産はこの価格帯ではありませんでした。アメ車はなぜか(日本人が相手だからか)勧めてこない。あとはワーゲンを勧めてきます。ドイツ車はアウディやベンツの古いものもこの価格帯にけっこう出ていますが、結局、ガソリンがハイオクになり、故障となれば部品が高価になるということで、乗り心地はやはりいいですが、営業マンは積極的には勧めてきません。雪のたくさん降るこの地域ではスバルの評価がべらぼうに高く、私も試乗ですっかりファンになりましたが、これもまたほんとうに値段が下がってません。今のところまだ、概して日本車への評価はとても高く、run forever(永久に走る)と思ってもらえているのだと思いました。
なんと8軒も回ってやっと欲しい車種とこのくらいの予算でというのが決まって、一晩それで在庫を検索して、翌日隣町まで9軒目を訪ねて行き、その場で決めました。担当してもらった営業マンは、こちらから聞かない限り何も教えてくれない、どちらかと言うと無口な若者でした。アメリカの中古車業界も、ネットが出てきて、営業スタイルから何から変わってきているのだろうと思いました。ネットがある今、価格も条件もかなり、ネット上で比較できてしまいます。ピンポイントで一台を見に来たような人に饒舌に営業する意味はあまりないと思う若者がいても驚きません。回ったところのほとんどは地元密着のお店で、正規ディーラーは高いように思われて一軒も行きませんでしたが、一軒、EchoPark Automotiveというアメリカで広く展開されている中古車販売店に行きました。新古車のような新しめきれいめの車を多く扱っていて、価格は表に出されているところから変わらない、徹底的に情報を開示するという販売方法のチェーン店です。そこで出会った営業さんは、元は空軍で働いていたという真面目そうな方で、中古車業界にはあまりよくない人たちもいるから気をつけてというようなことを言ってくれました。素人はほんとうはこういうわかりやすい会社で買うのが安心なのだろうと思いました。回った9軒のどこでも、私には価格交渉はまったく無理というのが私の感触でした。
学費
米国の大学がいっぱんに学費があがってきていることはもちろん聞いてきていましたが、SUは米国の大学の中でもとっても高いグループで、正規学部生でなんと年間5万ドルをゆうに超えています。大学が試算している学部1年間の学修経費は、なんと87,070ドルです(大学発表データ)。1千万円じゃ済まないという話です。情報学修士号(図書館情報学のコースなどがこの傘の下にある)は6万ドル強のようなので(大学発表データ)、学費だけなら日本円で1千万程度です。
こんなアメリカの私立大学に日本から留学ってできるのかなと思います。キャンパスでよく見かけるのはインド出身と思しき学生で、中国語もたまに聞こえてきます。今のところ日本語は聞いてません。学生も教員も白人がどう見ても半数を超えています。ちなみに学生数は、立教とほぼ同数の2万人強です。ただし院生の割合がSUは約30%、立教大学は約5%。学生-教員比率は、SUが15:1で立教は約40:1。院生が多いSUの方がこの比率はよくなりますよね。
私が留学してからいろいろな場所で出会った日本人は、社会人を何年かしてお金を貯めて、学費の安い大学を選んで留学している人がほとんどで、あとは奨学金か会社が出しているかだったと思います。留学費用の工面の大変さはいつも変わらないような気もします。ただ、今のアメリカに来ることに価値を見出す日本の若者がどれだけいるかというと、きっと昔よりずっと少ないでしょうね。
治安
シラキュースのローカルニュースサイトSyracuse.comのニュースを見ていたら、今年の4月に書かれた「シラキュースにおける子どもの貧困」と題したニュースに出会いました。人口10万人以上の町の子どもの貧困率で、シラキュースは48.4%で、全米1位だと言うのです。ただこの種の数字は、子どもがいて大学院に通うような人も含まれている数字で、大学が複数あって存在感の大きい町では高くなる傾向があるようです。一方でFBIの犯罪率ではシラキュースはまったく上位に出てこないそうです(Syracuse.comの2019年の1月記事)。シラキュースは家が安く買えて生活費も安いから、全米統一の貧困率指標は意味をなさないと、私がこれについて聞いた大学関係者は答えてくれました。どうなんでしょう。これからよく見ていきたいと思ってます。
実際、この町では大都市のような緊張感は必要ないし、私は勉強にいいのどかさだなあと感じます。でもこれは一方で、特に若い学部生たちは、大学に閉じ込められるというか、大学の特に人間関係がここでの生活のすべてを決めてしまうようなところがあるのではないかと思います。キャンパスに隣接するエリアに住んで学生たちを見ていると、キラキラした学生ばかりに思われて、裏を返せば、私には見えていないスクールカースト的なもの(cliques)があって、目立って目に入ってくるのはキラキラした学生だけなのかもしれないなと思います。
図書館は…
シラキュースに到着してこの3週間は、私にとっては勉強の環境づくりの期間だったと思っています。SUの図書館については、二つのオンラインの新入生向けと思われるセミナーに出て、オンラインの資料やツールの使い方を学び、アカウント設定をしました。公共図書館は徒歩15分ほどの分館を見に行ってみました。まだカードは作っていません。利用者としての経験が増えてきたところで、何か報告ができればと思っています。
それから、SUの情報学大学院(iSchool)については、一度、教員会議とそれに続いたFDのような集まりに出させてもらいました。こうした会議にはまた出させてもらってゆくつもりです。また、少しずつ、いろんな教員と交流していこうと思っています。そうした報告も、改めてできればと思っています。
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